滅龍四天王『空竜』ジラント①/空の竜
エミネムは風神器『ビーナスゴスペル』をすでに手に持っている。
大してジラントは、ポケットに手を突っ込んだまま。
見てくれは十六歳くらい。まだ少年の見た目だが、実年齢はもっと高いはず。
俺は二人を眺めていると、スレッドが隣に並ぶ……ちなみにフルーレ、気を失ったサティを介抱するため、少し離れた場所にいる。
「エミネム、あいつは強いぜ」
「ああ。サティと違うのは、あいつは神器の持続時間が桁違いに長いってことだ。エミネム……普段使いの武器も神器にしているくらいだしな」
装飾の施された槍。
一本を手に、そして周囲には五本の槍が浮かんでいる。
旋風六槍流……エミネムが作り出した、風の槍の戦闘法。
「では、参ります!!」
竜巻を纏い、エミネムが走り出す。
「へえ、風……さっきの雷といい、人間は多彩だね」
「旋風六槍流、『六連連牙』!!」
五本の槍が真横に浮かび高速で月を繰り出す。そして、エミネム自身も槍で高速突きを放つ。
すごい動きだ……風で槍を制御しているが、以前と比べ物にならないくらい洗練されている。
だが、ジラントもやる。
「───っく!!」
「遅いよ」
連突きを放つ槍の一本を、両手をポケットに突っ込んだまま蹴り飛ばす。
そして、もう一本の槍を素手で掴むと、残りの槍を一気に薙ぎ払った。
「は、はや……」
「これ、トップスピード? だったらもう終わりだね」
ジラントは槍を投げ、その場で回転蹴りを放つ。
エミネムはビーナスゴスペルで受けるが、その威力に吹っ飛ばされた。
「もうちょっと頑張ってよ。ボクさ、ウェルシュみたいに熱くなりたいんだよね」
すると、ジラントの背中から大きな翼が、そして両足がドラゴンの足になり、ツノが生える。
手はポケットに入れたまま……こいつもハーフの竜人か。
ジラントはゆっくり浮き上がると、翼の周りに風が集まっていく。
「きみ、風の力を持つんだろ。ボクは空竜……カジャクト姐さんに認められた、空の竜。さぁ、きみの風とボクの風、どっちが激しいか勝負しようじゃないか」
「───いいでしょう」
槍に風がまとわりつき、小規模の台風となる。
そして、エミネムの身体が浮かび上がると、とんでもない速度で上昇した。
ジラントもニヤリと笑い、上空へ消える。
俺たちは全員、首を傾け上を見ていた。
「……おっさん、見える?」
「ああ、俺の眼はいいからな。お前らは……ちょい無理か」
「……」
スレッドは目を細め、ロシエルは見てもいない。
カジャクトたちは上空を見ていた。あいつらも見えるのだろうか?
「よし、俺がどうなってるか解説してやろう」
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
エミネムは、上空を高速で飛び回っていた。
「三槍───『参閃突』!!」
槍の二本は飛行で使い、残り四本を攻撃に回す。
攻撃の手数は落ちた。そして飛行にも風を維持しなくてはならない……はっきり言って戦力ダウン。そもそも、人間は空を飛べないし、こんな風に戦えない。
現に、飛ばした槍は全て躱され、ジラントが急接近する。
「『飛爪』!!」
「っぐ!?」
ドラゴン化した足の爪による強襲。エミネムは何とかビーナスゴスペルで受ける。
(生半可な攻撃は無意味!! 隙を突いて攻撃しないと……!!)
エミネムは飛行に四本、両手に二本の槍を持つ。
槍を増やせば飛行速度は上がり、精密性も上がる……だが、攻撃力は相当低下していた。
「へえ、速いじゃん。たぶん、四天王の誰よりも」
「それは、どうもっ!!」
空中を複雑に動き回り、ジラントを攪乱……だが、ジラントは意に介さない。
エミネムのフェイント全てを読み、先回りして動き回る。
ジラントは「はっ」と笑う。
「もっと速度出しなよ!! こんな風にさぁ!!」
「───ッ!?」
残像。
ジラントがあまりにも速く、空中で増えたように見えた。
そして、超高速で残像を生み出しながらの攻撃。
「『残像飛爪』!!」
「うぐっ!? ぅあっ!?」
ガガガガガ!! と、両足による襲撃が空中で何度も繰り出される。
エミネムは槍で防御するが、全てを捌くことができず血が飛び散った。
背中、右肩に薄く爪が引っかかり、傷を負う。
「う、っぐ……」
「ははっ、これ避けるなんてすっごいじゃん。ちょっと食らったみたいだけど……きみ、虎の眷属みたいな単細胞とは違うね!!」
「はぁ、はぁ……ふぅぅ、お褒めの言葉、光栄です」
エミネムは───槍を五本、飛行に回す。
残るビーナスゴスペルを回転させ構え、ジラントに突き付けた。
「これで、さっきより速いです」
「へー、楽しみ」
竜巻が荒れ狂い、エミネムの姿とジラントの姿が消え、空中で何度も衝突をする。
途中、血が飛び散った……エミネムが裂かれ、血が噴き出したのだ。
だが、止まらない。
「すっごいよお姉さん!! はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「───そこぉ!!」
「ッ!?」
ザクッ、と……ジラントの右足に、ビーナスゴスペルが突き刺さる。
一瞬、ほんの一瞬だけ、エミネムがジラントを上回った。
一瞬見えた隙を突き、文字通り槍で足を突いた。
「っつ……やるじゃん。もう、マジで行くよ!!」
「私も──限界を超えます!!」
エミネムがビーナスゴスペルを手放すと、六本の槍全てに風がまとわりつく。
風が竜巻となり、エミネムの周囲を包み込む。
攻撃用の槍すら手放し、機動力とする。
「いきます!!」
「いいね、楽しいよ!!
空中戦──決着は、もう間もなく。





