滅龍四天王『赤竜』ウェルシュ②/雷と炎
雷と炎。
異なる二つの属性。
人間、そして竜人……全てが異なる者の戦い、か。
「『雷磁集鉄』───【砂鉄】!!」
サティは地面にある砂鉄を集め、まるで水のように空中で操る。黒い砂鉄は波打つように形状を変え、いくつもの『槍』となり磁力で硬化。それだけじゃない、さらに『雷』を纏わせ、『紫電の砂鉄槍』が合計二十本、ウェルシュに向かって放たれた。
だが、ウェルシュ……ハーフの竜人は、息を吸って炎を吐くと、鉄の槍が一気に消滅する。
「ヌルい!! 女なら、接近戦でしょうがぁ!!」
「ッ!! 『雷人形態』!!」
サティは全身に紫電を帯びると、接近して爪を振り回すウェルシュの攻撃を捌く……が、強化した状態でも速度はウェルシュが上だ。
少しずつ、少しずつ、攻撃が掠るようになり、血が流れる。
すると、俺の隣にいたフルーレが歯噛みしていた。
「……」
「飛び出すようなら、止めるからな」
「……あなた、平然としていられるのすごいわね。あなたの弟子でしょ?」
「そうだな。でも……その理由、わかるだろ」
「まあね」
そして、サティの斬撃が素手で止められる。
双剣が、ウェルシュの手で掴まれる。そして、ウェルシュは尻尾を振り、無防備なサティの腹に直撃させた。
「あ、っが……ッ!?」
尻尾を食らったサティが吹っ飛んでゴロゴロ転がる。
双剣を手放してしまう。ウェルシュは掴んでいた双剣を遠くに放りなげ、サティに向けて言う。
「ほらほら、まだまだこれからだろ? アタシ、まだ燃えたりないんだよ!!」
「っぐ……そう、ですね」
サティは起き上る。
そして、ウェルシュに向かって言う。
「あなたの攻撃、重くて……熱いです。本当にすごい……!!」
「当然でしょ」
「……炎だけじゃない。あなたの、ウェルシュさんの情熱が、あたしをも燃やしてくれる!!」
「はっ……サティ、やっぱりあんたのこと好きだわ。戦いの中で、アタシの想いを感じ取れるヤツ、そうはいないからね」
「はい。だから、あたしも……あたしの想いで、ウェルシュさんを痺れさせてやります!!」
サティの全身から雷が立ち上る。
「───使うのね、サティ」
フルーレがポツリと言うが……その顔は、笑っていた。
俺も笑っていた。
「さぁサティ……修行の成果、見せてやれ」
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
サティの全身を紫電が覆う。
そして、サティは両手を前に突き出した。
すると───紫電が形となり、頭部、右手首、左手首、左足首、右足首に勾玉のリング、そして紫電に輝く胸当てとなり装備される。
さらに、両手に握られるのは、雷が形を成したような形状の双剣。
スキル『神雷』の神器が、そこにあった。
「これがあたしの雷神器!! 『八極天満武神雷帝』です!!」
紫電が色を変え、黄金となり輝く。
サティの銀髪もまた、黄金に輝く。
全身が雷の塊。この『変身』にエミネム、スレッドが仰天、ロシエルですら目を見開いた。
「さ、サティ……神器を」
「スッゲぇ……」
「…………」
フルーレ、ラスティスだけが「当然」とばかりに微笑んでいた。
そして、フルーレは言う。
「さぁサティ……見せてやりなさい。あなたの『雷』を」
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「『鳴雷』、『伏雷』!!」
サティの両脚部のリングが輝き、下半身が雷となる。
そして、雷となったサティの速度は、音よりも速い。
「ッ!?」
一瞬、視認すらできない速度でウェルシュの懐に潜り込み、双剣でウェルシュの腕を斬る。
「は、やっ……!? 人間がそこまで速く!? ってか、そこまで速いと、アンタが反応できないんじゃ……!?」
「そうですね。でも、この『大雷』の力で、思考も雷並みです!!」
頭部のリングが輝く。
翼を広げ距離を取るが、サティはすぐに追いつき双剣を振るう。
その腕を振る速度が、尋常じゃない。四肢が雷と化し、音速の速度で振られている。
「『若雷』、『山雷』!! ──『紫電双剣乱舞』!!」
「グッ……!? このっ!!」
ウェルシュが炎を吐く……だが。
「『火雷』!!」
全身が雷に変化し、攻撃がすり抜けた。
これがサティの神器、『八極天満武神雷帝』だ。身体を雷にして、戦闘力を爆発的に向上させる超戦闘用神器。
たまにあるんだ。こういう、とんでもない力を持つ神器が……でも、こういう超戦闘型には共通して、ある弱点がある。
その弱点、ウェルシュは速攻で気付いた。
「はっ、消耗が激しいね!! あんた……その力、長く持たないね?」
「ぜっ、ぜっ、ぜっ……」
大汗を流し、肩で息をするサティ。
このまま時間切れまで、残り数分……いや、神器に覚醒したばかりのサティじゃ、一分持たない。
時間切れになれば、サティは負ける。
そうなれば……サティは、殺されるだろう。
「サティ、あとどのくらい持つ?」
「……い、っぷん!!」
「なら、ケリ付けるよ!! 本気の技で来な!!」
「───……ッ、はい!!」
これには、本気で驚いた。
まさか……サティの全力が持つ間にケリ付けたいなんて、言うとは思わ……いや、そうか。
竜人は魔族だ。でも……戦闘に関しては、人間よりも誇り高い。
全力を出すサティへの敬意。いや、もしかしたら……ウェルシュが単純に、サティの全力で痺れたいだけかもしれないな。
「行くよ、サティ!!」
ウェルシュの全身がこれまでにないくらい燃える。
「『赤竜』!!」
自身の二つ名に冠する技。炎は竜となり、上空に一気に登る。
そしてサティ。
「輝け、雷神!!」
全てのリングが身体から外れ、双剣と合体する。
そして、雷がサティを包み込む──いや、それだけじゃない。
この場にいる俺たち全員が気付いた。最初に叫んだのは、フルーレ。
「あの子、まさか……り、『臨解』するつもり!? バカ!! 神器と臨解の同時使用なんて、団長やランスロットじゃあるまいし!!」
「待て」
俺は止めた。
驚くフルーレたち。
「信じようぜ。サティはきっと、できる」
「……そういえばあの子、あなたの弟子だものね」
それで納得したのか、フルーレは肩をすくめた。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
蛇のような『炎の竜』が、上空から落ちて来る。
サティは、直撃すれば骨も残らないと感じていた。
同時に──自分に対し、ここまで本気になってくれるウェルシュに、敬意を表する。
「だからあたしも、全てを賭けます!!」
身体の内側から湧き上がる力が、胸から弾け飛びそうな感覚だった。
その力に身を委ね、サティは叫ぶ。
「『神雷臨解』!!」
身体に宿る『神スキル』を解放する、多くのスキル持ちがいる中で、『神スキル』を持つ者にしか使えない、人類が持つ最強の力。
サティの身体から、雷が飛び出す。
そして、全身を包み込み──雷が鎧武者となり、完全な形となる。
「『斗羅王武御雷』!!」
サティの中に眠っていたスキル『神雷』が、完全に顕現した。
そして、サティが持っていた双剣を手に、落下してくる『赤竜』を真正面から迎撃する。
「オォォォォォォォ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ウェルシュの叫び、サティの叫びが混ざり──鎧武者の双剣が、赤竜を両断した。
そして、炎が消え……ウェルシュが地面に転がる。
臨解を解除したサティは、フラフラになりながらウェルシュに近づく。
すると、仰向けになったウェルシュが、サティに向かって微笑んだ。
「アタシの負け!! アンタの勝ちよ!!」
「───はい!!」
サティは双剣を掲げる。
こうして、ウェルシュとサティの戦いは、サティの勝ちとなった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
フラフラになりながら、サティは俺の元へ戻って来た。
「し、師匠……か、勝ち、ました」
「ああ、見てた。ド派手だったぞ。そして……本当に、強くなった」
「……あ」
俺はフラフラのサティを抱きしめ、頭を撫でた。
「お疲れ。そして、おめでとう……あとで、好きなだけ肉食わせてやるからな」
「……うっ、うぁぁぁぁん!!」
緊張の糸が切れたのか、サティは子供のように泣き……そのまま気を失うのだった。
お疲れさん。サティ……本当に、強かった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「姐さん、みんな……ゴメン」
ウェルシュはカジャクトの元へ戻り、頭を下げた。
ボロボロだったが、カジャクトはウェルシュにデコピン。
「あんた、あの子が全力出せる間にケリ付けようって言ったでしょ」
「……うん」
「「「…………」」」
ウェルシュは俯く、そして仲間の三人は何も言わない。
だが……カジャクトは笑った。
「そういうことろが最高よ。出すもん出して負けた。でもあんた、全然折れてない。次は勝てる?」
「……全力出して負けた。次があること自体が奇跡……でも、次があるなら勝つ。それと……変な話だけど、サティとは殺し合いじゃなくて、高め合いたい」
「いい!! その気持ちがあれば、あんたは勝てる!! ウェルシュ……これは、意味のある敗北。誇りを守り勝つ戦い!! よくやったわ、さすが私の眷属!!」
「あ、姐さん……」
「今夜は可愛がってあげる。休んでなさい!!」
カジャクトは、ウェルシュの背中をバシッと叩く。
ウェルシュはボロボロ泣き出し……その隣を、少年のような竜人が横切った。
「姐さん、次はボク」
「ジラント……」
「ウェルシュを見て、すごくゾクゾクしてる。ボクもあんな風に戦ってみるよ」
「そうね。期待して──るっ!!」
「いてっ!?」
カジャクトに背中を叩かれ、ジラントは前に出た。
そして向こう側から、エミネムが出てくる。
互いに向かい合うと、エミネムは言う。
「良き戦いを」
「うん」
憎しみでも、怒りでも、恨みでもない。
サティとウェルシュの誇り高き戦いを見て、エミネムとジラントは静かに燃えていた。





