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閑話⑦/土下座ドラゴン

「「申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!」」


 ウェルシュ、グイバーの土下座。

 椅子に座って足を組み、楊枝で牙と牙の間をほじる『滅龍』カジャクト。

 ジラント、ラドンは冷や汗を流し、土下座する二人を気の毒に思っていた。


「で……ヒマつぶしに行った町はラスティス・ギルハドレットの街で、お祭りに乱入したらラスティス・ギルハドレットがいて、気付くことなく喧嘩売った……と」

「「……そ、そうです」」


 土下座したままのウェルシュ、グイバーの声が重なる。

 ラスティス・ギルハドレットに出会ったことは内緒にしようとした二人だが……カジャクトが目覚め、二人の匂いをクンクン嗅ぐと、あっさりバレてしまったのである。

 なので、こうして土下座をしているわけだが。


「さて、どっちから死ぬ?」


 カジャクトは笑顔だった。

 真っ青になるウェルシュ、グイバー……だが、カジャクトは言う。


「冗談よ。まあ、勝手に行ったのはムカつくけど、別にキレてないし」

「「…………え」」

「で、どうだった?」

「どど、どう……とは?」

「ウェルシュ、アンタが戦ったんでしょ。ラスティス・ギルハドレットはどうだった?」

「え、えっと……戦ってはいないです。その、戦う直前で気付いて、姐さんの獲物を横取りするわけにはいかないから、撤退しました」

「ふーん……で、強いのいた?」


 ウェルシュ、グイバーは顔を見合わせる。


「オレが戦ったのは糸で戦ってまして……まあ、そこそこ」

「あたしの方は雷で、こっちは未熟だったけど、あと数年したらバケるかも」

「あとは……まあ、そこそこ強そうなの、二人くらい」

「あ、あたしも思った」

「合計四人ね。うんうん、じゃあ……ちょうど四人いるし、任せるわ。私はラスティス・ギルハドレットを倒す」


 カジャクトが拳を打ち付けると、ラドンが挙手。


「あ、あの~……もう行くんですか?」

「まだよ。せっかくだし、挨拶行くわ。飯食べたら全員で行くわよ」

「あ、挨拶って……」

「いきなり襲うような馬鹿はしない。やるなら正々堂々、思いっきり、準備してね」

((((……姐さんが理性的だ))))


 四人は同時に同じことを思ったが、誰一人として口出しする者はいなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 食事を終え、カジャクトと四人の部下は、ギルハドレット領地に飛んだ。

 そして、堂々と正門を抜け街の中へ。

 街中は、すでに祭りの片付けが始まっていた。


「なにこれ、何かあったの?」

「昨日まで、お祭りやってたんです」


 ウェルシュが言うと、カジャクトの眉がピクリと上がった……どうやら、興味があったらしい。

 だが、フンと鼻を鳴らし、街をズンズン進む。

 行き先を聞いたりはしない……何故なら、強者の匂いはすでに感じているから。

 そして、到着したのは領主邸。領主邸に到着するなり、ラスティスが飛び出してきた。


「……お前は」

「久しぶり。昨日は、部下が迷惑かけたわ」

「……まあ、いいさ。楽しい催し物だったぜ」


 ラスティスはすでに剣を構えている……が、カジャクトが止めた。


「待った。ここで戦いはしない。街が滅茶苦茶になるでしょ」

「……随分と、気遣ってくれる」

 

 すると、屋敷からサティ、フルーレ、エミネム。そしてロシエルが飛び出してきた。

 ラドン、ウェルシュ、グイバー、ジラントが警戒するが、カジャクトが手で制する。そして、屋敷の屋根からスレッドが飛び降りてきた。


「よお、美人さんじゃねぇか」

「お前、なんで屋根にいるんだよ……」

「ま、別にいいだろ。仕事終わって今はフリー、敵対する理由もないぜ」

「あ、お兄さん!!」

「よぉ~うサティちゃん、お兄さんとまたメシでも行かない?」

「行きます!!」

「こら、そんな場合じゃないでしょ」

「あう」

「……ラスティス様、ロシエル様。どうしますか?」


 エミネムが言うと、ラスティスとロシエルは視線だけ合わせた。


「……ロシエル、カジャクトは俺がやる」

「……ん」

 

 すると、カジャクトがまたも手で制する。


「だーかーら!! ここじゃやらないって。今日は挨拶だけ。あのね、私をビャッコみたいなクズと一緒にしないでよ。人間みたいに美味しいご飯作れる種族を殺そうなんて思ってないし。ねえ?」

「「「「その通り」」」」

「なんだよその統一感……まあ、わかった」


 ラスティスが構えを解くと、サティも解き、エミネムとフルーレ、スレッドも解く……だが、ロシエルだけは警戒を解いていない。

 カジャクトは言う。


「ね、ラスティス。ご飯食べない?」

「……………………は?」


 今日いちばん、ラスティスは困惑した表情を見せた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「あ、おかわりー!! 肉大盛でね!!」

「こっちもよ!!」

「オレは酒を」

「オレも」

「ボクは果実水」


 カジャクト、ウェルシュ、ラドン、グイバー、ジラント……五人の竜族は、屋敷近くの焼肉店で豪快にメシをかっ喰らっていた……いや、俺の奢りで。

 聞き違いじゃなく『飯食いに行こう』って言った……なんだこれ。ホントにメシ食うだけ?

 すると、俺の傍にあった『冥狼斬月』から声がして、カジャクトが手に取った。


『カジャクトは、いい奴じゃないけど悪い奴じゃない。まあ、馬鹿なんだよね』

「ん? あ、ルプスレクス!! なによ、喋れんの?』

『触らないでくれるか? ッボクはラスティス以外に触れられたくない』

「ふーん。まあいいわ」


 店を貸し切ってよかったぜ……こんな怪物どもと一緒にメシとかやばいぞ。

 当然だが、サティたち弟子、スレッド、ロシエルも一緒だ。

 最初は、サティたちと一緒にステージに現れた竜族について話していたんだが、途中で『近くにいたからきた』とロシエルが参加し、『借りを返すぜ』とスレッドが声だけで参加していた。

 まさか、堂々と乗り込んでくるとは思わなかった。


「さて、さっそくだけど……ラスティス、いつ戦う?」

「……戦うのは確定なのか」

「ええ。それにどのみち、魔王様とかあんたのこと狙ってるわ。でっかい戦いは避けられないわよ」

「……魔王、か」

「私は、正々堂々とマジで戦うから。最初は邪魔する奴らはこの四人に任せようと思ったけど……どうやら全員、そんなことしなさそうね」


 サティは焼肉をおいしそうに食べ、フルーレとエミネムは警戒、スレッド、ロシエルも警戒を崩さずに肉を食べていた。


「で、どうする」

「……わかった。戦おう。俺とお前、一対一で」

「いいわ。でも……そこの二人は、戦う気満々みたいよ?」


 と、スレッド、サティを見た。


「おいそこの毒坊や……借り、返させてくれねぇか?」

「別にいいけど。姐さん、いいよね?」

「赤いお姉さん!! あたし、もう一回戦いたいです!!」

「強気なの嫌いじゃないわ。相手してあげる」


 スレッドはともかく、サティもかい。

 意外にも似てる二人……まあ、いい。竜族は領域を使えないし、ガチンコ対決ならまだ何とか。

 すると、ジラント、ラドンが挙手。


「あのさ……ボクもやりたくんなった。そっちのお姉さん、どう?」

「私ですか……挑まれたら受けるのは、騎士の務めですね」

「……そこのお前、どうだ?」

「……いいよ」


 エミネムがジラント、ラドンがロシエルを指名した。

 すると、フルーレ。


「のけ者ね……悔しいんだか、嬉しいんだか。下手に街を襲って大暴れするならともかく、一対一で戦うなんて言い出すとはね。しかも、堂々と乗り込んで、焼肉屋で一緒にご飯食べながら……魔族のイメージがガラリと変わったわ」

「フルーレ、お前はどうする?」

「記録するわ。魔族との戦いを全て……王都に報告する必要もあるしね」

「よし……」


 俺は箸を起き、全員に聞こえるように言う。


「総当たり戦だ。カジャクトと俺、サティとウェルシュ、グイバーとスレッド、ラドンとロシエル、エミネムとジラントで、決闘をする。カジャクト……戦いの場は、俺が用意していいか?」

「いいわよ」

「わかった。誰の邪魔も入らない、全力で戦える場所を用意してやる。そこで、満足いくまで戦おう」

『竜族は誇り高い馬鹿、か……やれやれ、ある意味気持ちのいい連中だよ』


 ルプスレクスがそんなことを呟いた。

 でも、ビャッコみたいに進軍したり、大暴れするよりマシだ。

 

「言っておくけど、私たちは殺すつもりで行くわよ」

「構わない。それと、戦いまでもう少し待ってほしい」

「えー? どのくらい?」

「……一か月、いや二週間……どうだ?」

「まあ、いいわ。その代わり、移動するの面倒だから、私たち街に滞在するから」

「おう。俺のツケで好きなだけ飲み食いしていい。宿も手配する」

「いいわね。じゃあ、世話になるわ」


 こうして、カジャクトたちと全力で戦うことになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 カジャクトたちの宿を用意してやると、全員が帰った。

 残された俺たちは屋敷に戻り、対策を練る。


「運がいい。周りに被害を出すことなく、戦える……というか、あいつらがお人好しなのか、馬鹿なのか……まさか、全員で乗り込んでくるなんて思わなかった」

「同意。で……どうするの?」

「決まっている。戦いの場はいくらでもあるから……サティ」

「は、はい!!」

「今のお前じゃ、ウェルシュには勝てない」

「……!!」

「よくあんな啖呵切ったもんだ。とにかく、喧嘩売ったのは仕方ない……サティ、二週間ある。お前は二週間で『神器』を覚醒させろ。それがお前が生き残る唯一の方法だ」

「じ、神器……」

「断言する。決闘となった以上、お前が死のうとも俺は手を出さない。向こうが堂々と乗り込んで、なおかつこっちのルールに従うって言ってくれたんだ。それを破るのはビャッコ以下のクズだ」

「……っ」


 サティは息を飲む。エミネム、フルーレも同じ気持ちなのか、黙り込んでいた。


「フルーレ。明日から本気でサティと戦え。殺す一歩手前くらいまで追い込め」

「……いいの?」

「ああ。お前の神器覚醒にもつながる」

「わかったわ」

「スレッド……お前も『神器』を使えるんだよな」

「まぁな」

「だったら、エミネムを鍛えてやってくれ」

「おいおいおいおい、オレは借りを返すだけで、お前の仲間になったつもりはないぜ?」

「スレッドさん、あたしからもお願いします!!」

「サティちゃんに頼まれたら仕方ねぇなぁ!!」


 この二枚舌め……まあ、やる気になってくれたならいい。


「ロシエル」

「……なに」


 ロシエル。たまたまギルハドレット領地の近くにいて、魔族の気配を察知して来てくれた。タイミングよすぎるが、今はどうでもいい。


「お前は俺と戦うぞ。本気で、命懸けで。それくらいじゃないと、魔族……竜族には勝てない」

「…………わかった」

「残り二週間、全員、気を引き締めていくぞ」


 こうして、残り二週間……竜族との戦いに備えて、本気の修行が始まった。

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