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脇役剣聖、ミルキィちゃんと歩く

「さーて、どこ行く?」


 領主邸を出て、さっそくミルキィちゃんに聞いてみた。

 ミルキィちゃんは少し首を傾げ、人差し指を顎に当てて言う。


「そうだなぁ~……甘いの食べたいかもっ。オジサマ、領主なんでしょ? おススメのお店ある?」

「あ~……すまん。確かに俺は領主だけど、ここに住んでるわけじゃないんだ」

「え、そうなの?」

「ああ。ハドの村っていう、魔獣がよく出る森が近くにある村に住んでてな……そこで定期的に魔獣退治をしてる」

「へぇ~」


 ミルキィちゃん、あまり興味がなさそうだ。まあ、若い子にはわからんか。

 

「じゃあ、お散歩しながら、出店まわろっか」

「ああ。金は俺が出すから、好きなの食べていいぞ」

「やたっ、ありがとオジサマ」


 ミルキィちゃん、笑うと可愛いな……まあ、十五歳の女の子に欲情するわけないが。あくまで、可愛い女の子って意味で可愛い。

 というわけで、ミルキィちゃんと一緒に並んで歩く。

 領主邸から少し歩いただけで、祭りの喧騒がすごい。


「いや~……賑わってるな。こんな賑わっているの、俺が領主になってからは初めてだ」

「そうなんだぁ」

「ああ。いろいろ開拓も進んでいるし……やれやれ、忙しくなるな」

「ふふ、じゃあオジサマも骨休めしないとねっ」

「そうだな。はぁ~……温泉行きたい」

「温泉。確かにね~」


 ミルキィちゃんとダベりながら歩き、露店を巡る。

 肉串、飴、フルーツドリンク、パン……なんでも売ってるし、ミルキィちゃんは何でも食べた。

 色眼鏡、帽子をかぶっているから表情はよくわからないが、咀嚼する口がとても幸せそうに動いているのが何とも可愛い。

 ミルキィちゃんは、肉串を食べながら言う。


「ん~おいしいっ、お塩利いてて最高っ!!」

「ははは、おいしそうに食べるね」

「うん。ボク、肉串好き……あ」

「……ボク?」


 一人称、ボクなんだな。

 ミルキィちゃんはそっぽ向き、肉串を食べる。

 

「あ~……俺は何も聞いていない。忘れるから安心してくれ」

「……なら、いいけど」

「ははは。じゃあ、もっと食うか?」

「いい、お腹いっぱいになったしね。オジサマ、お散歩したら帰ろっ」

「ああ。そうだ……流行の店とかは知らんけど、いい場所なら知ってる。ここから近いし行くか?」

「いい場所?」

「ふふ、行ってのお楽しみだ」


 というわけで、俺はミルキィちゃんを連れて歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 向かったのは、街の裏通りを抜け、長い階段を上ったところにある公園だ。

 高い位置にあるので、街が良く見える。

 しかも、裏通りを抜けた先にある階段がけっこうキツイので、人があまり来ない場所だ。

 階段を上り終えると、ミルキィちゃんは言う。


「わぁ~……町が見渡せるねっ!!」

「ああ。というか……すごいなミルキィちゃん。けっこう階段上ったのに、息切れしてないとは」

「え、えっと……鍛えてるからっ」

「ふうん。歌手も体力勝負なんだな」


 適当に言い、俺はベンチに座る。

 この公園、周囲を囲う柵とベンチくらいしかない。ミルキィちゃんは柵に寄りかかり、街を眺めていた……絶対に言わんし見ていないが、前のめりになっているのでスカートからパンツ見えてる。

 俺は観ないフリをして、ミルキィちゃんに近づく。


「どうだい、ギルハドレットの街は」

「いいところだねっ……すっごく、いいところ」

「だろ。まあ……俺もつい最近知ったんだけどな」

「え?」

「いろいろあって、やる気なくしてた時期があってね……ははは。部下や弟子たちに叱咤されて、こうして開拓を始めたってわけだ。と……おっさんの話聞いてもつまんないよな。ミルキィちゃんのこと、聞かせてくれや」

「……え、えっと」


 なんか言いにくそうだ。

 やっぱ歌手のプライベートを聞くのはまずいかね。


「悪い、冗談だ」

「あ……うん、ゴメンなさい」

「ははは。よし、そろそろ帰ろうか。いい感じで息抜きできたかな?」

「うん、ありがと、オジサマ───……」


 と───ここで、突風が吹いた。

 

「きゃっ」


 ミルキィちゃんの帽子が飛ばされ、慌てて押さえようとしたせいか眼鏡も落ちた。

 蜂蜜色の髪が風に流れ───俺は妙な既視感に囚われた。


「……ん? ミルキィちゃん……?」

「わわっ」


 ミルキィちゃんは慌てて帽子をかぶり、落ちた眼鏡を拾ってかける。

 

「……あの、ミルキィちゃん」

「な、なにかな?」

「……どこかで会ったこと、ないか?」

「なんのこと? オジサマみたいな素敵な人、一度会えば忘れないけどなぁ~」

「……あ、ああ。うん」

「さ、帰ろっ♪」


 ミルキィちゃんは俺の腕を掴み、歩き出すのだった……うーん。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 領主邸に戻り、ラスティスと別れたミルキィ……ロシエルは、自室のベッドにダイブした。


「み、見られた……素顔。しかも、違和感感じてた……!!」


 ラスティスに素顔を見られたことは、何度かある。

 普段は帽子をかぶり、マフラーを巻いて口元を隠している。だが、公の場では顔を晒すこともある。その時、ラスティスには見られていた。

 

「う、うう……参ったなあ。でもでも、もう外出しなければいいよね。ステージまで引きこもって練習して、本番終わったらすぐ帰る……!!」


 ロシエルはウンウン頷き、素早く着替えて地下に向かう。

 遊んだ分、練習を増やそうとした。

 すると、地下にラスティスがいた。


「よ、ミルキィちゃん」

「あ、ど、どうもオジサマ~」

「晩飯どうする? 弟子たち帰ってきたら一緒にと思ったけど、まだ帰ってこないんだよなあ……まあ、ゆっくり休んで、いっぱい遊んで、美味いモン食うように言ったし、仕方ないけど」

「ば、晩ごはんはここで食べるね。いっぱい外で遊んだし、練習しないと!!」

「そっか。じゃあ、そうするか」

「あの、オジサマ……しばらく練習するし、のんびりしていいよ?」

「ああ。見てるよ。一応、護衛だしな」


 ラスティスはニッコリ笑い、壁に寄りかかる。

 ロシエルはニコニコしながら思った。


(お、落ち着かない……!!)


 結局、本番当日まで、ラスティスはロシエルの傍から離れないのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 時間は少し戻り……スレッドが、サティたちと焼肉を楽しんでいる頃。


「ん~おいしいっ!! お兄さん、焼肉おいしいですっ!!」

「いい食いっぷりだ!! そんなサティちゃんもキュートだぜ!!」

「えへへ、おかわりいいですか?」

「当然!!」


 肉の追加、実に大皿七枚目である。

 フルーレ、エミネムはすでにお腹いっぱい。マッソンも体格に相応しくかなり食べてお腹いっぱいだが、どう見てもマッソンより小さく細いサティのが食べている。

 フルーレは、お茶をストローで吸いながら言う。


「ほんと食べるわね……それに、仲良くなってるし」

「すんません。うちのボスが……」

「あの~……マッソンさん。ボスってことは、スレッドさんは組織の代表か何かなのですか?」


 エミネムの素朴な疑問……マッソンの心臓が一瞬だけ高鳴った。

 フルーレがピクリと反応するが、マッソンは答える。


「ええ。ウチら、クレッセント商会の下請け商会でして。今回、クレッセント商会がギルハドレットで商売始めるって言うんで、祭りを楽しみつつ下見に来たんですわ」

「へえ、そうなんですね」


 エミネムが疑問なく答え、フルーレは無言。

 スレッドは、サティをジッと見ていた。


「なあサティちゃん。今、好きな人いるか?」

「好きな人? ん~、師匠は大好きですね」

「師匠……サティちゃん、冒険者か何か?」

「剣士です!! ふっふっふ、今は修行中ですが」

「へぇ~……で、彼氏作る気ない? オレ、立候補しちゃうぜ?」

「はいそこ、ストップ。今はそういうのダメ」


 と、フルーレが割り込んだ。

 サティは首を傾げ、焼いた肉をモグモグ食べている。

 だがスレッドは諦めない。


「ふっ……悪いなフルーレお嬢ちゃん。オレ、本気になったら一直線。恋の糸で絡めとっちゃうぜ?」

「……ごめんなさい。気持ち悪いわ」

「ひどくない!?」

「あの、おかわりしたいですー」

「……騒がしくてすんませんっす」

「い、いえ……大変ですね」


 なんだかんだで、サティたちは食事を楽しんでいた。


 ◇◇◇◇◇◇


 結局、焼肉店の前でスレッドたちとは別れた。

 サティも満足したのか、お腹をさする。


「あ~食べました!! ね、お二人とも……このまま公衆浴場で汗を流しませんか?」

「いいけど……」

「ふふ、サティは本当に楽しそう」


 三人は公衆浴場へ。

 道中、フルーレはエミネムに言う。


「あの二人、特にスレッドの方……只者じゃないわね」

「……ええ。商人と言ってましたが、嘘でしょうね」

「……嫌な予感がする。エミネム、警戒するわよ」

「はい」

「お二人とも、はやくー!!」


 いつの間にか先を歩いていたサティは、ブンブン手を振るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 スレッド、マッソンの二人は、宿に向かっていた。


「気づかれたな」

「……やっぱそうすか?」

「ああ。サティちゃんは肉を満喫してたが、エミネムとフルーレの嬢ちゃんはオレらの強さに気付いたみたいだぜ」

「あちゃ~……すんません。オレ、素性聞かれて少しだけ動揺しちまいました」

「ま、気にすんな。サティちゃんはともかく、エミネムとフルーレの嬢ちゃん程度なら、オレを相手にするには力合わせて命賭けて辛うじて引き分けるくらいの実力ってところだ。ま、負けねぇよ」

「さっすがボス」

「だが……問題はサティちゃんだ。あの子が剣向けたら、オレ……戦えない!!」

「……やっぱ『さすが』っての撤回するっす」


 スレッドはがっくり肩を落としたが、すぐに顔を起こし首をコキコキ鳴らす。


「まあいい。とりあえず、クレッセント商会の下見行くか」

「へい」


 二人は、誘拐に向けての準備を進め始めた。

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