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脇役剣聖、エミネムの強さにびっくり

 中級のダンジョン。

 規模はそこそこ広く、敵もまあまあ強い。魔獣が自然発生してるし、どういう原理で発生しているのかは俺にはよくわからん。

 エミネムの『神器』の慣らしにちょうどいいかなー……なんて、思っていたが。


「旋風六槍、『風突』!!」


 風神器『ヴィーナスゴスペル』だっけ。

 エメラルドグリーンの風を纏い、エミネムが握るメインの一本の他、六本に分裂しエミネムの周辺を風を纏いながら浮かんでいる。

 エミネムの操作で、自在に動かせる……驚いたわ。こうも自然に六本の槍を操作できるとは。真に『枷』を外した効果がこうも顕著に……まあ、俺もあんまり人のこと言えないか。

 このダンジョンでは、虎の魔獣が多く出る。

 現在中規模ダンジョンの最下層。出るわ出るわ、大量の虎魔獣。


「エミネム、どうだ?」

「問題ありません。その、過信は禁物とはわかっていますが……こんなに調子がいいのは、人生初かもしれません!!」


 槍が独自に動き、向かって来る虎を串刺しにする。

 そして、三本の矢が一つになり、巨大な一本の槍となった。


「合わせ三槍、『大串』!!」


 丸太のような槍は、大型の虎魔獣の口に突き刺さり、ケツの穴から槍先が飛び出した……う、うわぁ、敵だけど同情するわ。

 というか、俺の出番がない。


「ラスティス様!! このダンジョン、私にお任せください!!」

「あ、ああ……」


 過信、油断は命取り……でも、今のエミネムなら、上級魔族が相手でも問題ないだろう。

 恐らく、ラストワンやアナスタシアより少しだけ強い。

 それほど、完全顕現した『神』を倒したことによる『神器』の解放は強い。


「……アナスタシア、ラストワン。あいつらの時も、しっかりやればよかったかもな」


 あいつらの時は、完全顕現する前に『神』を倒しちまったからな。

 不完全な状態で『枷』を外したことで、『神器』を出すのは少し難しくなる。

 たぶん今頃……団長に頼んで、稽古してもらってんだろうな。


「重ね二槍、『螺旋風』!!」


 二本ずつ合体させた槍を両手に持ち、エミネムは舞う。

 虎魔獣たちがなぎ倒されていく。すごいな……踊ってるみたいだ。

 そして、ラスボスとばかりに、真っ黒な大型の虎が現れた。

 

「エミネム。そいつがダンジョンのボスだ。そいつを倒せばこのダンジョンは消えて、踏破になる……たぶん、中級魔族の上位くらいの強さだぞ」

「いけます!!」

「……よし、頑張れ」

「はい!!」


 エミネムは負けない……本当に、サティやフルーレより強くなっちまったな。


 ◇◇◇◇◇◇


 数日後。

 歩きながら地図をチェック。この地図もだいぶペケマークが増えた。


「……よし、これで中規模ダンジョンは終わりかな」


 地図にペケを入れ、踏破予定の中規模ダンジョンは全て踏破完了した。

 他にもいくつかあるが、これは残す。

 残すダンジョンの中心。ここに、ギルハドレットに新たな『ダンジョンの街』を興すのだ。フローネのやつが大張り切りで、各方面と交渉……あいつ、元斥候で暗殺者みたいなスキル持ってるくせに、いつの間にか交渉人としての才能が開花していた。

 エミネムは地図をのぞき込む。


「あの、次は大規模ダンジョンですよね」

「ああ。サティたちに小規模ダンジョンを潰すように頼んだしな……でも、大規模ダンジョンは俺がやる」

「え……あ、あの!! わ、私も」

「わかってるわかってる。確かに、お前は強くなった。でも、大規模ダンジョンはまだ少し早い」

「……う」

「それに、お前にずっと戦わせっぱなしだしな。確かに強くなったけど、休みは大事だぞ?」


 休みは大事……そこは強調する。

 というか、俺何もしてないからな。


「まあ、俺も身体が鈍るから戦いたいってわけだ」


 そして、到着。

 目の前には、地面からせり上がってきたような『大岩』があり、不自然な入口が開いていた。

 

「これが、大規模ダンジョン……ですか?」

「ああ。ギルハドレットに出現した四つの大規模ダンジョンで、最も危険なダンジョンだ」

「も、最も危険……」

「覚えとけ。大規模ダンジョンに現れる魔獣は、ほとんどが中級魔族レベルだ」


 ちなみに、アルムート王国でダンジョン狩りをやった時は、ほとんどが小規模ダンジョン、そして最後に中規模ダンジョンを攻略させた。

 大規模ダンジョンに入るのは、エミネムは初めてだろう。


「確かに……感じます。ここは、私には少し早い……」

「大規模ダンジョンに入るには許可が必要だ。冒険者等級は最低でも『上級』だな」

「……上級、冒険者」

「ああ。冒険者は知ってるよな? 三級から始まり、二級、一級、上級、準特級、そして特級。特級冒険者は今のところ七人、全員が神スキル持ちだ」

「……なんだか、七って数に縁がありますね」

「だよな。はは、しかもそいつら『七大冒険者』なんて呼ばれてるんだぞ?」


 まあ、七は縁起のいい数字だしな。

 ちなみにフルーレ、七大冒険者にコンタクトを取り、七大冒険者の誰かに頼んで、ギルハドレットにチームの支部を作ってもらうとかなんとか……七大冒険者が常駐しているだけで、ウリになるとか言ってるけどな。


「おっと。大規模ダンジョンの続きだ。大規模ダンジョンの特徴は、ボスを倒しても消えないってところだ。しかも、大規模ダンジョンのボスは確実に上級魔族レベル。しかも『理想領域(ユートピア)』を使う」

「え……えええっ!? ど、どうやって踏破するんですか?」

「ボスとは別に、大規模ダンジョンには『核』がある。そいつを破壊する」

「……核?」

「ま、心臓……ダンジョンの命だな。小規模、中規模はダンジョンのボスが命みたいなモンだ」


 喋りながらダンジョンに入る。

 エミネムは何本か松明に火をつけ、風で浮かべ周囲を照らす。

 新鮮な空気を常に送り続けているらしいので、強風でも消えないし、風の膜で覆っているから水に浸けても消えないとか……ほんと、自然系の神スキルって便利だな。


「あと、ここはかなり珍しいタイプ。ダンジョンのボスが『理想領域(ユートピア)』を展開している」

「え……じゃ、じゃあ」

「ああ。ここはもう、ダンジョンボスの領域内だ。上級魔族と違うのは、領域を閉じることができないってこと。だから、ダンジョンという空間そのものを領域としてる。出るのも入るのも自由ってところだ」

「……」

「ダンジョンボスの支配下にある空間では……魔獣の強さがハネ上がる」


 岩場のダンジョン。

 ごつごつした天井に、大量のコウモリがぶら下がっていた。

 しかも、数は千を軽く超える。大きさも三歳児くらいありそうだ。

 エミネムが「ひっ」と息を飲む。

 コウモリの目は血走っており、牙が異常に鋭かった……ダンジョンの影響だな。


『シュァァァァァ……』

「───『閃牙・乱』


 カチンと、一瞬で抜刀し納刀……そのままコウモリを無視して歩き出す。


「ここは、階層が少ない代わりに、魔獣が多く出るタイプだ。ついてるぞ、早く終わりそうだ」

「あ、あの、ラスティス様……こ、コウモリ」

「ああ、全部斬った。行くぞ」


 ダンジョンの奥に踏む込むと……背後で、千以上のコウモリがボトボト落下する音が聞こえた。

 エミネムがぎょっとして振り返り、コウモリを確認している。


「う、うそ……い、一瞬で、千匹以上の……す、すごい。私……調子に乗っていた」


 エミネムがボソッと呟き、俺をキラキラした目で見つめてきた。

 あの、その目やめてくれ……なんか照れるから。

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〇脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。 3 ~自称やる気ゼロのおっさんですが、レアスキル持ちの美少女たちが放っておいてくれません~
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― 新着の感想 ―
ラスティスの神器はなんなのだろう?
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