脇役剣聖、へとへと
今日の分の書類仕事を終え、俺はゆ~っくりと風呂に使っていた。
「あぁぁ~……魂が癒されるぅぅ~……ふぃぃ」
最高すぎる。
新しく建て直した俺好みの風呂。今日は会ってないけど、ケインくんのおかげで完成した風呂だ。
サウナもある究極の風呂。もう、ここから出なくてもいいくらいだぜ。
ケインくん……そういや、鉱山開拓に行ってるんだっけ。鉱山近くに臨時の町を作り、そこで寝泊まりしているとか……俺が帰ってきたって報告いったらしいし、帰ってくるかもな。
「ふぅぅ……上がったら、村の酒場行くかぁ……むっふっふ、冷えたエール飲みながら、しょっぱいチーズ、デザートにアプルの甘酢漬け……いいねぇ」
思考が蕩けそうだ。思考なだけに至高……なんちゃって。
今日はルアドのおごりだし、久しぶりにいっぱい飲むかな。ああ、ギルガの家行ってあいつも誘うかな……ホッジはギルハドレットの街に帰っちまったか? フローネは妊娠中だし飲めないかぁ……ミレイユは下戸だし、ああ、フルーレとか飲めるかな……。
「……ぁぁぁ」
お湯を掬い、顔を濡らす。
本当に、風呂は最高だぜ!!
◇◇◇◇◇◇
風呂から上がり、屋敷を出ると……木の枝にドバトがいた。
話しかけようとしたが、眼を閉じて鼻ちょうちんを膨らませてる……こいつ、寝てる。というか人生で初めて鼻ちょうちん膨らませて寝てるやつ見た。
起こさないように屋敷を出てギルガの家へ。
「おーい、いるか」
ドアをノックすると……ギルガとミレイユの娘、シャロが出た。
「あー、ラス」
「ようシャロ。ギルガ……パパはいるか?」
「いるよー。よんでくるねー」
「ああ、たの……」
頼む、と言おうとしたが……俺は声が出なかった。
シャロの後ろに、とんでもなくでかい『ピンクの鳥』がいた。
デカい。もう一メートル以上ある。なんだこれ。
「ぴーちゃん、パパ呼んでこよっ」
『ぴぃ』
ぴ、ぴーちゃん……? ってか、なんだこれ?
すると、ぴーちゃんの陰から子供……じゃない、ビンズイが出てきた。
「おや、帰ってきたんですね」
「ってお前……ビンズイか。どこにいるのかと思ったら、ギルガの家にいたのか」
「ええ。シャロの子守を頼まれまして」
「……あの、デカい鳥なんだ?」
「ぴーちゃんですよ。以前、シャロにあげた鳥を覚えてますか? シャロが『もっと大きければ乗れるのに』って言うんで、デカくしただけですよ」
「の、乗るのか?」
「ええ。飛べますよ」
「……そ、そうか」
まあいいや。気にしてもしょうがない。
「お前、怪我は?」
「問題ないです。魔族は核さえ無事なら、手足がなくなっても生えてきますからね」
「そうか。ああ、ラクタパクシャは無事だ。魔界に帰ったぞ」
「そうですか……よかったです」
ビンズイは胸を押さえ、ホッと一息。
俺は、気になっていたことを聞いた。
「なあ、お前やドバトにもいろいろ話さなきゃいけないし、こっちも聞きたいことが山ほどある」
「……魔王様が死んだことは聞きました。そして、アザトース様が即位したことも」
「その、アザトースっての、何なんだ? 俺とルプスレクスを倒すとか言ってたけど」
「アザトース様……正直、魔王様の息子ってことくらいしか知りません。次期魔王で、七大魔将と同格の力を持つってことくらいしか」
「……あいつ、魔王の力を受け継いだとか言ってたな」
魔王は弱体化じゃなくて、ルプスレクスに負けたことで引退を決意、その力全てを息子に託したから弱くなった……だったか。
「なあ、ルプスレクスってどんだけ強かったんだ?」
「そりゃもう。魔界最強ですよ。魔王様より強いって言われてました」
「……マジ?」
「ええ。魔王様は『冥狼』が逆らわないように、力の七割を注いで『首輪』を嵌めたって聞きました。それでも冥狼は七大魔将最強らしかったですね。実際、魔界を出るときに魔王様の軍勢を壊滅させて、魔王様の腕を食いちぎったって」
「と、とんでもないな……俺、そんな奴と戦ったのか」
確定なのは、俺と戦ったルプスレクスは、全く本気じゃなかったってことだ。
で、魔王の息子がルプスレクス、そして俺に復讐しようとしている。
「はぁ~……ビャッコ倒したばっかりなのに、まためんどくさいことになりそうだ」
他の七大魔将も出るだろうし、いずれ魔王アザトースと戦うこともある。
俺も新しい力を手に入れたけど……ああ、この力も検証しないとな。
「あ。ラクタパクシャ様からの命令で、私とドバトはこの村に滞在することにしました。表向きはスパイですけど、目的は魔界の情報をあなたに教える役目ですー」
「……本当なのか?」
「ええ。さっきラクタパクシャ様から命令が下りました。あなたのこと、サポートしてって」
「……あいつ」
というか、表向きはスパイって……おかしくないか?
まあ、ここも深くツッコむのやめておくか。
すると、ギルガが来た。
「なんだ、ラスティス」
「お、来たか。いや、ルアドと飲む約束してんだけど、お前もどうだ? 久しぶりにいいだろ?」
「……む」
少し考え込むギルガ。すると、デカい鳥に乗ったシャロとミレイユが来た。
「いいじゃない、行って来なさいよ」
「いいのか?」
「ええ。ごはん、全部食べちゃうから。ね、ビンズイちゃん」
「はい!!」
「いや、そこは『残しておくから』じゃないのかよ。でもまあ、ミレイユの許可も出た。行こうぜ」
「……ああ」
ギルガと一緒に外へ出て、村の酒場へ向かう。
今、気付いたが……酒場も改装したのか、建物が大きくなっていた。
「酒場も改築したのか」
「ああ。鉱山で働く連中が毎日飲みに来るからな……ケイン殿が改築し、商会から従業員も派遣した。お前のいない間、村はかなり拡張したぞ」
話しながら酒場に入る。
酒場はすごく混んでいた。鉱山開拓の作業員たちが酒を飲み、住人達も混ざって飲んでいる。意外なことに女性客も多い……驚いたな。
「おーいラス、こっちだこっち」
「お、ルアド……って、おい」
ルアドは円卓に座っていた……が、一人じゃない。
「あ、師匠ー!!」
「遅いわよ」
「ラスティス様、お待ちしてました」
「……なんでお前らが」
サティ、フルーレ、エミネムも一緒に座っていた。
席に向かうとルアドが言う。
「よ。お前がいない間、女の子に囲まれて幸せ気分だったぜ」
「やかましい。というか、なんでサティたちが?」
「ああ、お前のこと待ってたら、この子たちが来たんだよ。で、お前が後から来るって話して、同席にしたってわけだ。ま、座れよ」
席に座る。一気に六人の円卓になった。
円卓には、すでに酒や大量のおつまみが並んでいる……俺ら来る前から飲んでたようだ。
「そういや、ギルガも来たのか」
「……お前の奢りと聞いたからな」
「げ、そういやそうだった」
「えへへー、ごちそうさまです、ルアドさん」
「サティちゃんに言われちゃ仕方ねぇなぁ~」
ルアド、お調子者め。
給仕の女の子を呼んで酒を注文、俺はギルガとグラスを合わせた。
風呂上り、やっぱ冷えたエールは最高だぜ。
「あ~うまい。はぁ~……今日帰ってきたばかりなのに、書類書類書類……おいギルガ、もうちょい手加減してくれよ」
「……忙しいのはオレも同じだ。全く……フローネ、ホッジもギルハドレットから毎日通いで来てくれたんだぞ。それにケイン殿も、今は鉱山開拓で大忙しだ」
チーズをかじりながらギルガは言う。
そしてサティ。
「あの師匠、お忙しいのはわかりますけど、あたしたちの修行も忘れないでくださいね!!」
「わかってるよ」
「言っておくけど、手加減無用だから」
「私……頑張ります!!」
女子三人はやる気満々だ。
ルアドは笑ながらエールを煽る。
「モテモテだなラス。どうよ、そろそろ身ぃ固めちまえ。三人いればギルハドレットの後継は安心だぜ」
「アホ助。子供と結婚できるかよ」
「「「…………」」」
なんか空気が微妙に凍ったような……まあいいや。
「あー腹減った。おいギルガ、メシいっぱい頼もうぜ。ルアドのおごりだし」
「そうだな。サティたちも遠慮するなよ」
「はい!!」
「そうね」
「おなか、空きました」
「おいおい、ちょっとは遠慮してくれ……警備員の薄給に収まる範囲でな」
さーて、腹いっぱい食って明日も頑張りますかね。





