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戦いが終わって

 ビャッコ討伐……王都に戻った俺たちは、団長とランスロットに報告。

 そして、新たな魔王の誕生、残りの七大魔将のことも話した。

 急遽、七大剣聖会議が開かれた。今後の対応と、どうするべきか。


 結果としては、現状維持。

 できることは、王都の守りを固めること。そして魔族から情報を得ることが最優先。

 王都に戻る途中、ビンズイを回収……ケガの手当てをすると、ギルハドレット領地に向かって飛んで行った。ドバトと合流し、俺を待つそうだ。

 会議を終え、俺は団長とランスロットに呼び出された。


「七大魔将を討ち取ったそうだな」

「ええ、まあ」


 団長の声、おっもい……なんか久しぶりにキレてる気がする。


「よくやった。と褒めたいが……貴様、身体は大事ないのか?」

「はい?」

「ラストワン、アナスタシアの報告によれば、貴様の剣……『冥狼斬月』だったか。その力で屠ったと聞いた。身体は大事ないのか」

「え、ええまあ。むしろ調子いいです」


 お、俺の心配? だ……団長が?

 不審そうな目をしているのがバレたのか、団長が睨む。


「エミネムは……役に立ったか?」

「……ええ」

「嘘はいらん。正直に言え」

「……上級魔族相手に立ち回ったと聞きました。もう魔獣や中級魔族くらいなら問題ないでしょうね。でも……まだ、上級魔族を相手にするには早い」

「…………やはり、そうか」

「団長……?」

「まだ早いと思っていたが、そうも言ってられんな……それに、報告にあった少女、サティだったか。彼女が『臨界』したとも聞いた」

「…………」

「そんな目で見るな。彼女を七大剣聖に推薦することはない。私が言いたいのは、エミネムの『枷』を外すことだ」


 やっぱそうきたか……神スキルの『枷』か。

 確かに団長の言いたいこともわかる。『臨界』すれば、神スキルの出力は一気に上がるからな。

 すると、ランスロットが挙手。


「ラスティス。確証はありませんが、あなたの話からすると、魔族はしばらく大人しいでしょう……その間に、戦力の強化を」

「戦力の強化ね……まあ、そのつもりだ」

「私も、イフリータの『枷』を外すつもりです。七大魔将は残り五人、そして魔王……動くとなれば、七大剣聖級の力が不可欠です。次、七大魔将が出るなら……私も出ます」

「……ああ」


 残り五人。そこに、ラクタパクシャも入っている。

 俺は、あいつと敵対したくない……どうしたもんかね。


「俺、とりあえず領地に戻りますわ。団長、エミネムは……」

「貴様に預けたままでいい。ラスティス……貴様の判断で『枷』を外すことを考えておけ」

「……はい。って、あれ」


 なんか忘れているような───…………って、あ!!


「あ!! 忘れてた!! あの団長、ロシエルは!? そういや会議にもいなかった!! まさかまだデッドエンド大平原にいるんじゃ」


 かんっっっっぜんに忘れてた!!

 ビャッコと戦ってる時もいなかったし、まさか何かあったんじゃ。

 すると団長が言う。


「ロシエルなら、お前たちが戻る前に一人で戻って来たぞ。負傷を理由に会議には不参加……報告では、上級魔族を一人倒したそうだ。あまり重要なことではないゆえに会議では言わなかったがな」

「あ、ああ……そうでしたか」


 影が薄いとかそんなレベルじゃねえ……マジで存在を忘れてた。

 ラストワンたちも忘れてるっぽいし、あとで報告してやるか。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 俺は、王城内にある来客用の部屋へ向かった。

 部屋のドアをノックすると、サティが開けてくれる。室内にはサティ、フルーレ、エミネムの三人がいる……三人とも、身体に包帯を巻いていた。


「あ、師匠。お疲れ様です」

「おう。怪我、大丈夫か?」

「はい!! 元気いっぱいです!!」

「そっか」


 サティの頭を撫でると、犬みたいに顔を綻ばせた。

 

「さて。今後のことだが……とりあえず、領地に戻る。あの魔王や七大魔将はしばらくは動かないだろうし、仕事をしつつ鍛えるぞ」

「はい!! よーっし!! 頑張るぞ!!」

「私も頑張ります」

「ああ。それとエミネム……団長から、お前の『枷』を外すように頼まれた。お前の覚悟ができたら、領地に戻って『枷』を外す」

「そ、それって……サティみたいに」

「ああ。けっこう危険が伴うから、覚悟ができたらでいい」

「……わかりました」


 今、最優先ですべきなのは『神スキル』の強化だ。

 上級魔族、七大魔将と戦えるのが俺だけでは厳しいからな。みんな強くなってもらう必要がある。


「……ラスティス」

「ん、なんだ」

「私も、あなたの領地に行くわ。私を……一から鍛えてほしい」

「……は?」

「私の『枷』はとっくに外れている。でも……自分の弱さがこうも憎らしい。以前、あなたは言ったわよね? 七大剣聖も強くなる必要があるって」

「……ああ」

「何をしてもいい。どんなことでもする。私は、強くなりたい」

「……わかった。俺がお前を鍛えてやる」

「ありがとう……お願いします!」


 フルーレは立ち上がり、俺に向かって頭を下げた。

 こうして、一つの戦いが終わり……新しい戦いが始まろうとしていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 客室の外に、ラストワンとアナスタシアがいた。


「なあ、どうする?」

「……何が?」

「若い連中は前向きに、ラスに鍛えてもらうってよ……オレたちはどうよ?」

「……」


 足手纏いもいいところだった。

 上級魔族は何とか倒せた。が……七大剣聖とはいえ、それが限界。

 これから先、相手は七大魔将だ。ラスティスだけに任せるわけにもいかない。

 

「なあアナスタシア。オレ、一つ考えがあるんだ」

「何?」

「強くなる。そのために何が必要だ?」

「……『力』」

「そうだ。そして、オレたちには何がある?」

「…………」


 アナスタシアは少し考え、ハッとなりラストワンを見た。

 ラストワンはニヤリと笑い、拳を強く握る。


「あなた、まさか……」

「ああ、もうこれしかねえ。オレたちがラスと同じくらい強くなるためには……」


 ラストワンは、自分の胸をドンと叩いた。


「『臨界(りんかい)』……こいつを使いこなして、新しい力にする」

「……忘れたの? 『臨界』は短時間しか使えないし、使った後はしばらく神スキルを使えない。だったら、『臨界』で解放された神スキルの出力を利用した方がいい……常識よ?」

「かもな。だが、七大魔将相手じゃ、常識は通用しねえ……ビャッコ、そしてその前の上級魔族、『臨界』を使ってたら、少しは結果が違ってたんじゃねぇか?」

「…………」

「初めから無理だと、常識だと決めつけて戦うなんてらしくねぇ。アナスタシア、オレは決めたぜ。オレは『臨界』を使いこなし、ラスの隣に立つぜ」

「…………あなた、本当に馬鹿ね」

「あ?」

「まあ……私も、馬鹿になるときが来たようね」


 そう言い、アナスタシアは髪を掻き上げた。


「付き合うわ。『臨界』を使いこなす……まず、何をする?」

「団長だ。あの人なら、『臨界』のことをさらに詳しく知ってるだろう。オレの考えを話して、いいアイデアをもらおうぜ」

「いきなり人任せ……でも、そういうの嫌いじゃないわ」


 ラストワン、アナスタシアの二人は、並んで歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 一週間ほど王城に滞在し、ギルハドレット領地に戻ることになった。

 

「やっべやっべ……ギルガたちの酒、買い忘れるところだった」


 団長が馬車を用意してくれたので、荷物を積んでいざ帰ろう!! ってなったんだが……ギルガたちの土産を買い忘れ、馬車を正門に置いて俺はダッシュで買いに戻ったのだ。

 ずっと留守にしていたし、仕事も代わりにやってくれてる。ギルガはともかく、フローネとか土産忘れたと聞いたら滅茶苦茶怒りそうだ。

 町の中央広場を通って、なじみの酒屋へ向かった時だった。


『みんな~~!! 今日はどうもありがと~~~っ!!』

「うおっ」


 町の中央で、特設ステージみたいなのに立つ女の子がいた。

 ステージの周りには大勢の人が集まり、よくわからん「光る棒」を振って応援している。


「な、なんだ……?」


 すると、ステージに立つ女の子……なんだあのフリフリした服……は、拡声魔道具を使って声を大きくし、なぜか歌い出した。

 俺は、光る棒を振り回す少年の肩を叩く。


「うおおお~!! ミルキィちゃぁぁ~~ん!!」

「あのあの、ちょっといいか?」

「あぁ!? んだおっさん……って、おっさん、七大剣聖の!!」

「俺のこと知ってんのか? 誰だ少年?」

「忘れたのか? 正門の検問してる時に、あんたのこと馬鹿にした冒険者だよ!!」

「…………………ああ、うん」

「覚えてねぇのかよ!! 仲間四人でいた、超大型新人冒険者チームの……もういいや。で、なんか用事かよ、おっさん」


 少年は、光る棒を手に俺をジッと見る。見覚えあるような、ないような。

 

「これ、何の騒ぎだ?」

「あぁ!? ミルキィちゃんのこと知らねぇなんて馬鹿か、馬鹿なのか!? 彼女は、アルムート王国が誇る最大の『フィルハモニカ楽団』のナンバーワン歌手、ミルキィちゃんだ!! 彼女の歌声は万をの民を魅了し、魔族ですら聞きほれるという歌声なんだぞ!!」

「へ、へえ……すごいんだな」


 楽団か。

 そういや、貴族のパーティーとか、大きな酒場とかで歌や踊り、楽器の演奏をする人たちの集まりがあったっけ。

 フィルハモニカ楽団ってのは、アルムート王国では最大の規模を持つ楽団らしい。

 場末の酒場から貴族の結婚パーティーまで、どんな場所でも演奏、踊り、歌を披露する。もちろん金額的な差があるが、平民や貴族と差別をしない楽団として有名らしい。

 で……この特設会場で歌を歌っているのは、楽団ナンバーワンの歌手、ミルキィちゃん。

 十五歳になったばかりなのに、その歌声は神を魅了するとか……すごいね。


「おいおっさん!! 暇ならミルキィちゃんの応援するぜ!!」

「いや、俺は酒を買いに……」

「うぉぉミルキィちゃァァァァァんん!!」

「あの、俺は酒を……って、うぉぉ!?」


 後ろから大量のミルキィちゃんファンに押され、結局この日は出発できず、王都の宿に引き返すこととなるのだった……ああ、みんなの視線が痛い。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 フィルハモニカ楽団。

 アルムート王国最大規模の楽団であり、モットーは『誰でも好きな音楽を』だ。

 平民、貴族と客を選ばず、どんな依頼でも請負い、歌い、踊り、演奏する。

 楽団員の数は二百人。様々な楽器、踊り、歌と、スペシャリストたちが揃っている。

 そんな中、歌手のトップであるミルキィ。

 彼女は控室で、楽団長と話をしていた。


「いやぁミルキィちゃん、今日もよかったよー!!」

「ありがとうございます!!」

「うんうん。この調子で頼むよ? でも……本当に無理なのかい?」

「ええ……家庭の事情で、アルムート王国から離れられなくて……でもでも、その代わりいっぱい歌います!!」

「ああ、ありがとう!! ミルキィちゃんは引っ張りだこだから、忙しいと思うけど」

「大丈夫です!!」

「うんうん。ありがとうねぇ。よし、今日は上がっていいよ」

「はい!! お疲れさまでした!!」


 楽団長が部屋を出ると、ミルキィは着替えの入ったバッグを手にし、素早く着替える。

 そして、控室にいる楽団員たちに笑顔であいさつし、部屋を出た。


「───……よし」


 楽団の建物を出たミルキィは───一瞬で建物の屋根へ。

 そして、帽子を深くかぶり、マフラーで口元を多い、身体を隠すコートを着た。


「……大丈夫、バレない、バレない」


 そう、ぶつぶつ呟き……一瞬でその場から消えるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 誰も知らないし、知るわけがない。

 フィルハモニカ楽団のナンバーワン歌手。王都で一番の歌い手であるミルキィ。

 華奢で、守ってあげたくなるような美少女。その正体がまさか……。


「…………帰って寝よ」


 七大剣聖序列三位、アルムート王国最強の剣聖の一人ロシエルとは、誰も知らない。

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― 新着の感想 ―
自然系とかパワー系の臨界は想像しやすいけど支援系とか補助系の臨界ってなんだろ? 神眼は過程を飛ばして結果を出すとかになりそうだけど。 増やすのはなぁ……。既に自分増やすのがチートだし
[良い点] ラストワン、増えたそばから臨界していけば実質ずっと臨界使えるんじゃなかろうか 無論使い終わったラストワンはボロ雑巾ですが…
[一言] ロシエルはアイドル歌手だったのかぁ~道理でバレないようにしていたんですね
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