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終焉の虎、白の魔王

「……お」


 領域が解け、俺の姿が元に戻った。

 鎧が解除され、手には鞘に収まった『冥狼斬月』……少し強く握って話しかけてみた。


「ルプスレクス、おい……聞こえるか?」

『…………』


 反応はない。でも……不思議と温かい。

 ルプスレクスはここにいる。それだけで、俺は安心できた。

 そして、剣をベルトに差し、柄に手を添える。


「お疲れさん。あとで綺麗に磨いてやるから、ゆっくり休め」

「おーい、ラス!!」


 と、ラストワンたちがこっちに来た。

 全員ボロボロだ。でも、その足取りは軽く、全員が生気に満ちている。

 そして、ラストワンが来るなり、俺と肩を組んだ。


「やりやがった!! お前、七大魔将の討伐、二人目だぞ!!」

「俺というか、みんなだけどな」

「……ルプスレクス、ビャッコ。そして……ラクタパクシャ。七大魔将が三人いないということは、魔族側の戦力も相当なダウンね」


 アナスタシアが言う。

 ラクタパクシャ……あいつとは、もっと話したかった。


「……ぅ」

「フル-レさん、大丈夫ですか……?」

「ええ……ありがとう、サティ」


 フルーレは、失った右腕を押さえていた。

 俺の視線に気づいたのか、少しだけ悲し気に言う。


「私が弱かっただけだから、気にしなくていいわ。それに……私の後継はいるしね」

「……え?」

「サティ。あなたを、七大剣聖に推薦するわ。今のあなたなら、きっと」

「あ、あたしが……七大剣聖に?」

「ええ。七大剣聖には、後継を指名する権利がある。そして、七大剣聖の三人以上に認められれば、新しい七大剣聖となれるの」


 フルーレの視線はサティに向く。だが、サティは首を振った。


「嫌です。絶対に嫌です!! あたしが七大剣聖なんて、そんな……嫌です!!」

「サティ……」


 口を挟むべきじゃないが……サティは俺の後継にしようと思ってたんだよな。

 腕を失ったフルーレは、確かに剣士としてやっていくのは厳しいと思うが。

 うーん……何か、言うべきか。


「あの、お話はあとにして……まずは、アルムート王国に報告をしなきゃ」


 エミネムが言うと、全員が頷いた。

 そうだな。王都じゃまだ臨戦態勢だろうし、安心させないと。

 俺は、ラクタパクシャだった『灰』を見た。


「敵は取った……安心して眠ってくれ」

「師匠……」

「あいつは、いい奴だった。ラクタパクシャ……もっと話をしたかった」


 サティ、エミネム、アナスタシアが俯く……みんな、ラクタパクシャのこと嫌っていなかったしな。ラストワンとフルーレは何も言わない。

 そんな時だった。


「ん? お、おいラス……なんか妙だぞ」

「あ?」


 ラクタパクシャの灰から、ブスブスと煙が上がっていたのだ。

 そして、俺たちの前で一気に灰が燃え上がる。


「な、なんだ……!?」

「警戒を!! ちょっと、何呆けてるの!!」


 フルーレが剣を抜くが、俺はその手を押さえた。


「待て」

「何を……」


 ───……そして、燃え上がった灰が人の形を成していく。

 全員が愕然としたまま見ていると、炎が消え……人が立っていた。

 

「……なるほど、そういうことか」


 赤い髪、赤い瞳……そして、素っ裸の美女。

 俺たちの前に、ラクタパクシャがいた。怪我の一つもなく、綺麗な身体で。

 何を疑問に思っているのか、素肌を隠そうとせず手を開いては握っている。

 そして、大きな胸を揺らし、俺たちに向かって言った。


「これが『フェニックス』の力……蘇生能力のようだ。わらわは肉体を失っても、核を破壊されても、灰となり蘇る。しかも、以前よりも炎が強い……ふふ、死に損なったようじゃな」

「ら、ラクタパクシャ……なのか?」

「うむ。わらわは『フェニックス』の力を発火能力と思っていたが、正しい使い方は『再生』のようじゃ。例えば……」

「え……っ」


 ラクタパクシャは手をフルーレに向けると、フルーレの腕の切断面が一気に燃え上がった。


「なっ!? 何を───…………って、熱くない……っ、え!?」


 炎が消えると、そこには『腕』が生えていた。

 失った腕が、再生した。


「う、うそ……っ、う、腕、私の……っ」

「ふむ、面白い。死して蘇るが何度も死ねるのか? 回数制限は? 蘇生の条件は? ふむ、検証が必要そうだが、まさか死ぬわけにもいかんしな……」


 フルーレは腕を押さえ、とめどなく涙を流していた。

 そして、ラクタパクシャは頷き、俺に言う。


「ラスティス。どうやら……わらわはまだ、死なないようじゃ」

「ああ……ははっ、また会えてうれしいぜ。というか……」

「む?」


 俺はチラチラ見てしまい、ラストワンが「ピュウ」と口笛を鳴らす。

 そりゃそうだ。だってラクタパクシャ……全裸だもんな。見えちゃいけない部分も全部見えてるし、本人は全く隠そうとしないし。


「見ちゃダメです!!」

「こ、これ使ってください!!」

「……ふんっ!!」

「いっでえ!?」

「お、おいサティ、見えない、見えない!!」


 サティが俺の眼をふさぎ、エミネムがどこからかシーツを出す。アナスタシアがラストワンの目を指で突き、ラストワンは目を押さえて地面を転がった。

 なんというか、ようやく終わった。

 俺は目を押さえるサティを引き剝がし、言う。


「じゃあ、とりあえず帰るか。ラクタパクシャ、お前は?」

「わらわは、ビンズイを迎えに行く。その後、お前の村に行こう……ドバトも迎えねばな」

「わかった。じゃあ、手紙書くからギルガに───……」


 と、言った時だった。


「ぐあぁぁぁぁ!! ルプスレクス殺しィィィィィィィ!!」

「!!」

 

 身体を半分ほど再生させた、上半身だけのビャッコが飛び掛かって来た。

 隙を伺っていたのか。岩陰から飛び出してきた。

 全員、反応が遅れた。

 俺ですら気付かなかった。完全に油断していた。

 俺は柄に手を伸ばすが、ビャッコは右腕の爪を伸ばし、俺の首を掻き切ろうとしている。

 まだ生きていた。核をルプスレクスに噛み砕かれても……いや、再生しているが、再生したところから崩れている。もう限界をとうに超えていた。

 虎ではなく、人間の姿で。俺を殺すために、最後の力を振り絞った一撃を。


「死ねやァァァァァ!!」


 ビャッコの拳が、俺の喉に───…………。


 ◇◇◇◇◇◇




「よかった、生きててくれた。これでこの手でケリが付けられる」




 ◇◇◇◇◇◇


 俺、ビャッコの間に誰かが割り込んできた。

 そして、ビャッコの顔面を鷲掴みにする。


「なっ……ン、だ、テメェェェェェェェェ!!」


 顔面を鷲掴みにされたビャッコが大暴れするが、顔を掴んだ……誰だこいつ? は、まるで意に介さず、俺からそっと距離を取る。

 そして、俺をチラッと見て、『冥狼斬月』も見た。


「ルプスレクスとその使い手、感謝する」

「は、はい?」

「ビャッコはやりすぎた。余が直々に滅しようと思っていたが、手が省けた」

「え、えっと……」


 頭をボリボリ掻く俺。というか、いきなり出てきて意味わからん。

 すると、顔を青くしたラクタパクシャがいきなり跪いた。


「あ、あなた様が、なぜここに……」

「父が崩御した。よって、余が新たな魔王となった。まずはビャッコの粛清をと思ったのだが……人間界で遊んでいると聞いてな」


 不思議な青年だった。

 純白の髪、青い瞳、白い礼服、白いマント、白い靴、白い肌……と、瞳の色以外はすべてが白い。

 ビャッコを見る目には何の感情も浮かんでいない……が、それどころじゃない。


「ま、魔王様が……お亡くなりに」

「うむ。ラクタパクシャよ、すぐに魔界に戻るのだ。父の葬儀をする」

「はっ……かしこまりました」

「はっ、魔王が死んだ!? へへ、あんなザコ死んで当然だぜ。ルプスレクスに喰われてから、奴はどんどん弱くなったからなぁ!! 息子のテメェも大したことねぇんだろうが!!」

「……ビャッコ、お前は勘違いをしている」

「あ? っぁ、っが……」


 青年は、ビャッコの顔面を無表情で握りしめる。


「父は弱体化したのではない。全ての力を余に与えたことで、抜け殻となったのだ。最強の魔族である魔王が、オオカミすら殺せない……それは恥だとな。全てを余に与え、死んだだけのこと。だが……父は偉大な魔族。侮辱は許さん」

「ぉ、ぉ、っぉ……!?」


 ビャッコが、シワシワの抜け殻のように変貌していく。

 そして、最終的には砂となり、亀裂だらけの『核』が青年の手に残った。

 その『核』を、青年は口に入れて咀嚼……呑み込んだ。

 そして、青年は俺の方に向き直る。


「ルプスレクス、そしてその使い手。父はお前たちを恨んでいた。圧倒的存在である魔王に傷をつけた、神をも殺す狼としてな。その牙……余が直々に砕く。だが、今はまだだ。余も、父の力と、自分の力を上手くコントロールできないからな。しばらく、時間を与える……それと、一ついいことを教えてやろう」


 青年が指を鳴らすと、背後に巨大な『穴』が開いた。

 そして、中から一人の女性、一人の老人が現れる。


「シンクレティコ」

「ここに、我が魔王」


 ツノの生えた、緑色のローブを着た老人が跪く。


「カジャクト」

「はい!! 我が魔王、ここに!!」


 こちらは、鎧を着た金髪ロングへアの女性だ。立派な鎧だが、お腹は剥き出しだし、胸も谷間が見えてる……ちょっと色っぽいぞ。

 青年は続ける。


「人間界への移動方法は確立されつつある。余は人間界占領など興味はないが……ルプスレクス、そしてその使い手、お前たちを倒すためなら、人間界侵攻も厭わん。覚悟しておけよ」


 そう言って、青年は開いた穴に向かって歩き出す。


「我が名はアザトース。『白魔皇』アザトースだ。覚えておけ」


 それだけ言い、穴に消えて行った。

 そして、老人も消え、カジャクトと言われた女が俺に言う。


「ルプスレクス。魔王様には悪いけど、お前は私が倒すことになる」

「……」

「それまで、足を洗って待っていることね」


 そう言い、カジャクトも消え───……って、ちょっと待て。


「おい、洗うのは足じゃねえ……首だ」

「…………う、うるさい!!」


 あ、顔真っ赤にして穴に飛び込んだ……やべ、ちょっとかわいかった。

 そして、ラクタパクシャ。


「すまない。ラスティス……新たな魔王様の命令じゃ。わらわは帰らねばならん……ビンズイ、ドバトを頼んでもいいか?」

「あ、ああ……ちょっと頭絡まりそうだ」

「アザトース。その名を覚えておけ。それと───……」


 ラクタパクシャは俺に近づき、思いっきり接吻してきた……って、またかい!!


「また会おう……バイバイ、ルプスレクス」


 少女のように微笑み、ラクタパクシャも穴に消えた。

 ラクタパクシャが入ると同時に、穴は消えてしまった。

 情報量が多く、俺たちはパンク寸前……誰も何も言わない中で、俺が言う。


「…………とりあえず、帰るか」


 ビャッコを倒したってのに、情報量多くて混乱しそうだわ。

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― 新着の感想 ―
カスみてぇな展開 つかラスナントカは何がしたいの?恋人を討った相手を篭絡したいの?オオカミキュンに重ねてるの?
[一言] ラスパタちゃんが死んだ割にはオオカミさん冷静だなって思ってたけど、そういうことね
[一言] 回復役は魔族側になったか なんでもありかなw 時間が経った欠損は治せないとかありそうかな
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