第九十一話 メリーラン
ふと、メリーランが既視感を覚えたその少女。
そしてその声。
メリーランが戸惑っていると、少女が振り返った。
「き、キョウナ!」
「ああ、ええ!メリーラン!?」
そう、ザンガ達のパーティのリーダー。
それはキョウナだった。
まさかこんなところで再開するとは…
「なんだ、知り合いか?」
「う、うん。昔ちょっと…」
ザンガの問いに対し、キョウナは気まずそうな表情で答える。
その反応を見て、ザンガは何かを察した。
そしてメリーランに向き直る。
メリーランはキョウナと再会したことで、少し混乱していた。
しかし、すぐに落ち着きを取り戻す。
そして、あらためてキョウナに対し先ほどのことを言った。
仲間に入れてくれないか、と…
「キョウナ、だめ?」
「……えっと」
キョウナはメリーランのお願いに対し、返答に詰まった。
なんと答えるべきか。
断るべきなのか。
確かに過去にいろいろあった。
とはいえ、メリーランだけならばそんなに問題はないのではないか。
そう考えていた。
しかし…
「俺は反対だ」
ザンガはそう言った。そしてメリーランを仲間に入れたくない理由を述べる。
その女には覚悟が足りていない。
一緒に来ても足手まといにしかならないだろう。
それがザンガの答えだった。
「結構いいチームにいたといっていたが、最近は仕事してなかったんだろ?」
「え、ええ…」
「勘ってのはすぐに鈍る。それじゃあな…」
その言葉には説得力があった。
確かにその通りだ、とキョウナは思った。
しかし、メリーランは引き下がらない……
キョウナが何を言っても、メリーランは自分の意見を貫き通した。
しかし…
「お前、命賭けられるか?」
「え…?」
「さっきバカな男に襲われた時、戦おうとしなかった。そんな奴にこの仕事は向かねえよ」
そう言って手元にあった酒の瓶を飲み干すザンガ。キョウナはその姿を見て、何も言えなくなってしまった。
確かに自分は戦うのが苦手だ……
言い返せない……
メリーランはそんなキョウナの姿をずっと見ていた。
そして、意を決してザンガに言う。
自分の覚悟を……
しかし、その覚悟はザンガに鼻で笑われた。
そんな覚悟じゃ足手まといになるだけだ、と……
メリーランはその言葉にショックを受ける。
そしてそのまま走り去ってしまった。
「…いいすぎじゃない?」
それらの様子を黙ってみていたガルグ。
そんな彼が一言言った。
彼の言葉を聞き、ザンガが二本目の酒を飲む。
一気に飲み干す。
瓶をテーブルにたたきつけながら答える。
「…あいつ、死に場所を探していたな」
「え…?」
「旅の途中、何度か死ぬような目にあったが、あの様子だと死んでもいいって感じだったな……」
メリーランは悩んでいて、ずっと答えを探していた。
そして何を思ったのか……
ザンガにはわからない。
しかし、彼女から何かを感じたのは確かだった。
そんな彼女の様子を見て、感じたのは……
死の覚悟。
つまり彼女は死にたがっていたのだ。
そんな人間を連れて行けるか? いや、無理だ。
だから断った。それだけだとザンガは言う。
ガルグは納得して頷く。
「故郷にでも帰って静かに暮らしたほうがいい。あいつにとってはな…」
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食料を買い込んだメリーラン。
そのまま彼女は村を出た。
キョウナたちに交渉したが、パーティに入れてもらうことはできなかった。
メリーランは自問自答を繰り返す。
辺境の地を彷徨いながら…
これからどうすればいいのか…と。
全く知らない、別のパーティに入るか?
「…いや、無理ね」
今の自分を受け入れる者がいるだろうか。
しかし今や自分は追われる身だ。
もう遠くの国に行くしかない。
だが、そこまでして冒険者にこだわる必要もない。
どこかの田舎で、静かに暮らすか。
国の追っ手におびえながら…
「どうすればいいの、私は!?」
今となっては追われる身、安住は許されない。
この先、どうすればいいのか。
メリーランは、一人悩み続ける。
しかし、それは無意味なことだった。
何も思いつかない。
「どうすれば」
草原を歩きながらつぶやく。
だが、いつまでたっても答えは出ない。
メリーランは、自分の選択に自信が持てなくなっていた。
以前はガーレットの選択にそのまま従っていた。
しかし、今となってはもうそれも不可能だ。
「ああ…」
このまま冒険者を続けるか、それとも別の道を選ぶのか。
メリーランは悩み続けた。
仲間もいない。
皆いなくなってしまった。
「ガーレットさん、私はどうすれば…!」
死んだ者の名前を呼んでも答えは返ってこない。
いま答えを出すのは自分しかいない。
悩みながら草原を歩き続ける。
しかしその答えは出ないのだ。
「私は…」
歩き続ける。
答えが見つかるまで。
どうすれば、いいかを。
しかし、やはり答えは出ない。
「私は…私は…!」
こんなときどうすればいいのか?
メリーランは考えるが、答えは見つからない。
自分はどうするべきなのか、どうなりたいのか。
メリーランは不安に押しつぶされそうになりながらも、歩き続けた。
答えを出すために何をすればいいのか、それを探し求めて…
「リオン…」
ふとリオンの名前を呟いた。
それに何の意味があるのかはわからない…




