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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第5章 過去からの呼び声

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園香

「ごめんね、マイちゃん。買い物にまで付き合ってもらって」

「いいってことよ、夕食は豪華な方がいいしな」

 買い物カゴを手にした園香に、舞奈はニヤリと笑みを返す。


 放課後に真神邸を訪れた舞奈は、その足で近所のスーパーにやって来た。

 夕食の材料の買い出しである。


 普段の舞奈は安いモヤシを更にタイムセールで安く買う卑しい客だ。

 だが今日は園香が一緒だ。

 園香は親から食事代を貰っている。

 だから今日は主婦のように普通に買い物ができる。

 舞奈は子供役だ。チャビーや奈良坂を笑えない。


 そんな舞奈を見やって、園香も笑う。

 以前に彼女は、買い物に出かけようとして誘拐された。

 だが今回は舞奈と一緒に家を出たし、ニュース番組を賑わせているような物騒な事件にも、人さらいをしそうな喫煙者にも出くわさなかった。

 だからか園香の表情は明るい。


「卵に、鶏肉に、玉ねぎに……あ、サラダにするお野菜も買わなくちゃだね」

「ゾマってさ……」

「なあに?」

「そうやってると、なんか、お母ちゃんみたいだな」

 そう言って、小学生にあるまじき長身でナイスバディなクラスメートを見やる。


 ワンピースの胸元はメロンのように大ぶりで、やわらかそうにふくらんでいる。

 それを間近で見やって至福の笑みを浮かべる。

 舞奈の体格は平均的な小5のそれなので、並ぶとメロンのあたりに顔が来る。


「もうっ、マイちゃんったら」

 園香は照れたように笑う。


 食材の詰まったカゴを腕にかける彼女の仕草はしとやかで、触れれば壊れてしまいそうなほどやわらかく、なのに抱きしめたくなるほど艶めかしい。


 たぶん舞奈は、彼女に美佳の面影を重ねている。

 彼女に、母代わりだった美佳と同じ母性を感じようとしている。

 この狂おしいほどの感情が目の前の彼女に向けられたものなのか、過去に向けられたものなのかわからなくて、何となく罪悪感を感じた。だから、


「いやいや、褒めたんだってば」

 軽薄な笑みで心の迷いを覆い隠す。

 いつもと同じように。


「……そういや、ししとうってどいつなんだ? サラダに入れるのか?」

 野菜売り場をきょろきょろと眺める。


 親孝行な園香と違って、3年前の幼い舞奈は家事を手伝ったりはしなかった。

 平時には日が暮れるまで一樹と遊んで、美佳の手料理を当然のように食べた。

 なので野菜の種類なんて数えるほどしか知らない。


「ししとうは生じゃ食べないかな」

 園香は苦笑しつつ野菜売り場を歩く。

 そして売り場の一角で立ち止まり、パックを手に取った。


「これがししとうだよ」

 差し出されたパックをまじまじと見やり、

「ふにゃふにゃだな……」

 ひとりごちる。


 パックに詰められた緑色の野菜は、以前に聞いた通りピーマンに似ていた。

 でもピーマンより細くて、ふにゃっとしていた。

 舞奈はもう小5だからピーマンが苦手だとか子供のようなことを言ったりはしない。 だが、ししとうはピーマンより食べやすそうだ。

 そんなことを考えていると、園香はパックをカゴに入れた。


「いいのか?」

「うん。バターで炒めると美味しいんだよ。オムライスの付け合わせにするね」

「お、そりゃ聞いてるだけで美味そうだ」

 そう言って笑う。


 舞奈は万年赤貧なのに、ご馳走は張やスミスの店で食べ慣れている。

 なので舌も肥えている。


 だが、自分が話題にした食べ物がアドリブで食卓にあがる喜びはまた別だ。

 これにはご馳走うんぬんとは違う種類の嬉しさと、高揚感がある。

 子供が親に、晩御飯を好物にしてくれとねだる時と似た感じだ。


「それにしても、さすがはゾマだ。食いものの事なら何でもござれだな」

「もうっ、マイちゃんったら」

 そんな事を言って笑い合いながら、2人はレジに向かった。

 ……3年前のあの日々のように。


 その晩の真神邸。


 舞奈は可愛らしいチェック模様のテーブルクロスに頬杖をついて、フライパン片手にオムレツを焼く園香の後姿を眺めていた。


 薄手のワンピースに包まれた形の良い尻が、ふりふりと誘うように揺れる。

 ダイニングとひとつながりになったキッチンには、舞奈と園香しかいない。


 本来ならば舞奈も手伝うべき状況ではある。

 だが、園香は手際よくケチャップご飯を炒め、鼻歌交じりに卵を焼いている。

 そこに舞奈がでしゃばっても、尻を触るくらいしかすることがない。

 気弱な女子小学生が怪異を前にして怯えることしかできないように、戦闘に特化した最強不敗のSランクは家の中では腹を空かせたただの子供だ。


 それに、フライパンが卵を焼くジュウジュウという音と、園香が口ずさむ鼻歌を聞きながら、その後姿を見ていたかった。


 園香は、のびやかな肢体を覆うワンピースの上にエプロンをつけている。

 踊るようなリズムでフライパンと箸を操る。

 その姿が、満ち足りていたあの頃を思い起こさせるから。


(このまま園香に溺れたら、もうミカやカズキのこと、考えずに済むのかな……)

 舞奈がふと思った途端、ボブカットを揺らして園香が振り返った。

 大人しげな顔には、奥手な彼女にしては珍しい満面の笑みが浮かんでいる。

 料理が会心の出来なのだろう。


 舞奈も過去を覆い隠すように、あいまいな笑みを返す。


 テーブルクロスの上に並べられたウサギ柄の皿に、ケチャップご飯と付け合わせのししとう炒め、そしてふわふわのオムレツが盛りつけられる。

 食欲をそそられる卵の甘い香りに、舞奈は目を輝かせる。


 園香は仕上げとばかりに、火から下ろした鍋とおたまを手に取る。

 オムレツの上に、湯気をあげる手製のソースをたっぷりとかける。

 濃厚なデミグラスソースの香りが、鼻孔いっぱいに広がる。


 エプロンの下で、メロンのような大ぶりな胸がぷるんと揺れた。


「こりゃ美味しそうだ」

 舞奈は舌なめずりする。


「えへへ、今日は自信作なんだ」

 園香は笑みを浮かべながら、テーブルクロスの中央にサラダバーの皿を置く。

 ウサギ柄のエプロンを外して、向かいのイスに座る。


「いただきます」

 2人してそう言って、スプーンとフォークを手に取る。

 舞奈はソースに浸かったオムレツとご飯をすくって口に運ぶ。

 とろけるようにやわらかな卵の感触と、優しいソースの風味が口の中に広がる。


 ふと見やると、園香も同じように今日の自信作を頬張っていた。

 花弁のような唇の端にソースをつけて、自分と同じものを咀嚼する。

 そんな彼女の面持が、何故か舞奈の目には艶めかしく映った。


「マイちゃん、ひょっとして口に合わなかった?」

「そんなことないよ。最高の出来だ」

 不安げな問いに、呆けた顔で彼女に魅入っていたことに気づいた。

「よかった」

 あわてて返した舞奈の言葉に、園香は安堵の笑みを洩らす。


 誤魔化すように、付け合わせの炒め物をスプーンで器用にすくう。

 バターの風味が香るししとうは思ったより肉厚で、いい感じに塩コショウが効いている。これには誤魔化しようもなく笑みがこぼれた。


「そういえば、今日はチャビーの奴、いっしょじゃないんだな」

 再びオムライスを口に運びつつ、舞奈は問いかけてみる。


「うん。チャビーちゃん、明日、ライブに行くっていうから……」

 最近のチャビーは、どこかのバンドのヴォーカルに熱を上げている。

 明日はそのバンドとやらのライブがあって、今晩はその準備をしているらしい。

 三剣悟などという存在は、もはや彼女にとっては過ぎ去った過去だ。

 ある意味うらやましい生き方である。


「ごめんね、マイちゃん……」

 舞奈の知人に不義理を働いたと感じたか、神妙な顔の園香に、


「気にするだけ損だよ。相手はチャビーなんだ」

 ニッと笑ってみせる。

 そもそも園香に落ち度はない。

 それに何というか、今さらチャビーの移り気の早さを気にしても仕方がない。


「じゃ、今夜は2人か」

 口元になんとなく笑みを浮かべ、中央のサラダバーにフォークを伸ばす。

 そこで不可解な感触を感じて思わず見やる。


「あ……」

「いや、スマン……」

 同じニンジンスティックを2人で取ろうとしたらしい。譲ろうか貰おうかと迷っているうちに、どちらからともなく笑みがこぼれる。


「なあ、園香――」

 舞奈は笑みを浮かべたまま、思い切って口を開いた。


 そして食事の後に、メロンをいただいた。


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