すべてが滅んだその後で
そして、私の前には勇者の骸が転がっていました。
「ほんの少しでしたが、あなたとの旅は、楽しかった」
昔、自分に仕えてくれた勇者を思い出し、リリサに昔の自分を重ねた。
そして、本当に幸せになってほしいと願った。
平和な世で、結婚する勇者とお姫様。
腕いっぱいの花束を抱えて、お祝いに来るつもりだった。
なのに……。
「ああ、こんなはずじゃなかったのに……」
どうすればよかったんでしょうか。
敵すらも救えるヒーローになるには。
「答えは知っていますよ。味方を一人も失わず、敵も殺さず倒すだけ。そして仲良くなる必要があります」
そして、現実は残酷。
いくら鍛えたところで、そこまでは、強くはなれることはない。
ほんの少しの傷が、致命傷になるこの世界で、夢幻だと理解している。
希望を奪われるのは、何度目でしょうか。
「希望はどこにもありませんでした」
期待したことは何一つ叶いませんでした。
ストークムス王と和解すること。
誰も殺さずに済むこと。
そして、勇者と仲良くなること。
姫を殺されても、私のことを許してくれたのなら、私も許しましたのに。
勇者と魔王が手を取り合う未来。
きっとそれは幻想。
だって、長い歴史の中で、そんな伝説は一つも残されていないのだから。
「きっと私が勇者を名乗っていれば、語り継がれる伝説も正義の物語だったんでしょうね」
愛する息子のために、国すら滅ぼしたおばあ様。
愛する国を守るため、妻と息子を見捨てたウーツおじい様。
私は、国民みんなが大好きだったので、ウーツ様の考えの元、二人を殺しました。
ですが、私は、未だにどちらが正しいかわかりません。
国を守る正義は確かにこの手にありました。
それでも、国のために仲良くなった友達すら殺すことを正義だとは思えません。
だから、私は、魔王でいい。
だけど、本心は……。
「本当は、私も勇者になりたかったなぁ」
涙はこぼれ続けます。
誰に見られることなく。
誰も、魔王の悲しみなど語り継いでくれるものはいません。
状況から憶測されるのは、魔王の悪行のみ。
「まあ、いいんですけどね」
その憶測は、概ね正しいのですから。
失ったものの数など数えていられません。
涙を拭いて、前を向きます。
「さあ、帰りますか」
帰る人が待つ我が国サンヴァ―ラへ。
きっとフィルクが、おいしいものをいっぱい用意して待ってくれていますから。
◇ ◇ ◇
この地ストークムスには伝説があった。
魔王と戦った勇者の伝説。
魔王は言った。
「世界の半分を分け与えよう。我と仲間になろうじゃないか」
勇者は、魔王の甘言を振り払い勇敢に戦い。
世界に平和が訪れたという。
そんな勇者の伝説が……。




