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聖剣魔王~嫌いな勇者は殲滅です!~  作者: 名録史郎


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正しさと愚かさ

 王が死んだ。

 ニルナさんが、殺した。


 目の前に、想像していた中での最悪の光景が広がっていた。

 

 広がり続ける悪辣。

 とどまることを知らない絶望。

 まき散らし続ける狂気。


「いやぁあああ、お父様」


 姫は、悲鳴を上げ続けていた。

 今まで聞いたことないほどの声も、ニルナさんには届かない。


 ニルナさんの異様に赤く輝く瞳は、次の標的を捕らえた。


 対象は、王妃様だ。


 王の後ろの方で、小さくなっていた王妃に剣を向ける。


「私はなにもしていないわ」

 

 後ずさりながら、いやいやと拒否するように、首を振り続ける王妃様。


「だから、ダメなんですよ」


 そんな、王妃様にニルナさんは静かに言いました。


「あなたは自分の夫が、サンヴァーラを攻めるといった時、止めようとしましたか?」


「そ、それは……」


 王妃様は、僕が王を説得しているときも関心がない様子だった。


「娘が、サンヴァーラと友好を結んだ方がいいといったとき同意しましたか?」


「リリサは、そんなことは……」


 その言葉に、ニルナさんは、ちらりと姫を見ました。

 より一層冷たい声で王妃様に言いました。


「あなたは、親としても最低ですね。子を沢山産めばいいというものではありません」


 沢山いたはずの王の子供達は、姫を除いてニルナさんが殺してしまいました。

 なのに、悲しみよりも、自分の死の恐怖しかないことに、ニルナさんは失望していました。


 ニルナさんの瞳から慈悲が消えると、王妃様の首筋に刃を近づけます。


「ワタクシは戦うことすら……」


 王妃様は、涙を流しながら、懇願します。


「誰かが守ってくれるなんて幻想でしたよ」


 ニルナさんは、静かに昔を語ります。


「おじい様は、ゾンビを前に、戦う力を持たず魔力すらなかった私に剣を握らせ、敵を倒せと命じました」


 無力は罪である。

 端的にそう語っていた。


「そもそも魔王に命乞いが通用すると思うこと自体」


 ニルナさんは、剣を振り上げ。


「愚かしい」


 言葉と共に、剣を振り下ろした。


ズシャ。


 王妃様の体が無残にズレ、倒れていく。

 王座は、真っ赤に染まってしまった


「これで終わりです」


 王座には、死体が二つ。

 ストークムスの終わりを静かに告げていた。


 僕の胸に後悔が津波のように押し寄せて来た。

 こうなることは、わかっていたはずなのに、どうすることもできなかった。


 もし、やり直せたら……。


「勇者、お父様とお母様を蘇らせて」


 姫が、僕を引っ張りそう言います。


「ああ」


 そうだ。

 僕には、時を遡ることができる。クロノスソードがある。

 僕は、急いで自身の剣を変形させ、魔法効果を発動させようとして……。


 いくら振っても、いつもの『時の鐘』が鳴り響かない。


「無駄ですよ。勇者」


 ニルナさん剣から魔法効果が放たれていた。


聖剣変形「時の女神(ヴェルダンディ―)


 ニルナさんの聖剣が、見たことない形に変形していく。


「この剣の効果は、『現在』正しく時を刻むための剣です」


 アンチ魔法。

 しかも、僕のクロノスソード専用のアンチ魔法だ。


「どんな悲惨な過去だって、大切な過去です。戻ることは許されない」


 親兄弟すら全員死んでしまったと言っていたニルナさん。

 それすらも、大切な過去だと語る。

 

「進むべきは前。蘇りも、やり直しも、全て私が許しません」


 後悔する暇があれば、失敗した過去すら力にして進めと言っているよう。

 

「さあ、リリサ友好を結びましょう」


 ニルナさんは、ニッコリ笑って言った。


「なんで?」


 姫は、後ずさりながら、聞き返した。

 こんな状況で、そんな言葉をいうニルナさんが、信じられないとでも言うように。


「なんでとは? ああ、王妃がなにか言っていましたが、私はそんな嘘に騙されたりしませんよ」


 説得しきれなかった。

 姫は説得すらしなかった。

 そのことを水に流す、そう言ってくれているようでした。


「リリサ? どうしたんですか」


 ニルナさんは、優しく微笑む。


 足元に転がる王と王妃の死体などないかのようにいつも通りのニルナさん。

 ああ、それがなにより恐ろしい。

 友達の親族を殺し尽くして、正気なその姿が。


 それは、まわりのものを狂わせる。


「お前なんかと、友達になれる奴など、この世にいるものか」


 姫の口から隠していたはずの本音が零れる。


「お父さんを、お母さんをお兄様たちを殺しておいて、友好を結ぶ? 友達になりましょう? 頭おかしいんじゃないの?」


 親、兄弟姉妹を思う心、それは人として正しく……。

 魔王を目の前にした判断として、あまりにも間違っていた。


「勇者殺しなさい。この、目の前の悪しき者を! さあ、早く!」


 ニルナさんの目に、悲しみと冷たさが宿る。

 まるで、出会った頃に戻ったように。

 だけど、少しだけ優しさが残っていた。

 

「そうですね。敵と友好を結ぼうなんて頭がおかしいと思います」


 ゆっくり剣を構え直すニルナさん。

 僕は、姫とニルナさんの間に、入った。


「ニルナさん、姫は動転しているだけで、本心は違って」


 僕の背中越しに暴言を吐き続ける姫。


 動転して、本音が駄々洩れになっているというのが本当だろう。

 多分それは、ニルナさんもわかっている。


 だからこそ、どうしようもないほどの悲しみを含めながら、ニルナさんは言った。


「まあ、勇者、たいしたことはありません。当初の予定に戻っただけですから」


「ニルナさん、当初の予定って……」


「言ったでしょう。王を殺すって」


「王は死にました。もう戦いは終わったんです」


 ニルナさんは、首をふる。


「王族は、リリサ一人。リリサが王です」


 つまり、初めは王族を全て殺すつもりだった。

 そういうことだ。


「滅んだ先にしか、新たな世界は生まれません」


「敵をすべて滅ぼした先の平和だなんて」


「そうですね。どう考えても悪いに決まっています」


 ニルナさんは、僕をしっかり見つめていいました。


「だからこそ私は魔王。悪意の権化です。あなたには覚悟がありますか?」


 魔王は、僕に問う。

 勇者としての資格を。

 それが紛い物だったとしても、

 正義を信じ剣を振るえるのかと。


「僕は……」


 勇者を任命されただけの僕に、答えられるだけの覚悟がなかった。


「さて勇者、魔王と勇者らしく殺し合いしましょうか」


 覚悟がなくても、戦わなくてはいけないとでもいうように。 

 

「僕にあなたと戦う理由は……」


「勇者、あなたには感謝しています。あなたがいたからほんのひと時でしたが、『魔王と勇者が手を取り、平和を築き上げました』そんなおとぎ話を夢見ることができました」


「今からでも、間に合います」


 ニルナさんは、首を振る。


「一度目は寛大な心でもって、二度目はどんなことがあっても許すな。私は、そう教わりました」


 先ほどのが、最後のチャンスだったのだ。

 それは、痛いほどわかっている。

 挽回の方法は……。


「なにをしているのですか。勇者、早く殺しなさい」 

 

 姫は、いまだに僕の後ろでわめいている。

 確かに仲良くなどできるはずがない。


 もう少し落ち着けば姫だって……。

 僕が説得すれば……。


 そうだ。

 だからこそ、ニルナさんは僕に期待したのに、

 できなかった。 


 確かにニルナさんの立場なら、信じられないだろう。


「だから、魔王からプレゼントをあげましょう」


「なにを」


「私と戦う理由を」


 言葉に気を取られすぎた。

 ニルナさんの瞳の動きにつられてしまう。


 ニルナさんは、僕がつられた逆方向から、一瞬で回り込むと、姫の首を斬り飛ばした。


 ニルナさんが殺したウサギと同じように転がっていく姫の首。


 絶望と共に、姫の血がまき散らされていく。


「うわああああああああ」


 僕の喉が、信じられないほどの叫びをあげていた。

 強制的に、正義の心が引きずり出される。


 魔王を倒せと、勇者の心が叫んでいた。 

 

「さあ、私に本当の勇者の姿を見せてみなさい!」


 勇者と魔王の最後の戦いが始まった。


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