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聖剣魔王~嫌いな勇者は殲滅です!~  作者: 名録史郎


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魔獣

魔獣変化「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)


 変形した剣が、浮かび上がり尻尾のようになると、グララの姿が変わっていきます。

 眼が鬼灯のようで、腹も血が滲んだように赤くなっています。

 そして何より特徴的なのが、腹頭と尾はそれぞれ八つずつあるドラゴンと化しました。 


 魔法効果『竜化』による変身。

 竜界のドラゴンではなく、ヤオヨロズの神界にいるドラゴンのようです。


「なるほど、その剣も私のスルトソードと同じ、二段階変形形態ですか」


 スルトソードは、『グニルズ・ブルースト』の魔力で変形させたフレイソードに『ラグナロク』を流し込むことで発動する特殊形態です。

 どうやら、ヤマタノオロチも『ヤオヨロズ』で変形させたアメノムラクモソードに『ヒャッキヤコウ』の魔力を流し込むことで発動する特殊形態のようです。


「あなたも、複数の魔力持ちだったとは」


 強力な魔法使いでも、複数持っていることは稀です。

 あらゆる魔法の研究をしているフィルクですら、使えるのはコスモス系統だけです。

 

 そして複数の魔力を完璧に使いこなせるものとなると……。


 私は、山のように大きなドラゴンを見上げました。

 確かに切り札と呼ぶにはふさわしい。


聖剣変形「運命の剣(ウィ―ザルソード)


 私は、聖剣をウィ―ザルソードに変形させて、頭を鞭のようにしならせる攻撃をギリギリで躱しました。


「そんな当たりやすい的など」


 私は、通常形態に戻しながら、魔力で強化し頭部に振り下ろします。


 ガキンッ!


「むっ? 硬い」


 鱗は固く、綺麗な剣筋にもかかわらず、鋼鉄を斬りつけてしまったような反動が手に返ってきます。

 刃こぼれをおこした聖剣に魔力を再構築を行います。


「剣が無理ならこれです」


 さらに魔力を流し込みます。


聖剣変形「雷神の鉄槌(ミョルニル)(メギンギョルズ)篭手(ヤールングレイプル)


 私はミョルニルを久しぶりに完全形態で変形させました。

 聖剣から帯が伸びてきて、ズボリと篭手に手を差し込みました。

 巨大なハンマーであるミョルニルと超怪力の効果を持つメギンギョルズとヤールングレイプルです。


 私は、再び振り下ろされる、蛇の頭を真正面から撃ち返しました。


 押し負けることなく、撃ち返すと魔法効果『粉砕』で頭部が砂のように崩れていきます。


「さあ、どうですか。ん?」


 見ていると崩壊が途中で、止まってしまいました。

 まるで聖剣が再構築されていくように、ドラゴンの頭が再び生えていきます。

 全身魔導具のようなものでしょう。


「ならば、全部叩き潰すだけです」


 破壊力と再生力どちらが早いかという単純な話です。

 

 私が迎え打とうと、担ぐようにハンマーを構えると、ヤマタノオロチの口から、どろりと液体があふれ出ました。


 明らかに毒液です。


 ヤマタノオロチは口からはプシューと毒液が噴き出して周囲を侵食していきます。

 私はミョルニルを解き、息を止めながら風上に走り抜けました。


「本当に厄介ですね」


 鱗は固く、まともに剣もとおりそうにありません。

 頭が八もあり同時に潰さなければ、元に戻り、毒まで持っています。


 強大な魔力があり、魔王を名乗っていても、体は人間です。

 毒に耐性があるわけではありません。

 

「どうだ。怖じ気づいたか」


 ヤマタノオロチの口が輪唱するように、言葉を発します。


 怖じ気づく?

 私がそんなことするわけありません。


「本当は、ヨウキおばあ様の力は使いたくないんですけど」


「あっ?」


 私の独り言に、ヤマタノオロチが首をかしげます。


「見せてあげます」


 伝説では語られない極悪。

 御伽噺では逆に隠しきらない性格の悪さ。


「これが本当の切り札です」


 私は女王。

 この世の全てを欲する者。


「世界は、全て私の物です」


 魔力開放『 創生(グニルズ・ブルースト)


 世界の始まりを告げるような色鮮やかな魔力が放ちます。

 それは、神々の祈り。


 ノイズがはしるように、神の力に邪悪さが顔を出します。


 神が純粋であると誰が決めたのか。

 強大な力を持っているが故の強欲。


 純粋にして最悪の極意。

 全てを手中に収めたい。


 際限のない欲望が胸の内をみたしました。


聖剣変形「豊穣と愛と美の女神(ブリーシング)首飾り(ネックレス)


 聖剣が光り輝くネックレスに変わると、シュルりと私の首に巻き付きます。


「見せてあげます。これが私の変身能力です」


 満たされない無限の飢餓が喉から溢れてきます。


 本能が訴えます。


 残らず喰らいつくしてしまえ、と。


 心の内に飼いならしている獣を解き放ちます。


動物変化「怒りて臥す者(ニーズヘッグ)


 私は空を仰ぐと、世界を震わすほどの咆哮をあげました。

 体に巡っていた毒をも上回る毒が私の口から垂れ下がり、大地を穢していきます。


 私は、漆黒の鱗に覆われた巨大な手で、ヤマタノオロチの頭の一つを押さえつけると、そのまま齧り付きました。


「俺の頭はすぐに再生し……」


 魔力が頭に流し込まれますが、再生しません。

 

「どうなっている。なぜ再生しない」


 まあ、もちろん私は理由を知っています。


「この竜は魂を喰らいますよ」


 世界の根幹を司る大樹すら、かみ砕く竜です。


「その竜が、どんな神話を司っているか知りませんがね。私の竜は、全てが滅んだ世界ですら生き残った竜なのです」


 理不尽すら……いえ、自らが理不尽と化して、ヤマタノオロチに迫ります。


 ニーズヘッグにとって腕のない頭が多いだけの蛇などただの餌でしかありません。


 頭の一つをつかむと、引きちぎり自らの口に押し込みます。

 感じたことのない世界の感覚が全身に染みわたります。


「これが、魔力の味ですか!」


 ルーンさんがいつも美味しそうに食べているわけです。


 ああ、これは、旨い。


 完全な魔獣ニーズヘッグとなったことで、魂の味がします。


 私は、次々に新しい頭に手を出しました。


「やめてくれ!」


 命乞いの声が聞こえてきます。


「ははは」


 命乞いなど、優しき心あるものにする者です。

 私が聞く耳もっているはずがありません。


 三つ四つ五つ六つ七つと食べているとあっというまに残り一つになってしまいました。

 頭一つになってしまえば、ヤマタノオロチなど、ただのでかい蛇です。

 蛇ならば、いつも美味しく食べています。


「いただきます」


 私が、元が何であったかなど気にせず、かぶりつくため大きく口を開けた瞬間。


「やめろぉおおおおお」


 絶叫しながら、グララが魔法の力を解きました。

 空中で体勢を崩しながら小さくなり落ちていくグララに、私は、腕を振り下ろしました。


ズグシャァアア。 


 人の姿に戻った私の聖剣が、グララの胸に深く突き刺さっていました。


「もう終わりですか。つまらないですね」


 引き抜くと一瞬だけ、血が噴き出しました。


 終わってしまえば、あっけないものです。


 周りの炎も鎮火してしてしまい、私の悪行を塗りつぶす夜の帳が降りてきます。


「さて、あちらではどのような話になっていますかね?」


 疑問形で口に出してみたものの。

 私の中では結論は出ています。

 もう希望も期待も胸にはありません。

 むしろ、私自身が絶望そのものです。


「さあ、絶望をまき散らしますか」


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