魔王vs勇者国の王族
私の頭上から、容赦なく降り注ぐ、グララの炎を見上げます。
『コスモス』の魔力を発動させて、バングルを変形させます。
聖装変形「戦乙女の盾」
グララの炎が、アイギスの盾から発生したアンチ魔法の力を秘めた障壁にあたると掻き消えます。
「たぁああ!」
炎に紛れるように、突っ込んできたサーカの斬撃を、華麗な蝶のようにかわして、蹴りで吹き飛ばします。
「動きがなってませんね。バレバレですよ」
遠くから、シャラララとなる鈴の音と共に、祝詞の声が聞こえました。
「天地の創造主よ、我らの誠実なる心を受け止め、神聖なる恵みをこのストークムスに注ぎ給え。そして、神聖なる光で悪しき魔王の闇を祓いたまえ」
女から魔力が立ち上ります。
魔力解放『八百万の神々』
神々の栄光に満ちた、自然との調和ある平和と繁栄をもたらすような魔力が放たれます。
「これなら、どう」
女の持つ美しい絹糸や麻糸で丁寧に編まれた棒状の物に、光り輝く魔力が、注がれていきます。
魔串変形「天照大神」
女が手に持つ棒が、光に包まれると、大砲が現れました。
「フィルクのゼウスキャノンと同系統ですか」
強力な属性魔法を収束して、放つ形状でしょう。
キュイイイィイィイイイイン。
魔力という名のエネルギーが充填されていきます。
アイギスの盾に、『ラグナロク』を込めます。
『ラグナロクパリィ』
コスモスで展開していたアンチ魔法が、ラグナロクに置き換えました。
「いけぇ!」
女の掛け声と共に、昼になったかと思うほどの、まばゆさの光の帯が大砲から放たれました。
光の帯が、私の展開している障壁に当たると、消失しました。
まるでなにも初めから存在していなかったように。
「さあ、この程度ですか」
フィルクの魔法と比べると、たいしたことはありません。
「どうなってるのよ。魔法は使えないはずなのに」
随分と女の魔力が減っています。
どうやら今のが全力だったようです。
「あなたのアンチ魔法を私のアンチ魔法が上回っているだけですよ」
範囲拡大はできませんが、私のアンチ魔法に右に出る者はいません。
そもそも私が自在に使用できる属性魔法形態はスルトソードだけ。
私は魔法使いではなく、剣士。
どんな苦境も剣一本あれば乗り越えられる。
「一撃でも当てられれば……」
私は、サーカの持っている剣を一瞥しました。
「その剣の魔法効果は『切断』でしょう」
一撃でも受ければ、回復魔法のないこの世界では致命傷でしょう。
わかっているからこそ、全部避けていました。
ただ、そろそろ実力差をわからせる時でしょう。
「そんなに自信があるのなら、一撃受けてあげますよ。死んでも知りませんが」
私は、『グニルズ・ブルースト』の魔力を聖剣に込めます。
聖剣変形「雷神の鉄槌」
聖剣に埋め込まれたエンブレムが黄色に光り輝きます。
剣は、カシャカシャと音を立てながら形を変えていくと、大きなハンマーになりました。
「なめやがって」
サーカが力強く踏み込んで、私に向かって斬りかかってきました。
私は、真正面からミョルニルで迎え撃ちます。
ほんの少しミョルニルに切れ込みが入ります。
圧倒的質量を誇るミョルニルが私の魔力で再構築されていきます。
それと同時に、大量の魔力をため込んだミョルニルが効果を発揮します。
魔法効果『粉砕』
サーカの魔力を私の魔法効果が上回った瞬間、サーカの聖剣が砂のようになり崩れていきます。
「あっ」
間抜けな声を上げているサーカにむかって、そのまま容赦なくハンマーを振り下ろしました。
バンッ!
まるで風船が割れるように、サーカが血をまき散らし弾けました。
グシャグシャと血肉が辺りに飛び散り、一番近くにいた私が一番真っ赤な雨を受け止めました。
「サーカ!」
「いやぁあ、兄様」
グララと女が叫びます。
「綺麗な花火みたいですね」
私は、飛んできた血肉を払いながら言います。
破壊力という意味では、ミョルニルが私の聖剣形態で最強です。
真正面から受けるなど、馬鹿のすること。
馬鹿は死なないと治りません。
「次は、あなたです」
ミョルニルを剣に戻し、再度魔力を込めなおしました。
聖剣変形「運命の剣」
私は、聖剣を使い慣れた剣形態にしました。
体が軽くなり、そのまま、風のように女にせまります。
「助けて、殺さないで」
命乞いが聞こえてきましたが、急に止まれるわけがありません。
私が、通り過ぎるように、駆け抜けます。
「ああ、少し言うのが遅かったようですね」
振り返ると、私は剣を振りました。
剣から、一滴の血がしたたり落ちました。
「えっ?」
ピシッと女の全身に、赤い線が現れました。
ほとんど厚みのないウィ―ザルソードで斬られたものは、痛みすら感じる間すらなく。
それはまるで、そよ風に通り抜けられたように。
死に絶える。
女はバラバラの肉塊になって崩れ落ちていきます。
「ははは、あとはグララあなただけですよ」
私がばかにしたように言うと、グララの炎がさらに燃え上がりました。
「弟たちをよくも」
グララが怒り任せに放ってくる炎の球を、私はステップを踏みながら、避けます。
「弱いくせに出しゃばってくるのが悪いのです」
私は、今回は王族に定めていました。
ただ、王族が何人いるかなんて把握していません。
初めから尻尾を巻いて逃げ出せば助かったかもしれません。
「どうしますか? あなたの魔法なら逃げるだけならできるかもしれませんよ?」
グララの魔法は、通常の属性魔法ではなく、体が炎になる魔法効果『炎化』とみました。
間合いに入ってきたら確実に仕留める自信はありますが、移動速度も速く、きっちり私の間合いに入らないように立ち回っています。
ですが、私のラグナロクパリィを打ち破れるほどの、威力はありません。
女が死んで、アンチ魔法の効果がなくなっています。
スルトソードがヒノカグツチよりも強いのは、すでに実証済み。
私に勝てる見込みはゼロです。
「俺の魔法が『火之迦具土神』だけだと思うなよ」
グララが、魔力を再度高めました。
魔力解放『八百万の神々』
神々の栄光に満ちたような魔力が放たれます。
魔力が剣に注がれていきます。
聖剣変形「天叢雲剣」
刀身全体が青白い神秘的な輝きを秘めた剣になりました。
神聖な破魔の力を感じます。
魔王である私に対抗するのに、ふさわしい剣です。
「いいでしょう。最後は剣術で勝負ということなら受けて立ちますよ」
私は、剣形状と最強形態に変形しようと、魔力を切り替えようとしました。
「そんなわけないだろう。俺は確実に勝てる勝負しかしない」
グララから別種の魔力が立ち上りました。
魔力解放『百鬼夜行』
闇夜を不気味な魑魅魍魎が跋扈するような魔力が迸ります。
その魔力が、神々の魔力に混ざり込みます。
「見せてやろう。俺の切り札を!」




