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聖剣魔王~嫌いな勇者は殲滅です!~  作者: 名録史郎


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海賊の世界一の宝


 あと少しでサンヴァ―ラというところで、私ラニーラ率いるサンヴァ―ラの民は追い詰められていました。

 今までは、冒険者などを避けるように逃げ延びてきましたが、サンヴァ―ラが近くなったところで、ストークムス軍に鉢合わせしてしまいました。


「後少しで国境を越えるっていうのによう」


 マイラスが、愚痴をいいながら、敵を蹴散らしていきます。

 ストークムス軍は私たちのことを、敵軍だと認識してしまったらしい。


「こっちに攻撃の意思はないのに、普通民間人狙う?」


 私は、マイラスが足止めしている兵士に、馬車の上から弓で狙い撃ちました。

 綺麗にヘッドショットを決めます。


「でもよ。ニルナ様の話じゃ、サンヴァーラは軍がないんだろう」


「ということは、略奪じゃない!」


 自分が住んでいた国が、そんなことをしようとしているなんて思いもしなかった。

 サンヴァーラの肩を持つ者は、魔王に与する反逆者として処罰されると聞いたこともある。

 魔王だから仕方ないと思っていたが、自分の目で見ると実態は全然違った。

 魔王討伐にかこつけた侵略だった。


「矢を早く持ってきて!」


 私は、クーカ村長に叫ぶ。

 資材も足りてない。矢は使いまわすしかない。

 戦うことのできないものは、死体から矢を抜かせる。


 私の矢が切れたところを見計らい、兵士の一人が突撃してきた。


「ウイングアロー」


 風の矢が、弓に形成されて、兵士の胸を貫いた。


 私は威嚇のために、疾風の矢をもう何本か敵兵に向かって牽制射撃する。


 兵士が、私の弓を警戒してくれる。


 いざというときのために、念のために込めていてよかった。


(本当は、あんまり魔力なんてないんだけど)


 声に出さずに、愚痴る。


 この弓は、形状は弓だけど魔導具。

 ニルナ様の聖剣と同じく、通常形態が武器として使用できるタイプ。


 カタカタカタ。


 弓がわずかに振動始めるのを、私は握力で押さえつける。

 魔法を使うと、なぜかこの弓、振動して狙いが定まりにくくなるという反作用もあった。


(これがなければ、もっといい魔導具なのに) 


 私が魔導具に手間取っているうちに、マイラスが襲われました。


「ぐっ」


「マイラス!」


 マイラスが、敵を吹き飛ばしながら、自分の腕を押さえた。

 手から血がこぼれている。


「ラニーラさん! これを」


 私は、村長が持ってきてくれた矢を急いで構えて、射る。

 綺麗な軌道を描いて、矢が突き刺さった。


「マイラス、怪我は?」


「大丈夫だ……」


 顔を見ると、しかめていて蒼白になっている。


 全然、大丈夫そうではない。

 村長が肩を貸す。


 命に別状はないが戦えそうにない。


 少しだけ、後ろを確認する。


 護衛の任務だから当たり前だが、戦えないものが多すぎる。


 女、子供、老人。

 みんな心配そうに私を見ています。


 無理かもしれない。

 初めからその覚悟はあったのだ。


 それでも、希望を持って。


 最後まで諦めずに、やれば未来が見えるかもしれない。


 そう思っていたけど、実力が足りそうにない。


 敵は、容赦してくれそうにない。

 まあ、私も、そこそこ殺した。

 お互い様と言われれば、それまで。


「ニルナ様……」


 頼りにしてくれたのに、ダメかもしれない。


 あきらめが心を覆いつくそうとした時。

 月に大きな獣の影が映りました。


「あれは!」

 

 大きな狼が天高くから舞い降りた。


 大地に激震が走る。


 狼の背から一人の男が飛び降りた。


 黄金の鬣のような髪。

 背も高く筋骨隆々の肉体。

 太陽のように異様に赤く輝く瞳。

 ただし、似合わない女物の剣を持っています。


「えっ? だれ?」


 雰囲気だけは、似ている人を知っています。

 見た目違うのに、まるでニルナ様が激怒した姿のようで。


「よく頑張ったのう。ここは、もうサンヴァーラ、あとは妾達に任せるんじゃ」


 男ではなく、狼がしゃべりました。

 女声で、しかも老獪なおかしなしゃべり方です。


「俺様に滅ぼしてほしいのは、どこのどいつだ」 


 男は、私たちが戦っていたストークムス軍を見ると、野獣のような表情を見せました。


 剣を高く掲げると魔力が高鳴り、あたりが震撼しました。


魔力解放『滅びの宴(ラグナロク)


 世界を滅ぼすかのような魔力が放たれます。


聖剣変形「大狼の牙(フェンリルファング)


 剣は、刃が細かく割れて、両刃の鋸のような形状に変化しました。

 魔力が注がれると、ギュルルルルと刃が回転します。


 兵士の一人に剣を振り下ろすと、鎧ごとぐちゃぐちゃに切り下ろしていきます。

 剣で受けようとする剣士は、剣ごと切り伏せられます。


「うわぁあああああ」


 優勢だったはずの兵士たちは、突然現れた厄災のような男から逃げまどいます。


「これは、奪い合いだろう? 賭けたものはおいていけ」 


 人の命を奪うものは、自分の命を奪われる覚悟を。

 

「サンヴァ―ラに踏み込んだものは、俺様の海賊の流儀に従え」


 激しさを増していく、滅びの魔力が形を変えて剣に注がれていきます。


聖剣変形「大海蛇の腹(ヨルムンガルドソード)


 剣に魔力が注がれると、関節が外れるように、刃の部分が等間隔で分断されて、ワイヤーでつながれた鞭のようなものになります。


 男が剣を振るうと、恐ろしい速さで剣が伸びていき、兵士たちの首に巻き付いていきました。

 男が剣を引っ張ると、いくつもの兵士の首が宙を舞いました。


 運よく生き残った兵士たちは、散り散りになって逃げていきます。


「ちっ」


 男は、舌打ちすると、狼に言いました。


「おい。ルーン逃がすな」


「ソウは容赦ないのう」


「久しぶりの現世だ。当たり前だろう」


 狼は、小さくなると、茶髪ロングの小さな女の子の姿になった。

 耳が見たことないほど、とんがっています。

 

「本当久しぶりじゃの。お前さんは結婚してからは遊んでくれなくなったからの。200年ぶりじゃな」


 声は高いのに口調は老獪。

 存在感がふわふわしています。


「でも、こやつら守ってやるのが先じゃ」


 ルーンと呼ばれた女の子は、私にいいました。


「ん? お前さんはサンヴァーラ人じゃないの。なのに、サンヴァーラの民を守ってくれとるのか」


「そうです。私はニルナ様に頼まれて、あなた達は?」


「なんじゃ、ニルナの知り合いかの。んーそうじゃの。妾達は、ニルナの保護者のようなもんじゃよ」


 保護者?

 なるほど。確かに男の金髪といい、不敵な笑い方といいニルナ様そっくりです。

 血縁者ということでしょう。


 どうやら、男の名はソウ。

 女の子の名はルーンというらしい。


 ルーンさんは、私の弓に手を触れました。


「それにしても、お前さん、いい魔導具持っとるの」


「それは祖先から伝わる魔導具でして」


「でもなんで『ヤオヨロズ』で使っとるんじゃ。『コスモス』の魔導具じゃろう」


「ヤオヨロズ? コスモス?」


 多分、魔法の話だと思いますが、正式に魔法を学んだことはないので、なんのことかよくわかりません。


「なんじゃ。そんなことも知らんのか。せっかく魔導具は、変形したがっておるというのにのー。どれ、手伝ってやるかの」


 そういうと、ルーンさんは勝手に私の弓をいじり始めました。


「おい。ルーン。もたもたするな。あいつら、援軍呼んできたぞ」


 近接で敵わないと考えたストークムス軍は、どうやら魔法で私たちを一掃するようにしたようでした。

 あちこちから魔力が発現しているのを感じます。


「わかっとる。ちょっとチクっとするが我慢するんじゃぞ」


 突然、ルーンさんが私の首筋に噛みついてきました。

 体の中心から、なにかが引きずり出されるように顔をだします。


「えっ? なに」


 自分の瞳が、真っ青に光り輝くのを感じました。


魔力強制解放『秩序宇宙(コスモス)


 煌めく星々が無限に広がっていくような魔力が私から放たれました。

 魔力が勝手に、弓にむかって流れていきます。


魔弓変形『狩猟の女神(アルテミスボウ)


 弓は、空に浮かぶ星のように光り輝くと、形を変えていきます。

 大地に根を張ったような、大きな横向きのバリスタになりました。


「な、なにこれ?」


「いいから、支えるんじゃ」


 私は、いわれた通り弓を、敵軍に向けました。


キュイィーン。


 魔力が収束していって、バリスタに風の矢が形成されます。


「撃て!」


 ものすごい反動とともに、空を覆う星の数ほどに増えた矢が、敵の魔法を空中で迎撃しながら、ストークムス軍に向かって降り注ぎました。


 一撃で敵軍が半壊してしまいました。


「嘘でしょう……。これが私の魔法?」


 魔力を根こそぎ持って行かれて、意識がもうろうとしたまま敵軍の惨状をみます。

 サンヴァ―ラ国民たちも、圧倒的力で崩壊したストークムス軍をポカンと見ています。


「どうじゃ、これが古代の魔導書と謡われた、妾の実力じゃ」


 古代の魔導書って、確かにルーンと呼ばれていたような。

 じゃあ、もしかして、この人がその魔導書?


「小僧には負けてるがな」


「それを言うんじゃない。あやつは、異常じゃぞ」


 こんな戦の後だというのに、楽しそうに二人は話しています。


 二人は、一緒のタイミングで、ストークムス軍の方を見ました。


「ん? あいつら、まだひかないのか」


 ストークムス軍は、まだ負けたつもりはないようです。

 さらに援軍を呼び、先程よりも大軍になっていました。


「いいぜ。久しぶりの現世だ。とことんやりあおうじゃないか」


「今度は、ソウの魔力をもらうとするかの」


「いいぞ。さあ、仕上げだ」


魔力解放『滅びの宴(ラグナロク)

 

 再び、滅びの魔力が放たれ、男の掌に収束していきます。

 塊になった魔力をポーンと投げ上げると、パクっとルーンさんが食べました。


魔獣変化「大海蛇(ヨルムンガンド)


 ルーンさんの体が、赤く輝くと、天に体が伸びていきます。

 みるみるうちに世界を飲み込むほどの大蛇になりました。

 男は、その頭に飛び乗ります。


「さあ、奪い合いの始まりだ!」


 男の目は、太陽のように赤く輝く。

 

 夜が明けないでほしい。

 そう願いたくなるほどの、禍々しい赤。


「世界一の宝、サンヴァーラを俺様から奪おうというのなら、命で対価を支払ってもらおうか」


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