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聖剣魔王~嫌いな勇者は殲滅です!~  作者: 名録史郎


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魔王に託された想い


 僕ら三人の目の前に、壮大な城があった。

 他の国と違い瓦の屋根が特徴的な城は、威厳ある石造りで築かれ、雄大な存在感を放っている。

 屋根の上には、金色に光り輝く魚のような鯱という飾りもついている。


「ここまで長い道のりでしたね」


 ニルナさんが、城を前にしみじみと言う。

 ニルナさんにとってはそうだろう。

 東の端の国から遠路はるばるやってきたのだから。

 

「僕は、初めの町で魔王にあって、戻ってきたんですが……」


 この城は、魔王城とかではなく、僕が魔王討伐の任命を受けたストークムス城だ。

 王に任命されて、意気揚々と出発したのに、すぐに出戻りとか恥ずかしすぎる。

 とはいえ、平和のためならば、恥はかきすてるべきだろう。

 

「ニルナさんは、ここで待っていてもらえますか」


 とはいえ、城の中に魔王を連れて行くわけにはいかない。

 王には、僕と姫から、ことの経緯を話さなければならないだろう。

 ニルナさんも、僕の意図が伝わり、頷く。

 

「そうですね。勇者、ストークムス王の交渉お願いし……」


 ニルナさんが最後まで言い終わらずに、上を見上げる。

 僕がつられて見上げると、突如、太陽のように輝く大きな火の玉が現れた。


聖剣変形「時の神(クロノスソード)


 僕は、剣を腰につけたままクロノスソードに変形させると、急いで姫を抱えて、その場を離れた。

 火の玉は尾を引きながら落下してきて、ニルナさんがいた場所に、着弾した。


 ズドーンと激しい音を立てて、


「ニルナさん!」


 僕がみると、余裕でかわしていたニルナさんが、剣を抜き構えている。

 そして、表情は僕が初めて会った時のように、邪悪な笑みを浮かべていた。


「随分と、客に対するマナーのなっていない、熱烈な歓迎ですね」


 ニルナさんは、炎の塊に向かってそう言った。

 城門の前に、クレーターを作った炎の塊は、少しずつ人の形になっていく。

 炎の人物が、僕に声をかけてくる。


「セカル、この一目でヤバそうな女は何者だ?」


 燃え盛る剣火之迦具土神(ヒノカグツチ)を持った人物。


「グララ様」


 この国の僕以外の勇者にして、第一王子であるグララ・ストークムス様だった。

 僕が、どう質問しようか逡巡していると。

 

「兄上、その方は、魔王ニルナ・サンヴァ―ラです」


 姫が、そのまま説明してしまった。


「おいおい、こいつはどういうことだ? どうして、妹と魔王が一緒にいる。それに魔王にやられたサーカの話では、魔王は男の魔法使いとのはなしだっただろう」


「魔法使い? 魔王は、私でまちがいありません。ああ、そのサーカという男は、先日私の国にやってきた勇者ですね」


 サーカ様は、第二王子。

 確か、サンヴァ―ラに赴き、多彩な魔法を使いこなす魔王に、攻撃されたとの話だった。

 ニルナさんも、魔法を使うが、魔法使いと表現するには、違和感がある。


「グララ様、やはり誤解があるのでは」


 ニルナさんは、行動は無茶苦茶ではあるが、話が通じない人ではない。

 むやみに意味もなく他国に攻め入る人ではない。


「なにが誤解だ。サーカは、魔王は話し合いに応じず攻撃されたと」


「フィルクから話を聞いていますよ。()便()()()()()()()()()と攻撃されたとは心外ですね。フィルクは戦ったつもりもないでしょうに」


「なんだと」


 弟を馬鹿にされて、激昂するグララ様。

 つまり、サーカ様が戦ったのは、噂の婚約者か。

 ニルナさんが言うには、僕よりもはるかに強いとの話だった。

 サーカ様も勇者クラスだというのに、相手にもしてもらえなかったらしい。


 ニルナさんは、剣を納めます。


「何のつもりだ?」


「こちらは戦いに来たつもりはありません。こちらに戦意はありません。剣を納めてはもらえませんか」


「魔王の言うことを信じるわけないだろう」


 ニルナさんは、ため息をついた。

 その回答が来ることを知っていたように。


「初めから私が話して、通じるとは思っていません」

 

 掻き消えるように、移動すると、ニルナさんは僕の傍に移動していた。


 ニルナさんは、ゆったりと、地平線を見る。

 空が綺麗に夕日に染まってきていた。


「そうですね。日が暮れるまでは我慢します」


 あと一時間ぐらいだろうか。

 それが時間制限ということだろう。


「勇者、お願いします。王を説得してください」


 僕は、頷くと姫と一緒に城の中に向かって駆け出した。

 僕の背中にニルナさんの優しげな言葉が聞こえてきた。


「次会うとき、あなたと味方であることを心より願っています」

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