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聖剣魔王~嫌いな勇者は殲滅です!~  作者: 名録史郎


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悪魔の恐怖


 ほんの少しでも、あたしに恐怖を覚えれば、魂を奪う魔術を使える。

 そのはずなのに……。


 目の前の女から感じるのは、あたしをいたぶる嗜虐心だけ。


 恐怖を感じているのは、あたしの方だ。


「あははは」


 追いかけまわして、笑い声をあげていたのは、いつもはあたしだった。

 初めて会った女が、いつものあたしと同じ笑い声をあげてあたしを追い回す。

 逃げても、逃げても周り込まれて、足や手を斬りとばされる。


「どこに行くんですか? まあ、遊びといえば追いかけっこですよね?」


 異様な青色に染まった瞳は、魔力が高いことの証。

 そして、純粋な冷たさは……。

 ああ、これは殺しなれた人間の目だ。


「そろそろ胴体にいきましょうか?」


 ズシャ!

 

 体の芯がずれる感覚。

 世界が滑り落ちていく。


 ぬいぐるみが、私の体を支え、むりやり繋いでいく。


 女は、その間待っていた。

 早く剣の切れ味を試したいとでもいうように。


「あたしは、何度殺しても死なないのよ」


 それは嘘である。

 人間から奪った魂がなくなれば、死ぬ。

 ただの苦し紛れ。


「ゾンビと同じですね。なら、ちょっと魔法使ってみてもいいですか?」


 女の瞳の色が、青から紫へと変わる。


魔力開放『混沌(カオス)創生(グニルズ・ブルースト)


 世界を滅ぼすような暴力的な性質の魔力が混ざる。

 場を支配していた秩序の魔力が崩れていく。


「今なら、魔術が……」


 手を女にむかってかざすも、弱り切った心が動かず、魔術が発動しなかった。


聖剣変形「炎の巨人の大剣(スルトソード)


 周囲の空気が一気に熱をはらむ。

 振り抜かれると剣が、爆炎を放ち、蛇のように炎が私にまとわりついてきます。


 熱い、熱い、熱い……。


 この世界の魔力に耐性がある自分の体。

 それが結果的に、炎が少しずつ肌を焼いていくことになり、痛みと恐怖を増幅させる。


「――」


 炎は喉を焼き潰し、痛みを和らげるための絶叫をあげることもできない。


「やはり定期的に訓練するに限りますね」


 女は自分の燃える剣を、誕生日のろうそくのように吹き消した。


 もうこれで終わり……。

 ようやくこの地獄から解放される。

 そうおもったところで……。


「早く回復してください。試したい技が沢山あるんです」


 絶望の言葉。


 女の魔力の性質が次々と変わり続ける。

 それに呼応するように、カシャン、カシャンと変形し続ける剣。

 もはや、拷問器具にしか見えない。


「あああ」


 心は折れた。

 なにもかも。


 それでも、心が痛いほど叫んでいた。

 

 死にたくはない、と。


 悪魔としてのプライドはかけらも残っていなかった。

 あるのは、せいぜい、命に対する執着ぐらいだ。


「……許して。なんでもするから」


 気づいたら、地に頭をつけて許しを乞いていた。


 無駄だと思いながらも。


「はい! 許しましょう!」


 目の前の女の回答は、予想していないことだった。


「えっ」


「遊びはおわりということですよね」


「遊び……?」


「あなたが言ったんでしょう。悪魔とは、自らの命すら天秤にかけて、遊ぶのですね。楽しかったですね」


「もしかして、本当に遊んで?」


「はい!その通りですよ。だって遊んで欲しかったんですよね? おかげで随分満足しましたよ。ありがとうございます! それに悪魔というのは、つまり魔王の手下ということですよね?」


 魔王……? 


「あなたは一体?」


「私は、魔王ニルナ・サンヴァ―ラです! あっ。言ってしまいました」


「魔王は悪魔の王というわけじゃ……」


「手下に悪魔が、一人ぐらいいてもいいなぁと思ってたんですよ。手下になってくれますよね?」


 拒否すなわち死。

 一択しか用意されていない質問。


 ああ、でも、この方こそ……。


 悪魔の王にふさわしい!

 

 一度空っぽになった感情に与えられる慈悲。

 壊れた心にはあまりに甘美で……。

 

「はい! 喜んで」


 もはや至福としか言えなかった。


◇ ◇ ◇


 僕は、邪神教徒たちを全員お縄につけ、ニルナさんの元に急いだ。

 ニルナさんが戦ったと思われる場所は、爆発でもあったように荒廃していた。

 そんな中、ポツリとニルナさんが立っていた。


「ニルナさん! 無事ですか?」


「はい!もちろんですよ」


 いつもの感じで……いや、いつもより満足気な表情で、元気に返事するニルナさん。

 あんまり心配はしていなかったけど、問題はなかったようだ。


「悪魔は……?」


 そう言いかけて、ようやく気付いた。

 角を生やした女が、ニルナさんの腕に抱きついていた。


「手下にしました!」


「んんんんん?」


 なにがどうなったらそうなるんだろう。

 戦ったのは、間違いないはずなのに。


 僕が疑問符でいっぱいになっている中、ニルナさんは、悪魔に講義を始めた。


「いいですか。私は、ストークムスと国交を結びます。これからはストークムス民を襲ってはいけません。わかりましたか?」 


「はい! 魔王様!」


「この国では、魔王とは呼ばないように」


「はい! お姉様」

 

 頬を赤く染め、恍惚とした表情でニルナさんを見つめている悪魔。

 うん。完全に手下だ。

 それは間違いない。


 そうだとしても、許されるわけではない。


「これから襲わなければ、それでいいわけじゃあ……」


 僕がそういうと、さえぎるようにニルナさんが言った。


「何を言っているんですか? あなたも悪魔と同じです」


「えっ?」


「あなたが悪魔を許さないというのなら、私もあなたを許しません。あなたは、サンヴァーラ国民を殺したのですから」


「あっ……」


 許されないことをした。

 それでも許すというのだ。

 過去は問わないと。

 未来を誓えと。


 だから、今僕は、生きてる。


 ニルナさんにとっては、悪魔も勇者も違いはない。


「今、私は勇者のパーティーに所属しています。つまり、あなたは勇者の一味ということです。わかりましたか?」


「はい!お姉様!」


 元気に返事をする悪魔。

 そして、悪魔は僕に言った。


「よろしく、勇者」


「んんん?」


 なにが、どうして、そうなったんだろう?


 勇者の仲間に悪魔が加わった。


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