悪魔と戯れ
勇者が、悪魔教の人たちに、向かっていく気配を後ろに感じながら、私は歩みを進めます。
さて、悪魔ですか。
初めて見ますね。
近づきながら、悪魔の容姿を観察します。
無邪気なあどけなさを宿した女の子。
ただし、髪は青く、片方の側面から大きな角が生えています。
くすくすと人を馬鹿にしたような笑いは、まるで不幸は蜜の味とでもいうようです。
悪魔の足元には、人形がいっぱい転がっていて、悪魔も一際大きなつぎはぎだらけのぬいぐるみを抱えています。
聖剣変形「勝利の剣」
念のため、聖剣はフレイソードにしておきます。
私に気付いた悪魔が、私に問いかけます。
「あなたは?」
質問されて、一瞬口ごもる。
いけない。魔王と言うところでした。
「えーと。勇者の仲間です」
「ああ、あっちの男のこと」
勇者が時間停止の魔法を発動させて、悪魔教の人々を捕縛しつつ、皆を助けて行っています。
勇者の魔法は、救助を行うには最適といえます。
「あーあ、玩具が逃げちゃった」
悪魔は、落胆したような声を出しました。
「ま、いっか、またつかまえればいいし、それともあなたが代わりに遊んでくれるの? アハハハ」
「はい。なにして遊びますか?」
「悪魔の遊びといったら決まってるじゃない。もちろん殺し合いよ」
「わかりました」
「遊びだから、魔法を使うのは、反則だよ」
「いいですよ」
私は、ルールに従い、聖剣の変形を解きます。
「馬鹿ね。人形になっちゃえ」
悪魔から天から糸が降り注いできて手足にまとわりつくような不思議な力が放たれます。
魔術「人形化」
まとわりついてきた糸のような力が私を傀儡にしてしまおうと、働きかけます。
「魔法が、反則なら、魔術も反則なのでは?」
私は、魔術が自分に作用する直前に、魔力を高鳴らせました。
魔力解放『秩序宇宙』
煌めく星々が無限に広がっていくような魔力が私から放たれます。
『コスモスパリィ』
全てを、秩序の元に従える魔力が、奇跡が起きる余地を封じ込めます。
「あれ? なんで? 発動しないの?」
魔術が発動しなかったことに悪魔は首を傾げます。
「フィルクの話では、悪魔の使う魔術と私達が使う魔法の違いは、魂魄の魂をエネルギーに使うか、魄をエネルギーに使うかの違いしかないとのことです」
「あなた魔術のこと理解して……」
「私は、なんのことかは分かりません」
「わからないの?」
フィルクの受け売りなので、意味はよく分かっていません。
「はい。ですが、フィルクに一つだけ習いました」
フィルク入っていました『ニルナ様は一つだけ覚えておけばいい』と、それは……。
「コスモスの魔力なら、悪魔の魔術を無力化できると」
これだけ覚えておけば、あとはたいしたことありません。
問題は、私はコスモスでは、ほとんど聖剣を変形できないということです。
「魔術効かないんだ。でも、このお人形さんは、このまちの住人よ。あなたに攻撃できるかしら?」
カタカタカタと、木彫りの人形が悪魔を守るように立ち上がりながら、私に向かってきます。
ですが、聖剣は単純な剣としても、優秀です。
私は、踏み込むと、守るように立っていた人形ごと悪魔の腕を切り飛ばしました。
「ぎゃああああ!」
悪魔が、絶叫を上げます。
「痛い、痛い……」
悪魔は涙目になって、斬れた腕をおさえます。
しゅうしゅう音をたてるとまた腕が生えてきました。
「えっ、なんで攻撃してきたの? あなた話聞いてた?」
「聞いてますよ」
私は、頷いて見せます。
「この人形には、このまちの人間の魂が宿って」
「そうですか、可哀想ですね」
「そうだから、攻撃は……」
「だから、どうしたって感じですが」
「えっ?」
私の言葉に、戸惑う悪魔。
私は気にせず、再び踏み込むと、今度は足を斬りとばしました。
「ぎぃぃ」
悪魔が、さび付いた蝶番がむりやり開くような悲鳴を上げます。
人形を盾に、体を引きずって逃げようとします。
私は、人形を斬り飛ばし踏み壊しながら、ゆっくり追いかけます。
「な、なんであなた、人の心がないの?」
人の心?
悪魔のくせに変なことを言います。
ふらふらと立ち上がる、不気味な人形たち。
私には、以前同じような光景をたくさん見ました。
「その人形は、ゾンビみたいなものですよね?」
ふらふらとおぼつかない足取りで私に迫ってくる人形はまるでゾンビのようでした。
まあ、実際のゾンビを見慣れている私には、たいしたことはありません。
「何千体ものゾンビになった自国民すら、殺し尽くして、原因の魔女を滅ぼした私です」
どこを斬ってもしばらくすると、復活するゾンビをひたすら斬り続けた日々。
絶望を飲み干し続けて、力に変えていったあの頃。
なつかしさすら感じます。
「あたしが魔術をとけば、この人形は元の人間に戻るのよ」
悪魔は必死に訴えます。
ですが、私は目に映るものしか信じません。
「本当かどうかもわからない。ましてや他国の人間。あなたの言葉が本当だったとしても、あなたが魔術を解かなければ戻ることはない。もはや死んだも同然の人間を斬ることなんて、躊躇ったりしませんよ?」
回復した腕をもう一度斬りとばそうと、私は剣を構えます。
「そ、その程度の攻撃であたしが、死んだりは……」
「なかなか死なないというのはありがたい話です。ひさしぶりに、思う存分、斬ってみたかったんですよ」
「えっ?」
「知っていますか? 剣士が強くなる方法、それは単純です。斬りまくること」
私は、悪魔の手を斬りつけました。
「あがッ」
手に感じる人を斬る感覚。
しばらく、しないと忘れてしまうものです。
「いいですね。久しぶりです」
魔法なしを私が承諾した理由。
本来私は、剣士。
魔法など、なくても大差ありません。
「私は、ゾンビを斬りまくりました。はじめのうちは、うまく斬れず、剣が抜けなくなってしまうこともありました。今では、ある程度硬い鎧をしていたとしても、斬ることができるようになりました」
一撃で死んでしまう人間は斬り飽きていたところです。
強くなるこそが、私の喜び。
異様に青い瞳が、嗜虐心に澄んでいくのを感じます。
「あなたは、斬りごたえがありそうですね。私の遊び相手になってもらいましょうか」




