魔王の国の御伽噺
僕らは鹿に引っ張られながら、隣の町を目指す。
運転はニルナさんだ。
本当に万能だ。
僕との戦闘後も一切休まず動き続けている。
どんな体力なんだろう。
日も暮れかかっている。
魔王に連れ去られていくというのに、子供たちはお腹いっぱいで幸せそうに寝ている子が多い。
姫も僕の隣でぐっすり寝ている。
僕の隣には、牢屋であった年長だった男の子がいた。
「君は寝ないの?」
「だって、お兄ちゃんは伝説の勇者パーティーなんだよね?」
勇者パーティーというより、魔王パーティーだ。
ほとんど僕は役にも立ってない。
それに、僕は王に任命されただけで、伝説の勇者というわけでもない。
「君はどんな勇者の伝説を知ってるの?」
「んーよくはしらないかなぁ」
なにも伝わっていないじゃないか。
なにが伝説の勇者だ。
「あ、でも、斧のおじさんは、御伽噺を語ってくれたよ」
斧のおじさんというのは、子供たちを捕まえていた盗賊の頭領……ニルナさんの国のどこかの村長だ。
「どんな物語?」
「一番よく語ってくれたのは『腹黒姫と海賊王』かな」
「うん?」
題名からして不穏だ。
「どんな話?」
「えーとね」
◆ ◆ ◆
【腹黒姫と海賊王】
むかしむかしあるところに、美人でしたが、ものすごくわがままで、腹黒いお姫様がいました。
くる日もくる日も、あれが欲しい。これが欲しい。と毎日のように言います。
手をやいていた王様は、お姫様と結婚した勇者を次の王にすると宣言しました。
たくさんの勇者が城にやってきました。
お姫様は、一番強い勇者と結婚したいと考えました。お姫様は勇者たちに言います。
「ワタクシの頼んだものを持って来てくれたら、その人の妻になりましょう」
お姫様は、だれが持ってきてくれるか、ワクワクしながら言いました。
「あらゆる人を洗脳する腕輪。不老不死の秘術が書かれた魔導書。空を飛ぶ羽根ペン。リヴァイアサンの七色に輝く鱗。ドワーフが作った宝剣。これらの宝いずれかを持って来た者と結婚してあげる」と。
だれもが言いました。
「いや、そこまでして、結婚したいわけではない」と。
怒ったお姫様は、自分で探し出した洗脳の腕輪で、勇者をみな洗脳してしまいます。
くる日もくる日も勇者達に残りの宝を探させました。
そして、ついに全ての宝のありかがわかりました!
なんと宝は、海賊の王が、全て所持していたのです。
姫は、思いました。
海賊を洗脳してしまえば、世界も宝も全て自分の物だと。
そして、自ら海賊にさらわれました。
海賊が、捕まえた姫にキスをしようとしたとき、姫は、腕輪を使い、海賊を洗脳しようとしました。
ですが、できませんでした。
なんと海賊は、世界最高のアンチ魔法の使い手だったのです。
海賊は、全てを見透かしたようにお姫様に言いました。
「俺は嫁に良識は求めない。美人ならばそれでいい」
悪事を働こうとしたのに、一切お咎めがなかったお姫様は海賊に惚れてしまいました。
それからとういうもの、真実の愛に目覚めたお姫様は、海賊と結婚し末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
おしまい。
◆ ◆ ◆
物語を聞き終わっても不穏だった。
腹黒姫は、本当に腹黒い。
「うーん? めでたしかな?」
めでたしになっていいのか、そのお姫様……。
「すごい話だね」
あれ? でも……。
この御伽噺、サンヴァーラの国民が語ったということは、もしかすると……。
「これ、サンヴァーラの御伽噺ですよね? ニルナさん、知っていますか?」
僕がニルナさんに、声をかけると、少し視線だけ送ってきた。
「知っているというか、私の祖先の話ですね」
「祖先?」
言われてみれば、サンヴァーラの姫ということは、そういうことになるのか……。
「ということは、事実なんですか」
「そうですよ。祖先に海賊王がいます。それに、ほとんどの宝に心当たりがあります」
「おとぎ話の宝にですか?」
「ドワーフが作った宝剣は、私が使っている聖剣のことですね。コスモス、ラグナロク、トリシューラ他にもいろいろな魔力に対応しています」
ニルナさんは、手綱を握ったまま、片手で剣を引き抜くと、いろいろな形状の剣に変形して見せる。
「うわぁ。すっごい!」
男の子は、目を輝かせた。
強力な魔導具でも、そんなに変形するものは珍しい。
それを完璧に使いこなす人もほとんどこの世にいないだろう。
「腕輪は、私がつけているこれですね」
ニルナさんは、今度を腕につけている腕輪を見せてくれた。
「えっ?」
確かおとぎ話の中では、あらゆる人を洗脳するって……。
「洗脳魔法は使ったことありませんが、使えるはずです」
使えるんだ。
「あとは防具に変形します。基本私は、剣で防ぐので、あまりしません」
僕の攻撃も完璧に剣でさばいていた。
「空飛ぶ羽根ペンは、私の婚約者フィルクが持っていますし、リヴァイアサンは海賊王であるおじい様が倒した竜ですね。宝物庫のどこかに鱗があった気がします。帰ったら大掃除しないと、踏んづけちゃうんですよね」
伝説のお宝も、雑に放り投げてあるような言い方だ。
というか、婚約者いるんだ。
確かに左手の薬指に指輪がついている。
今、気がついた。
「不老不死の秘術が書かれた魔導書だけよくわかりません。ルーンさんに聞けば何かわかるかもしれません」
「ルーンって古代の魔導書のことですよね?」
「ルーンは、人の名前ですよ」
「いや、だから、生きた古代の魔導書のことをルーンって言うんですよ」
「ルーンさん自体が魔導書みたいなもの……とでも言いたいんですか? そんな大層な人ではないですよ」
「どんな人なんですか」
「毎日お城でお昼寝しています。日向ぼっこが好きですね」
「へぇー」
猫みたいな人なんだろうか。
確かに、たいしたことなさそうだ。
「種族は吸血王の古代種です」
ニルナさんがあんまりさらっというから、聞き逃すところだった。
「とんでもない人じゃないですか!」
ダメだろう。そんな種族を掛け合わしたら。
そもそも吸血鬼って日向ぼっこしていいんだっけ?
でも、その人が古代の生きた魔導書で間違いない。
そんな人をたいしたことないという、ニルナさんが一番とんでもない。
「なら全部家に、ありますよ」
「すげぇなぁ。お姉さん何者だよ?」
「私は、勇者のお友達です。落ち着いたら、私の家に遊びに来てくださいね」
ニルナさんは、穏やかに言う。
「やったぁ。約束だよ」
遊びにいく約束をした場所は、魔王城なんだけどなぁ。
いいんだろうかと思いながら、楽しみにしている少年の顔を眺めた。
『腹黒姫と海賊王』はシリーズの短編にあります。
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