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聖剣魔王~嫌いな勇者は殲滅です!~  作者: 名録史郎


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新たな仲間と新たな決意

 勇者と魔王が友達になる。

 そんなこと想像もしていなかったものだから、どうしたらいいのかわからない。

 地に足がつかないフワフワした感覚が僕の胸に漂っている。

 

「さて、思うところはいろいろあるでしょうが、ひとまず私をあなたのパーティーに加えてください」


「僕のパーティーに魔王が? 負けたのは僕なのに」


「私は、この国での立ち振る舞いが分かりません。あなたに従った方が良さそうです。それに、自ら名乗らなければ意外と私が魔王だと気づかれません。しばらくは魔王と名乗るのも控えますね」


「それはそうですよね」


 僕も、初め目を疑った。

 こんな敵国の真ん中に一人で魔王がいるとは、普通思わない。

 物語に出てくる魔王のように、角が生えているわけでもない。


「私のことは、ニルナと呼んでください」


「ニルナ……さん」


 僕は思わず敬称をつけた。

 負けたのに呼び捨てにするわけにもいかない。

 結局、僕は魔王――ニルナさんの厚情で生きているにすぎないのだから。


「そこのあなたもいいですか?」


「は、はい」


 姫もおずおずと返事をする。

 状況についていけず元々白い顔から、血の気がない。


「お二人の名前教えてもらえますか?」


「僕は、勇者セカル」


「リリサ・ストークムスです」


「ストークムス? あなた、王族だったんですね」


「はい。そうですの。私は王の娘になります」


「王族も一枚岩ではないでしょうからね。それにこれからは王を殺しに行くわけではなく、和平を結びに行きます。あなたも父親の説得に力をかしてもらいますよ」


「はい」


 姫の本心はわからないが、思慮深く、他者を尊重する姫のことだ。

 理解してくれるだろう。

 

「では、よろしくお願いします」


 ニルナさんは、ニッコリ笑った。

 今までからは、想像できないほど、優しさと穏やかさが滲んでいた。


「さて、話もすんだことですし、子供を助けにいきましょうか」


 ニルナさんは、そう言うとずんずん一人ですすんでいく。

 僕らに背を向けているが、多分信頼しているというよりは、真後ろから攻撃されたとしても余裕で対応できるのだろう。


 相対してわかった。


 力量が違いすぎる。

 

 僕の魔法は、強力だったが、それが破られたあとは単純な、力の差で負けてしまった。

 魔法を過信しすぎていて、鍛錬を怠った……つもりはなかったけど、不足していたのは確かだ。


 ニルナさんのいう、本当の平和を目指すため僕ももっと頑張ろう。

 そう思うのだった。


◇ ◇ ◇ 


 牢屋につくと、子供達が捕らわれていた。

 暗い顔をしてる子も、確かにいたが、ほとんどの子は、気ままにパンをかじったり、独楽などで遊びながら楽しそうに暮らしていた。一番年上と思われる男の子が、僕らに気が付くと、近づいてきた。


 普通に、牢屋の扉を開けて出てくる。

 どうやら鍵もかかっていなかったらしい。


「お兄さん達が、おじさんが言ってた話を聞いてくれる人?」


「話を聞いてくれる?」


 なんのことだか、よくわからない。


「おじさんたちがいつも言っていたんだ。きっと俺たちの事情をちゃんと聴いてくれる心優しい奴が現れるって、それまで人質になって欲しいって」


 僕は、子供の言葉に目を伏せる。

 ニルナさんの言葉の真実味が増した瞬間だった。

 

「斧のおじさんは、一緒じゃないの?」


「それは……」


 僕が言いよどむと、ニルナさんが代わりに言った。


「すみません。私達が来た時には、もう……冒険者に襲われていたようです」


 ニルナさんが、嘘を……いや、厳密にいうと、僕は冒険者のようなものだ。

 盗賊が心無い冒険者に倒された。

 それは、どうしようもないほど、本当のことだった。


 男の子は、驚くでもなく、「そっか」と一言いうと悲しそうな顔をした。


「君は、盗賊たちが死んで悲しいの?」


「おじさんは、いつも僕らに謝ってた。僕らのお父さんとお母さんを殺しちゃったことを」


「あなたたちは、ちゃんと理解してるんですね」


「うん。まあね。小さい子達はよくわかってない子も多いけどね」


 男の子は、子供なりに、大人びた顔をしました。


「おじさんは、殺されそうになったから、殺してしまったんだって。家でお父さんとお母さんは、いつもあんな恐ろしい盗賊は死んでしまえって言ってたから、多分その通りなんだと思う」


 殺されたから、相手が悪いから、殺してしまえ。

 そんな簡単な勧善懲悪で、幸せになれると、どうして僕は信じていたのだろう。


 世界は悲しみで溢れている。

 それを加速させたのは、勇者である僕だ。

 僕は、本当は子供に平和の夢を見せる象徴であったのに。


 多分、僕に必要だったものは、勇気ではなくて、優しさだった。


 勇者でなくて、優者になりたい。

 新たな決意が、僕の心に芽を出していた。

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