一朗と二朗
瀧川一朗と滝川次郎の関係は……
兄と弟である。
腹違いなどではない。歳の差は十程度あるが、同じ両親から生まれた兄弟である。
幼少期より、その才気を周囲から羨望されていた一朗。当然その目は弟の『二朗』にも向けられ期待は高まるばかりだった。
一歳の頃にはよちよち歩きを始めた一朗。
一歳になってもはいはいすらしない二朗。
二歳の頃にはお手伝いさんや料理人を含む家中の全員のフルネームを言えるようになった一朗。
二歳になってもろくに喋らない二朗。
三歳の頃には九九を誦じてみせた一朗。
三歳になってようやく単語を発し始めた二朗。
……二朗の発達の遅さは誰の目にも明らかだった……
そんな二朗だけに名門瀧川家にあって、ほぼ全ての者に疎まれていた。どうしても一朗という優秀な兄と比べられてしまうからだ。一朗が二朗ぐらいの時には何でも一人でできたのにと。なぜ二朗はできないのかと。
そんな二朗の味方は……兄の一朗と、時たま訪ねてくる母方の祖母、滝川百合子だけだった。そう、両親の中ではすでに二朗はいない扱いになっていた……まだ三歳だというのに。
反面、一朗は二朗の面倒をよく見た。
絵本の読み聞かせからトイレトレーニング、屋敷内や庭を手を引きながら散歩して少しでも体力をつけたりと。まるで父と母、そして兄……三つの役割を一人で果たすかのように。
そんなある日。
一朗が中学校から帰ってくると、玄関に珍しい靴を発見した。大好きな祖母、百合子が来ているのだ。




