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灯火
水面に浮くだけならどうにか問題はない。飛び込んだ男は力強く次郎を掴んでいるのだから。
第一の問題は海面から上がれないことだ。岸壁はコンクリートで固められており切り立っている。しかも上は水面から四メートルはある。そこまで登ろうにも手をかける場所もない。登るためにはどこかにある階段か梯子を探すしかない。
第二の問題は次郎が息をしていないこと。一刻も早く救命措置をとる必要がある。
そして最後の問題は、飛び込んだ男に救命措置の経験などないことだった。
彼の名は白浜倶天。次郎が偉丈夫と慕う男、白浜組の頭である。
いつもの彼なら飛び込む前にロープの一本も垂らすはずだが、今回はそんな余裕などなかったのだろう。後先考えず飛び込んだらしい。
「くそったれがぁ……どうしろってんだぁ!」
さすがの彼も焦っている。
次郎の命は、刻一刻と失われていくのだから。




