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掴む手
水面まであと数メートル……次郎が気を失ったのはその辺りだった。水面に向けて伸ばした手は、意志も力も失くしている。
もう肺に空気は残っていない。次郎の浮上が止まる。
その目は開いているが、やはり意志は全く感じられない。
海に揺られ、水中を漂う。このまま沖へ流されるか、それとも再び海底へと沈んでしまうのか。
その時だった。何者かが海に飛び込んだのは。
明らかに次郎を助けようとしている。身一つで飛び込み、次郎の服を乱暴に掴んでいる。
そして、10秒もしないうちに海面まで引き上げることに成功した。
しかし、まだ解決したわけではない。問題が二つ、いや三つ残っている……




