戦慄する丘野
検察に向かう道中で丘野は電話をした。相手はもちろん瀧川一朗だ。
だが……
『申し訳ございません。旦那様はすでにお出かけになりました。丘野先生からご連絡があった旨と次郎様の件は確かにお伝えいたします』
屋敷の執事はそう言った。
「ちっ、こんな朝っぱらからどこに行きやがった。まあいい。とりあえず検察だな」
丘野はそうごちて車を走らせた。
だが、検察に着いてさらに困ることになる。次郎が来ていないというのだから。それどころか黒田も来ていなければ本日送致の予定もないという。
到着からわずか数分でここまでの情報を集めた丘野もさすがだが、事態がここまで酷いとは予想外だろう。人知れず頭を抱えている。どう考えてもやり過ぎなのだから。
藤崎家がこの県の警察に強い影響力を持つことは分かっている。だが、それでもここまでの横紙破りをするとは如何な丘野でも予想できるはずがない。バレたら破滅が待つほどの無法なのだから。
丘野は、空恐ろしいものを感じながら検察を出た。知己の新聞記者に何もかもぶち撒ける手はあるが、それは弁護士として最低。やるとしても最後の手段だろう。
もっとも、同じ県なのだから如何な新聞社といえど藤崎家の威光に逆らえるかは怪しいものだが。




