早朝の丘野
その頃、警察署では少しばかり問題が起きていた。
「だから接見に来たんですって。何か問題でもありますか?」
弁護士の丘野勇次郎だ。早朝にも関わらず面会に来ていた。もちろん次郎はいない。
通常であれば接見は午前九時からだが、弁護士である丘野には関係ない。いつ来ようが問題ないのだ。
「はあ!? 送致した!? いくら何でも早すぎでしょう!? 日の出前に出たってことですよね!?」
通常の場合、検察への送致は朝行われることが多い。だから丘野は万が一を警戒して日の出直後とも言える時間帯にやって来たのだ。しかし、いくら供述調書にサインしたからといってこのタイミングで送致されるとは……
逮捕が昨日の昼であるため、もし送致されるにしても明日の朝のはずなのに……通常ならば。
「送致を担当した警察官はどなたなんですか? たしか一人は黒田さんとおっしゃいましたか。」
その手の情報は警察側が漏らすことはない。丘野は承知の上で訊ねているだけだ。黒田の名前を出したのもただの揺さぶりでしかない。
「そうですか。分かりました。検察に顔を出してみます」
無論それが無意味であることも承知している。そちらでも面会はまず不可能なのだから。旧知の検察官がいることを暗に匂わせているのだろう。丘野は、使える手なら何でも使うつもりなのだ。




