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煌めきを求めて
呼吸が苦しくなる。目もあまり開けていられない。それでも泡は見える。仄暗い水底にあって、やけに煌めいて見えるのだから。少なくとも次郎にとっては。
覆面パトカーの着水からすでに四分は経過している。次郎が息を止めてからそろそろ二分近い。そろそろ限界だ。それでも次郎は浮上する泡を夢中で追っていた。
それは果たして生存本能なのか、それとも単に興味の為せるわざなのかは分からない。
だが次郎は浮上を続けていた。
いつしか水面の眩さが見えてきた。
次郎は無心で泳ぎ、浮上を続ける。
しかし、徐々に意識が薄れてきた。手足からも力が抜けていく。
無情にも、泡は次郎など無視して上昇していく。それでも次郎は手を伸ばす。待ってくれと言わんばかりに。そのせいか、最後の空気が口から漏れていった。
次郎の伸ばした手から、力が抜けた。




