泡のように
水流が安定し車も海底に鎮座した。
海水の冷たさもあってか次郎は再び冷静さを取り戻した。
こういった災害時において、最も忌避されることはパニックに陥ること、冷静さを失うことだと言われている。
その点において次郎はひとまず冷静だと言えるだろう。何も考えてないだけだと言われればそれまでだが。
運動会の徒競走や障害物競争など、全ての種目において常に最下位を取り続けてきた次郎。それは水泳においても例外ではない。クロールでも平泳ぎでも常に最下位だった。
つまり、次郎は泳げるということだ。
数瞬前まで芋洗い状態だったものが、海底に着いたせいか落ち着いたのだ。
そうなると次郎としては何も慌てることもない。呼吸にだってまだまだ余裕はある。それに、少し泳げぐだけで運転席から出られる。
しかもパニック状態で車から飛び出した藤島と違い、次郎にはどちらが上かはっきり判別できていた。覆面パトカーから漏れた空気が、はっきりと昇っていったのだから。
次郎にしては珍しく混乱することもなく、追随するのが当然かのように水面に向かって浮上を始めるのだった。




