足掻く藤島、冷静な次郎
黒田はそんな様子を遠目に見ながらコーヒーを飲んでいた。
「さぁて、課長に電話するかぁ。ここは公衆電話が遠くていけねぇな」
そう呟いて踵を返した。
一方、海に落ちた覆面パトカーは……
「くそっくそっ! どうなってんだよくそがぁ!」
藤島がもがいていた。必死にシートベルトを外そうとしているようだが、その手は何も掴めていない。焦るばかりで空を切っている。
「くそっがぁ! 外れろ! 外れろよぉ!」
一方、次郎は冷静だ。と言うより状況の変化に付いていけないだけだが。そもそもが理解できないことだらけなのだ。このままだと命が危ういことすら理解できてない可能性もある。
「外れろ! 外せ! どけよ! 何とかしろよ! 外れろよ!」
藤島は完全に錯乱している。すでに水は腰の上まで来ている。
「やめろ! くるな! はずせ! おいてめぇ! これはずせ!」
さすがの次郎もシートベルトの外し方ぐらい知っている。ゆえに、外せと言われたら、すぐに外した。
「あ、はず、れた……」
解放された藤島。しかし、危機が去ったわけではない。水はもう胸を越えた。車は沈みゆく。しっかりと浚渫工事がしてあるため、深い港へと。




