運転手は新人
次郎が弁護士と接見した翌早朝。まだ日も昇らないほどの時間に、黒田は次郎を留置場から連れ出した。昨日からずっと飲まず食わずで意識朦朧としていた次郎に抵抗できるはずもなく、手錠に繋がれたロープに引かれるがまま黒田の後を歩くのみだった。
「黒さんいいんですか? 俺は知りませんよ?」
「いいんだよ。課長には言ってあるからな。お前は検察まで運転するだけ。いつものことだろ?」
「そりゃそうですけど……」
逮捕された者は取り調べが終わり容疑が固まれば検察に送致される。だから次郎の身柄が検察に送られることに何も不思議もないはずだ。早朝という時間を除けば。
「こんな時間から検察ってやってんですかね?」
「構わんさ。ちょっと寄り道するからな」
「知りませんよ? 俺黒さんに言われたからって言いますからね」
「構わんさ。朝日に照らされた海でも見ながら一服しようぜ?」
こうして三人を乗せた覆面パトカーは従来のルートを外れやや遠回りをすることになる。
なお、運転は今年刑事課に配属されたばかりの新人だった。




