トラウマ
おそらく次郎は黒田に対して何らかのトラウマにも似た気持ちを覚えている。室内に二人だけになった時からやけに落ち着かず、視線も定まらない。
そんな次郎の様子に刑事である黒田が気付かぬはずもなく……
「おい! さっさとしろ! こっちも暇じゃねえんだよ!」
かなりの大声でがなり立てる。その度に体をビクビクと震わせる次郎。
なお、早朝から連れ出されて現在の時刻は午後二時半。当然ながら次郎は飲まず食わずである。トイレに行って何も出ないのも当然だろう。しかし、腹が減ったとも喉が渇いたとも言えないのが次郎である。
机をドンと叩く黒田。またも大きく体を震わせる次郎。その顔はまるで助けを求める子供のようである……
「自分が何やったか分かってないのか! あれだけのことしておいて何も知らないで済むと思うなよ!」
もちろん分かっていない。何もしていないのだから。しかし今次郎には、自分が何かをしてしまったのではないか……そんな思いが心に立ちこめつつあった。
そう。不意に思い出してしまったのだ。健二から蹴られ殴られ、藤崎家を追い出されたあの夜のことを。あの時のように、自分では分からないが何かしてしまったのではないかと……




