もふもふたちが、こころを癒す。
「はぁ~……」
仕事帰り。私はため息を何度も吐きながら、帰路を歩く。今日私は仕事でしょうもない失敗しをしてしまい、上司にこっぴどく叱られた。叱られたから……というのもあるけど、何より「失敗してしまった」ということが私にとって大ダメージで。
反省できた後は、あまりその失敗を引きずってはいけない──というのは頭ではわかっている……けど。
「はぁ~……」
仕事が終わった後も、私はその失敗をズルズルと引きずっていた。
「はぁ~……──ああもう!いつまでため息吐いてんのよ私!やってしまったことはもう考えても仕方ないことだし!反省したんだからもうオッケーなの!クヨクヨ終了!ため息も終わり!……そろそろ家に着くし。こんなところ、ぬいぐるみたちに見せたくないしね……」
家の外のドアの前まで来ると、私は深呼吸をして頬を両手でパチンっと叩いた。
「……よしっ!」
私は口角を無理矢理あげて微笑みそして。
「ただいまー!」
と、ドアを開けて明るい声でそう言った。するとぬいぐるみ達が、ぽぴゅぽぴゅと足音を鳴らしながら廊下を駆けてきた。
「お帰りなしゃい、ママ!」
と、くまくまはもふもふのおててを両手でフリフリしながら言い。
「お帰り♡ママン♡」
と、うさろんは長いお耳をぴこぴこと動かしながらウルウルおめめで私のことを見つめ。
「お帰りなさい、マ……おほんっ!お疲れさまです」
と、柴田さんは何故か頬を少し赤くしながら言い。
「お帰りにゃー!母上っ!」
と、ちゃとにゃんは私の足にスリスリしながら言い。
「お帰りなさい、ママさん。今日もお疲れさまです」
と、スネービーは丁寧に頭を下げて言った。
「ただいま、みんな!あ~お腹空いた!早くごはん食べよっ!みんなはケンカしないで仲良く遊べてた~?」
「ちゃとにゃんさんがまた、本棚の本を何冊かひっくり返してたんですよ!?元に戻すのが大変でしたよ!」
「にゃっ!?柴田殿言わないって約束したのに言ったにゃー!」
「そんな約束した記憶無いです!といいますか、悪いことをしたんだから少しは反省して下さいっ!」
「だって、本から出てた紐がヒラヒラしてて遊びたくなったんだにゃ!我輩は悪く無いにゃ!あの紐が悪いにゃ!」
「紐のせいにするのはどうかと思いますよ!あれは完全にちゃとにゃんさんが悪いです!」
「にゃんだとー!」
と、柴田さんとちゃとにゃんが取っ組み合いのケンカを始めた。すると。
「あーもー!やめなさい!兎に角、そのひっくり返した本は片付けてくれたんでしょ?ならもういいよ」
ケンカする柴田さんとちゃとにゃんを離しそう言うと、2人はふんっ!とお互いでそっぽを向いた。
「はぁ~……っと、またため息……いけないいけない。さて、お風呂入って早くごはん食べよ」
と、言いながら立ち上がった時。
「……ママ、なんだか元気ないでしゅね。お仕事でなにかありました?」
と、くまくまが言ってきて私はドキッとする。
「え?元気だよ?」
と、私はにっこりと満面に笑顔を作りながらそう言った。すると。
「ママ……がまんとかしなくていいでしゅよ?疲れたなら疲れたって言っていいんでしゅよ?嫌なことがあったらぐちってもいいんでしゅよ?」
ぴょんすと、くまくまはジャンプして私の体に飛びつくと、ぎゅうっ……と、私のことを抱きしめてくれて。
やわわかくてふあふあなくまくまのぬいぐるみボディ……癒される。こころがほぐれて、気づいたら私はホロホロと涙を溢していた。
「くまくまには敵わないなぁ……あのね今日ね、私お仕事で失敗しちゃったんだ。それで、落ちこんでるんだ」
「……そうだったんですね。失敗したら、しゅんしゅんしましゅからね。でも、失敗したということは、それだけママがたくさんお仕事を頑張ってるていう証拠でしゅから、ね?」
そう言いながら、くまくまは私の頭のところに来て、私の頭をもふもふのおててでなでなでしてくれた。
すると、くまくま以外のぬいぐるみたちも私の体にぴょんすぴょんすと飛びつき、みんなで私のことをぎゅーっと抱きしめてくれた。
「……すみません。貴女が落ち込んでいることに気づかず、ケンカなんてしてしまい……」
「我輩も、すまんなのにゃ……」
と、柴田さんとちゃとにゃんが謝った。
「……いいよ。それよりも、ぎゅーってしてくれてありがと。くまくま、うさろん、柴田さん、ちゃとにゃん、スネービー……いつもありがとう。私からもみんなに、もふもふぎゅっぎゅっ♪」
私は泣きながら、可愛いぬいぐるみたちのことを抱きしめた。
ぬいぐるみたちのおかげで、落ち込んでいたこころがすっかり癒されたのでした。




