番外編 episode5 ─ スネービー ─
わたしのことを可愛がってくださっているママさんのこの家に来る前、わたしはとあるデパートのおもちゃ売場にいました。
最初は、わたしと同じ白へびのぬいぐるみさんたちと売場に並べられていたのですが、その白へびのぬいぐるみさんたちがだんだん売れていき。気づいたら、白へびさんたちはいなくなり、棚の一番奥にいたわたしだけが残っていました。
長らく棚の奥にあったせいか、埃だらけになり、真っ白だったわたしの体はところどころ汚れていました。
そうこうしているとわたしは長らくいた棚から、おもちゃ売場の真ん中の広場に移動され、他のおもちゃさんやぬいぐるみさんたちと一緒に入れられました。
「かわいいねこさんのぬいぐるみ!ママこのねこさんかってー!」
「この車のおもちゃカッキー!これほしい!」
「このお人形さん安くていいね~。今度孫が来たらプレゼントしようかね~」
日に日に、その広場にいたぬいぐるみさんやおもちゃさんたちも減っていき、気づいたらわたしはまたひとりぼっちになっていました。
するとある日のこと。
「この白へびのぬいぐるみどうしましょう?」
「う~ん…汚れが目立ってるせいか、なかなか売れないなぁ。明日までに売れなかったら処分するしかないかな」
と、わたしの前で店員さんたちが話していました。
……そっか、わたし処分されちゃうんだ。悲しいけど、これがわたしの運命なんですね。
でも叶うなら…わたしも誰かに大事にされたかったな。可愛がってもらいたかったな。抱きしめられたかったな…
次の日もわたしはひとり、そのだだっ広い広場にひとりぼっちでいました。結局、売れませんでした。
そして。
「売れなかったか。可哀想だけど、処分するよ」
……今日でわたしはここからいや、この世界からさようならするんですね。
さようなら、同じ日に生まれた白へびさんたち。みんな、幸せでいてくださいね。
店員さんがわたしのことを手に取ろうとした─時でした。
「あのすみません、今『処分する』って聞こえたんですけど…その白へびのぬいぐるみさんって処分しちゃうんですか?」
と、女性が言った。どうやら、お客さんのようです。
「え?あ、そうですね…長い間売れ残っちゃってるので、処分しようかなと思いまして」
「なら私、その子欲しいです!」
と、その女性は言ったのです。
「え、でも…埃被ったり、みんなが触ったりしてところどころ汚れてますし…あまりおすすめできないと言いますか。他のぬいぐるみはどうですか?今流行りのサメハダさんのぬいぐるみとか」
「私はこの白へびのぬいぐるみさんが欲しいです。ダメですか?」
「いや、ダメじゃないですけど…」
「なら、ください」
と、その女性は店員さんからわたしのことを受け取り、レジでお支払しました。
……何で?ここには他に、きれいでかわいいぬいぐるみさんたちがたくさんいるのに、何で汚れまみれのわたしを?
その女性はわたしを胸に抱き、夜の道を歩きながら言いました。
「私の家に、話したり動いたりするぬいぐるみたちがたくさんいるんだ。君も話したり動いたりできるといいな…って、その前にお名前が必要だね。う~ん…へび…スネーク……スネービーはどうかな?」
と、その女性は言って、わたしに微笑みました。
スネービー…?それがわたしの名前?わたしを連れて帰って下さるだけでも有り難いのに、名前なんてそんな素敵なもの…いただいていいのでしょうか?
「スネービー!よろしくね!」
と、その女性は言って、わたしのことを抱きしめました。するとだんだん、体がぽかぽかとしてきて、目からあたたかいものが零れました。
「……あり、がとうございます。わたしのことを抱きしめてくださりそして、わたしに名前をくださり…わたしこそ、よろしくお願いします」
わたしはその女性から─ママさんからお名前をいただき、話したり動いたりすることができるようになりました。
ママさんに出会いそして、くまくまさんやうさろんさん、柴田さんやちゃとにゃんさんに出会えて、本当に幸せです。
ありがとうございます…ママさん。
…大好きです。




