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96 魔改造博士グレイス、その4です。

 グレイス博士から魔改造を受けてから5日、俺は右手をぐるぐる巻きにしていた包帯をといた。

 すると、右手の甲にはなんか幾何学的な紋章が彫られていた。


「おお、かっこいいじゃないか⁉︎」


 だが、それだけだ。指を動かしても、動かし辛い様な違和感は無かった。因みに改善中は麻酔で眠っていたから何をしたのかはわからない。

 何されたんだろう俺⁉︎

 そして、グレイス博士が俺の腕を見て満足そうに言った。


「うむ。成功だ」


 続けて、使用法を説明し始めた。


「まず、自分では絶対に使うな。衰弱して死ぬぞ」

「お、おう」

「それでだな、紋章の中央部に円が二つあるだろう。それに左手の人さし指と中指を合わせて魔力を流すと体内から右手に魔力が流れ始める。流れる魔力量は秒間魔力1という所だ。つまり現時点では1200秒少々で魔力が枯渇する計算だ」

「20分か……」


 まあ、3分マンよりまだマシだ。


「そして魔力が流れた状態で、ハンドジェスチャーで魔法が起動できる。実際に試す為にエリアに行こう」


 博士に促されて、手近なエリアに俺たちは向かった。

 そこで、分身1号を呼び出した。早速、紋章を起動させた。


「おおおお! 今、右手の封印を解放するっす!」


 1号がかっこつけて叫んだ。

 うん。言うと思ったよ。だって俺の分身だし。


「では、試してみるか」


 博士の号令とともに、念の為少し離れた場所で実験を開始した。


「まずは、強化だ。右手を握れ」


 1号は右手を握った。


「あっ! なんか来てる、来てるっす!」

「よし、それで殴って見ろ」


 1号は近くにあった樹木を殴った。

 メキャッと樹木が折れた。


(おお、マジか⁉︎)


「うむ、成功だ。因みに強化は素手を強化するだけじゃない。剣を握れば剣を、盾を握れば盾を、矢を摘めば矢を強化する」

「すげえ……」

「次はファイヤーボールだ。人さし指と親指だけ伸ばせ」


 1号は言うとおり、指をピストルの形にした。

 そして待つ事4秒、その人さし指から炎の球が発射された。その威力はヒビキが見た魔術師のファイヤーボールと変わらなかった。


「おお! おおおぉぉおおお!」


 やべえ! ファイヤーボール! ファイヤーボールが使えた!


「これも成功だな。だが、まだだ! 次は指の間隔を限界まで広げて、手のひらを前に突き出せ!」

「いょっしゃ!」


 1号が言われた通りにすると、1号の正面に半透明の壁が現れた。


「よし! マジックシールドも発動した! これで防御面が飛躍的に上昇するはずだ!」

「凄え! 凄えよ博士!」

「まだだ! まだ最後の魔法が残っている!」

「おおお!」

「まず、手を握り、親指だけを立てろ!」


 1号は嬉々として、右手を立てた。グッド!


「そのままの形で親指を真下に回せ!」


 1号は言われた通りにした。ファック!


「あと、余波が来るから気をつけろ!」

「はい?」


 今の博士の言葉は俺とフルルに向けられたものだったが、唐突で対応出来なかった。

 そして次の瞬間、1号が爆発した。

 結構、距離を開けていたのだが、その爆風が俺たちを襲った。

 バフッと来て、俺とフルルは吹っ飛んだ。

 ごろごろと地面を転がる俺たち。体を打ってマジで痛い!


「だ、大丈夫かフルル」


 そう問いかけるも、フルルは完全に目を回していた。

 そして、博士は俺たちの様子など目にも入らず高らかに笑った。


「よし、自爆も作動した……か、完璧だ! 強化、炎弾、障壁、自爆、全て計算通りだ! ははは、はーっはっはっはっはーー!」


 と、悦に至る博士を、立ち上がったヒビキは、ぐーでぶん殴った。


「なにをする⁉︎」

「うるせーよ! 自爆だと⁉︎ 人の体に何を仕込んでんだよ⁉︎」


 改造してくれとは頼んだが、自爆魔法を仕込んでくれとは頼んでねぇ!


「一体、何が問題だというのだ? 使うのは分身だろう? ……あっ⁉︎ こら、やめろ⁉︎ 人を殴るな馬鹿者!」


 ……。

 ……。

 …………。


 しばらくして、俺たちの喧嘩も終わった。とりあえず、ぶん殴ったし、今更、無かったことにも出来ない。


「大丈夫か、フルル?」

「まだ、頭がぼんやりとりする……」


 目を覚ましたフルルもなんとか無事だ。念の為ポーションを飲ませた。


「やれやれ酷い目にあった!」


 博士がさも理不尽にあった様な事を言ったが、理不尽なのは博士の方だ。せめて事前に教えとけよ!


「まあ、でも、ヒビキ改造計画は大成功だ」

「あー、確かに成功だった」


 それは認める。でも、自爆魔法が無かったらもっと素直に認めれたのにな!


「さて、それでは次は実戦での戦闘力を試さなければな、狩りに行こう」


 博士は好奇心で満ち満ちた表情でヒビキを狩りに誘った。


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