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93 魔改造博士グレイスです。

 俺は、アストリアさんを空飛ぶメガネに魔改造した、グレイスという博士に会うことにした。

 理由は勿論、俺をその頭脳を以って強力にしてもらう為だ。

 正直、危険な感じがプンプンしているが仕方がない。

 虎の子欲しけりゃ巣穴に入れ、だ。

 ただ、グレイスという博士の居場所を俺は知らない。だからこうして、アストリアさんに会いに来たんだ。

 だが、アストリアさんは、


「博士の居場所ですか? 私が知るわけないじゃないですか」


 と、博士の居場所は知らなかった。

 まあ、前に聞いた時も何処で何をしているのかわからない根無し草の様なイメージだったので期待はしていなかった。代わりに似顔絵を描いて貰った。

 割と器用なアストリアさんは、すいすいっと描き上げた。


「身長はヒビキさんと同じくらいですよ。髪は緑で瞳は琥珀色です。あと、研究しているときは睡眠を犠牲にする人なので目のふちに隈がありますし、研究していない時でも目つきが厳しいです」

「そうかー。参考になったよ。ありがとう」

「いえいえ、同じタワワファンクラブの同志ではないですか。持ちつ持たれつですよ」


 いつの間にか俺は、アストリアさんの同志になっていたらしい。

 でも、タワワファンクラブは正直悪くないと思うので、否定せずに笑って別れた。


「さて、グレイス博士の情報は仕入れたし、ここからは人海戦術といきますか」


 無限術師である俺の得意分野だ。

 つい先日、作戦会議をした部屋でグレイス捜索本部を立ち上げ、刑事ドラマの様に捜査員となった分身達に檄を飛ばした。


「何としても、ホシを探し出せ!」

「「「はっ!」」」


 分身達はビシッと敬礼した。さすが俺の分身たち、ノリがいい。

 ……。

 ……。



 グレイスを探して3日目、俺は、ついにホシの居場所を突き止めた。

 早速、向かった。

 そして向かった先は都市の外れだった。

 古くさびれた感じの店に、真新しい字で『魔改造ショップ、グレイス』と書かれた看板が掲げられている。

 なんとも分かりやすい。

 そして、入り口の前に立て札が立っていた。


『変革を求める者、高みを目指す者よ来るがいい。新たなる境地を授けよう。なお、当方の報酬は5000万ゼニーと格安である(それと別に材料費が必要)』


 それを見た俺は思わず、


「たっか!」


 と、叫んだ。

 いやいや、高すぎだろう5000万⁉︎ しかも、材料費は別⁉︎ ぼったくってない?

 思わず回れ右したくなったが、ギリギリ踏みとどまった。

 俺は天位になりたい。なって、たわわちゃんをお嫁さんにしたい。その為には超越した強さというものが必要らしいのだ。だったら5000万ゼニーを惜しんでどうするというのか。

 俺は覚悟を決めて店の敷居を踏み越えた。


「たのもー!」


 そして、店の中には緑色の髪をお団子に纏めている少女が座っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 イレイス=ラルラトルは兄の作った店、『魔改造ショップ』などという謎の店の受付をしていた。もっとも、こんな訳のわからない店に客など来ないし、儲かるとも思っていない。一応、座っているが、それは座っているだけで、イレイスは内職の編み物に勤しんでいる。

 12歳とは思えない器用な手つきでノルマをこなしていくイレイスは、同時に、何処をほっつき歩いているのか分からない12歳離れた兄に対して苛立っていた。早くに両親をなくしたイレイスにとって、唯一の肉親であるグレイス。

 そんな兄は元は魔導技師だった。その実力は一級品で、月に何千万ゼニーというお給料を貰える超エリートだった。その兄が、ある日、何をトチ狂ったのか、


「俺の存在は新しいことを切り開く為にある!」


 などと訳のわからない事を言い出し、仕事をやめ、魔改造博士を名乗る様になった。

 当時の私は9歳、まだ幼い私は、


「お兄ちゃん、かっこいい!」


 などと、その行為を絶賛した。その事を今は後悔している。せめて、11歳の私だったら、台所のスリコギで滅多打ちにしてでも止めただろう。

 さて、そんな経緯を得て魔改造博士として働き始めた兄であったが、歩く迷惑としか言えない様な事態を乱発した。

 新しい分野を切り開くというのは、基本失敗と、となり合わせだ。全身緑化計画や、聖騎士のバーサーカー化計画など。意味不明の魔改造を施し、数々の揉め事を引き起こした。

 その反面、腐っても元超エリートの名残りで魔改造を成功させることもあったのだが、成功した場合も多額の研究費、材料費がかかる割に報酬はそこまでではなく、どちらにせよ散財して元は取れないという、馬鹿馬鹿しい事態を引き起こした。

 いくらもしないうちに、魔改造博士なんて職業とは言えないと私は理解したが、兄の方は未だに理解しない。

 そんな兄と、お金や働くという事について膝付き合わせて話し合った結果、父が亡くなってからは閉めていた店を『魔改造ショップ』として開き、私に店番を頼んできた。


「これなら商売になるだろう? イレイスは店番を頼む。俺に助けを求めてくる者達の窓口となって欲しい」


 というのが阿呆の、いや兄の言い分だ。

 これで、兄がお金の心配はないと考えているのが私には理解出来ない。成功するかもわからない様な、具体的に何を得るかもわからない様な店に5000万ゼニーも支払う馬鹿がいると思っているのだろうか?

 それでも店番を引き受けた理由は、兄からの報酬が良かったからだ。更に別にすることもないので内職もできる。

 そうやってお金を溜め、いつか確実に訪れる破滅の日に備えている。今はまだ、魔導技師として働いていた時の貯蓄が残っている。だが長年に渡る散財でそろそろ底を尽きかけている。イレイスとしては兄のお金がなくなり首が回らなくなった時に、自分のヘソクリで当座をしのぐつもりだ。

 その時には兄のことなど知らない。飢えて困窮すればいい。

 でも、私は鬼じゃないから、兄が今までの行いを反省して、真っ当な職につくと約束するなら御飯を作ってもいい。

 とまあ、今まで一度もお客が来た事もない『魔改造ショップ』の店番を続けていたイレイスだったが、そんな変わり映えのない毎日は、唐突に終わりを迎えた。


「たのもー!」


 その言葉と共に1人の男が店に入ってきた。

 更に続けて言った。


「俺の名はヒビキという。変革を、高みを目指す者だ。その為に魔改造博士グレイスにお会いしたい!」


 なんと、初めてのお客がやってきた。

 それに対して、


「…………そこの通りを、真っ直ぐ突き当たりまで行くと病院がありますよ。目と頭を見てもらったらどうですか?」


 などと、イレイスが返してしまった事は間違っているだろうか? いや間違ってはいない。間違っているのは、こんな店にやってくる男の方だ。(イレイスは混乱している)


「いやいやいや、俺は超健康だよ⁉︎」

「信じられません。目か頭がおかしいはずです。表の立て札を見なかったんですか? 最低、5000万ゼニーは必要なんですよ」

「大丈夫、たとえ1億ゼニーだろうと支払うよ」

「なるほど、おかしいのは頭の方なんですね。おかえり下さい」

「いやいやいや、待って待って!」


 それから、イレイスが落ち着くまで、たっぷり10分はかかった。



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