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87 生真面目な次期領主です。

街中への紫煙花バラマキ事件の翌日、ヒビキは適当に街を散策しつつ、買い物なんかもして休日を楽しんでいた。街の様子もだいぶ落ち着いてきた。

そして、昼過ぎに一度自分の部屋に戻ってきたら、貸部屋の前に都市を守る都市警邏の人間が立っていた。


(んん? 一体なんだ?)


疑問に思うヒビキに、あちらから声をかけて来た。


「ヒビキ様でしょうか?」


(様⁉︎ ヒビキ様⁉︎)


一体何事だ?


「えーと、確かにヒビキであっていますが、どんなご用件で」


警邏ということで身構えながら喋るヒビキに警邏は答えた。


「実はヒビキ様にお会いになりたいと、ご領主様の息子のアーレスト様がお越しになられています。現在はヒビキ様のパーティーであるフルル様のお部屋でお待ちになっております。ささ、どうぞどうぞ」

「はぁ⁉︎」


と、ヒビキは驚きを声にした。

当たり前だがヒビキの知り合いに領主の息子なんぞいない。


(しかも、やたら腰が低い。俺に対してもだけど、奴隷のフルルにも様づけか⁉︎)


これに警戒を抱かない方が無理だ。

ヒビキは恐る恐るフルルの部屋に入った。

部屋の中には見知った顔が二人と知らない顔が一人。知った顔はフルルとクーヤだ。なんでクーヤ? と思うがそのことを聞く前に、知らない顔が(つまり、こいつが領主の息子)ヒビキに話しかけてきた。


「貴公がヒビキ=ルマトールか? 私は領主の息子のアーレスト=ドルガンです。このたびは押しかけるような真似をして申し訳ない。どうしても貴公と話がしたかったのです」

「は、はぁ・・・」


警邏だけじゃなく、領主の息子なんてお偉い人間まで腰が低い。一体何事だ?


「それで、一体何の用があって俺に会いに来たんです?」

「まずは感謝を。貴公の作った紫煙花の解毒剤のおかげでこの都市に住む大勢の命が救われた。本当にありがとう」


そう言って頭を下げる領主の息子。そして、となりには『ごめんね。やっちゃった』と視線で訴えてくるクーヤ。

そしてヒビキは理解した。


(こいつ裏切りやがった! しかも、たった1日で! あんなにも真剣に俺と婆さんの話をしたのに⁉︎ よろず屋クーヤの名にかけて秘密にするって言ったのに! よりにもよって領主の一族に俺が薬を作ったことを言いやがった!)


脳内がクーヤへの罵倒で埋め尽くされつつも、まずは領主の息子だ。

頭を上げてからも、延々とお褒めの言葉を貰った。

あまりにも褒められるから体がむず痒くなってきた。


(くっ⁉︎ これ以上は恥ずか死ぬ!)


咄嗟にヒビキは話題を代えた。


「そ、そういえば何で紫煙花が街中で繁殖したんですかね?」

「それなら、関係者に聞き取り調査をしたところ・・・」


息子さんの話によると、どっかの初級冒険者の男がとある商人の娘さんに恋をして、迷宮内で咲いている花をよくプレゼントしていたそうだ。そのプレゼントの中に、まだつぼみの紫煙花が混じっていたらしい。アホすぎる。

商人の娘さんも気がつかず室内園芸場に植えたわけだ。その室内園芸場は中々に装備が整えてあり、泉石と魔石を組み合わせてスプリンクラーのように自動で水が撒かれる装備がついていた。

そして一家は揃って旅行に行き、返ってきた時には紫煙花が大繁殖。室内は紫の霧に包まれていて、何事かと慌てたお嬢様は咄嗟に窓を開け風通しをよくしてしまい。あの大惨事に至ったわけだ。


「あー、悪意がないって時々恐ろしいな。それでその冒険者や商人の娘さんは罪に問われたりするわけ?」

「もちろんです。その冒険者も商人一家もすでに捕らえてあります。前例がない故にどう裁くかは難航していますが私は死刑を要求しています」

「えっ⁉︎」


ヒビキは驚いた。


「死刑は大袈裟じゃねえ? 死人は出なかったんだろう?」

「紫煙花を育成するなど知らなかったで済ませる話ではないでしょう。何万という人命が損なわれる所だったのです」

「それは、そうだけどさ・・・」


知ってて紫煙花を育成しているヒビキとしては、あまり重い罪になるのは正直困る。

何とか罪を軽くして貰おうとお願いしていると逆に感心された。


「なんと、お優しい方だ。貴公のような人が増えれば世界はよりよくなるでしょうに」

「いやいや、大袈裟だって」


うん。マジで大袈裟。こっちは保身が第一なんだよ! と、心の中で言っておく。


「そうですね、罪を憎んで人を憎まずといいます。犠牲者も出なかったことですし、穏便に済ませることに

しましょう」

「おお、ありがとう」

「ところで、貴方には感謝を伝えること以外にもお願いがあるのです」

「お願い?」

「ええ。単刀直入に言います。紫煙花の解毒剤のレシピを教えてもらえないでしょうか?」


(・・・・・・・・・・そう来たか)


このまま帰ってくんねーかなとヒビキは思った。

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