86 都市を揺るがす大事件、その4です。
「はい、どうぞ。よろず屋クーヤだけの特製解毒剤です。あっ、寄付してくれるんですね。ありがとうございます」
紫煙花の解毒剤が次から次へと売れている。店の前で飲んで貰い、空のビンを回収、亜空間ボックスで再度瓶詰めしている。
今のところ解毒剤はまだまだ余裕があるが、もしなくなるようなら募金箱の中身を持って買い出しに行かなければならないだろう。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
お客の一人が泣きながら御礼を言ってきた。
「いえいえ、よろず屋クーヤはお客様を喜ばせる為に存在していますから」
満面の笑みでそう返すクーヤ。実にいい営業スマイルである。
そして、ことあるごとによろず屋クーヤを口にするのは絶対に意図的だ。
この一大事に現れた善意のよろず屋さんという評判は今後の商売で有利に働くだろう。どうりでいやに協力的だと思ったよ。
あざとい。実にあざとい。
でも、それがいい。クーヤが目立てば目立つほど、裏方のヒビキは目立たない。
目立ちたいクーヤと目立ちたくないヒビキ。winwinの関係である。
「この分だと元も回収できそうだ」
寄付もヒビキが思っていたより順調だ。大半は寄付などしないかしても数千ゼニーという所だが、見るからの資産家や上級冒険者は100万、200万ゼニーをポンと置いていってくれる。 彼らには痛くもない額なのだろう。
「くっ。庶民の金銭感覚を知らないブルジョアめ!」
「いや、隊長も相当だし・・・」
まあ、そうだけどな。
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それから数時間、この未曾有の大事件は収束した。
死者は出なかった。
ヒビキ達は・・・というよりクーヤ達は改めて教会の人達に頭を下げられることになった。
そんな彼らに念の為解毒剤を何十個か渡しておいて店じまいとなった。これでもし遅れてくる人がいたとしても大丈夫だろう。
そして現在、亜空間ボックスで三人は食事をとっていた。
全員顔が明るい。いい仕事をしたのだと、沢山の命を救ったという達成感がある。
中でもクーヤは一際明るかった。
「皆、私のことを女神もかくやって感じで見つめてきて、困っちゃったわ。私は一介のよろず屋なのに・・・」
全然困っていない顔でそんな事を言うクーヤ。
「そりゃね、私みたいな美人で清楚な乙女が、慈愛の笑顔でおくすりを渡してきたら、そりゃまいっちゃうよね? ときめいちゃうよね? ああ、私って罪な女」
慈愛の笑顔? がっつり損得勘定してたじゃん?
と、思いつつも男二人は曖昧な笑顔でやり過ごした。死人も出なかったし元も回収できたのだ。クーヤがちょっと調子に乗るくらいならかまわないだろう。
という訳で三人は適当に飲み食いしながら話を咲かせていた。
そして、紫煙花の解毒剤をどうするかという話題になった。
「たぶん、売ってくれって話が私の所に来るわよ」
だろうな。今まで生存率が50%以下だったのに確実に助かる新薬の登場だ。今日みたいな大事件はまず起きないとしても運悪く煙を吸う人間はいる。個人、薬屋、ギルド。欲しがる奴は多い。
ヒビキとしても薬を渡して助かる命があるなら売りに出すべきだとは思う。
「俺が薬を作ってクーヤに薬を渡すからクーヤが販売したらどうかな? 儲けは折半で?」
「いいわね。それでいきましょう」
「その際に俺の事は内緒にしてもらえると助かる」
「かまわないけど・・・なんで? 堂々と自慢すればいいじゃない?」
クーヤが不思議そうにヒビキを見ている。確かにクーヤからすれば不思議に思うだろう。
ヒビキは理由を説明する事にした。
「薬の作り方を教えてくれた婆さんなんだが、なんで人里から離れた森の中で暮らしていたかというと理由があって、そもそも・・・」
ヒビキは深淵の賢者と呼ばれる婆さんとの思い出(全て創作、前世の漫画のそれっぽいののアレンジ)を語り始めた。
「という訳で、婆さんの教えを受け継いだ俺は軽々しく薬のレシピを広める訳にはいかないんだ」
「そうなの、そのお婆さん苦労したのね」
俺の話を聞いたクーヤはしんみりとしている。因みに全て嘘だと知っているフルルは関わらないように顔をそらしている。
「わかったわ」
そう言ってクーヤは自分の胸を叩いた。
そして右手を差し出してきた。
「よろず屋クーヤの名にかけて、ヒビキが『叡智の後継者』であることは秘密にするわ。ヒビキが薬を作った事は誰にも言わない」
「助かる。俺もクーヤのことなら信頼できるよ」
ヒビキとクーヤはがっちりと握手した。




