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79 ドレステルの戦い、その6です。

「とりゃ!」


ヒビキは力一杯剣を振り回した。ほとんど破れかぶれに近かったが運よく下位悪魔に当たり怯ませることができた。

そして怯んだ隙に分身を左右から突撃させ敵を倒した。


「まったく、指揮官が自分で剣を振るとか負け戦もいいところだ」


ぼやきながらも分身を召喚する。さっきからとにかく分身の消費が激しい。

まだ、2時間ちょっと、秘薬のタイムリミットまで余裕があるが、その前に魔力が枯渇しそうだ。

マナポーションは既に3本目、しかもヒビキ個人の耐性かもしくは秘薬の影響かわからないが、かなり影響がある。4本目を飲んだら戦えないだろう。というより今現在けっこう限界である。どうやらヒビキはポーションに対する耐性があまりないらしい。


「あと1時間持たないだろうな・・・」


現状を考えるとちょっとうんざりする。

そして、その1時間も持つ保証はないのだ。

隊列を抜けて下位悪魔が三体抜けて来た。


「げっ!」


やられ役の三下のような呻き声を上げながら剣を振り回すが三体は無理があった。

横薙ぎの斬撃は下位悪魔の腕に当たったが切断することができず途中で止まった。

とっさに剣を手放すこともできなかったヒビキは固まってしまった。

そこに下位悪魔が突撃してくる。


(ああ、死んだな)


そう思って思わず目をつぶってしまった。

でも、攻撃は来なかった。

代わりに、


「へっぴり腰の上に目をつぶるとか駄目すぎる」


そんな声がした。

どうやら庇ってくれたらしい。


「いや、だって俺後衛職だしって・・たわわちゃん!」


軽口で返そうとしてそれどころじゃなくなった。

たわわちゃんの脇腹が血で染まっていた。下位悪魔の爪にやられたんだ。


「たわわちゃん! これ!」


たわわちゃんにポーションを手渡すと彼女は即座に飲んだ。

それで出血は止まったが、彼女の顔色は明らかに青ざめた。4本目の中毒症状だ。おそらくもうまともに戦えないだろう。


「ごめん・・・足手まといになった」

「ううん、ヒビキがいなかったら足止めできなかった」


そう言いながら、右手を闇の幻獣に向けた。


「貫け、ライトニングスピア」


右手から生まれた雷槍は闇の幻獣の頭を吹き飛ばした。

たわわちゃんが短くだが呪文を唱えて名を紡ぐのを初めて見た。

つまり、もう無詠唱で発動させることが出来ないということだ。


(いよいよ、おしまいかもな・・・)


そう覚悟した。

なら、たわわちゃんに言っておかなきゃならないことがある。


「たわわちゃんは輪廻転生って信じてる?」

「?・・・信じてない」

「そうなんだ。俺は信じているんだ」


なんせ経験者だからね。


「いきなり何の話?」

「つまりね、このまま俺たちが死んだとしても、来世でまた出会って、また恋人同士になろうよと言いたいのです」

「まて、またも何も私達は恋人じゃない」

「・・・」

「・・・」

「・・・駄目?」

「駄目」


たわわちゃんはこんなときでもブレない。


「うー、だったら来世では恋人になって下さいお願いしま・・・」


セリフの途中で頰っぺたを摘まれた。しかも、かなり強く。


「いたたたた!たわわちゃんマジで痛い! ギブ! ギブアップ!」


俺の悲鳴に耳を傾けてくれたのかたわわちゃんは弱めてくれた。

かと思えば、そのまま引っ張られてたわわちゃんと向き合った。


「ヒビキも私もまだ生きている。まだ全然諦める所じゃない。天位の9番になって私をお嫁さんにするんでしょう? こんな所で諦めるの?」


怒るようなその表情は生きることを全く諦めていない。

強い。

そして、俺は弱い。

無性に悔しくなった。俺はたわわちゃんより強い男になりたいのだ。状況が悪すぎてそのことを忘れていた。


「そうだね。最後の最後まであがいてみるよ」

「うん」


絶対絶命の状況は変わらない。

それでも足掻くために分身を召喚しようとした時、荒々しい女性の声がした。


「くたばれ! 炎塊!」


次の瞬間、敵のど真ん中に炎の塊が着弾、破裂した。

ドドーンという衝撃を俺は唖然とした。


「隊長! タワワさん!」


聞き覚えのある声に後ろを振り向くとフルルと身体中を赤い装備で固め杖を持っている中年の女性が立っていた。

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