69 巨鳥の討伐です。
弓を習って一週間、亜空間ボックスの一つを弓の訓練場にして毎日練習を積んだ。
おかげで5メートル先の的に10回中3回くらいは当てられるようになった。
そして、一週間の間に武器屋の『ステラ』の親方に怒られつつも弓を作ってもらった。
これで準備は整ったので試運転といこう。
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翌日、42番ゲートを進んだ先のゲートの更に進んだ先のゲートをくぐり抜けた俺たちはハゲタカ山を登っていた。
久しぶりの遠征である。
ギルドで今の俺達に丁度いい依頼書を見つけたのだ。
全長5メートルを超える大鷲の討伐だ。正確には大鷲の魔石の入手だ。
今まで空を飛ぶ敵は意図的に避けていたのだが弓を手に入れた事により思い切って挑戦したのだ。
俺とフルルの周りには90人にも及ぶ分身が武装し隊列を組み岩山を登っている。
と、その時、
「キェェェェ!」
という鳥特有の甲高い音がした。
大鷲は意外と賢く非常に好戦的でテリトリーに入るや否や即交戦と書かれていたが情報は本当らしい。
俺とフルルは速やかに亜空間ボックスに避難した。
そして、先頭の部隊が空を飛ぶ鷲を発見した。
大鷲は先頭の部隊に向かって上空から真っ直ぐ進んできた。
そして、
ドガッ! と何人かがその巨体に押しつぶされた。
先頭の部隊は鎧を着て盾を構えていたのだが、鎧はひしゃげ、盾も歪む一撃だった。中の人間などひとたまりもない。
先頭の部隊が崩壊したが二列目の槍持ち達が無傷だったから突撃させた。
が、
ブワッ! と羽根を羽ばたかせると風が巻き起こり槍持ち達を吹き飛ばした。それと同時に大鷲は再び上空へと飛び立った。
悠々と空を泳ぐ大鷲を分身達の目を通して見るが、今まで避けてきただけあって相性が悪い。
無限術師の分身は武具を装備して、秘薬を飲んでも初級の戦士と同じくらいなのだ。蟻や炎の小人のように弱いけど群れている敵には強くても、こういう一匹でも強い敵には攻撃力や防御力で劣って不利だ。
「きっついな、これ」
思わず、そんな愚痴を吐きながら失った分身を再度呼び出した。
予備の装備をつけて再び前線に復帰するまであと60秒という所だ。
それから二度大鷲の急降下攻撃でいいようにやられて被害がでた。
が、四度目の急降下攻撃を受けた時、こっちに主導権が回ってきた。大鷲に部隊としてまとまってない孤立した分身を狙われ、大鷲の狙い通りやられたのだが、結果的に周囲に味方がいなく射線が通ったのだ。
それを狙い弓兵が弓を射た。
その数40人。
正確な一撃を求められる弓使いとは対極に、とにかく下手な鉄砲数撃ちゃ当たるをコンセプトにした無限術師の弓の使い方だ。
最早範囲攻撃である。
「クエエエエエエッ!」
グサグサグサと6、7本の矢が刺さって大鷲が悲鳴をあげた。
狙い通りの戦果をあげて俺はぐっと拳を握った。
確実に効いている。それに空を飛ぶ敵に矢を当てる事もできた。紫煙花の秘薬は身体能力を強化するだけでなく感覚も強化するのだ。
そして、再度攻撃するために弓兵が矢を構えたが、それを撃つよりも早く大鷲は大空に飛び立った。
その羽ばたきは力強くまだまだ元気だ。上手く矢を当てられた反面、闘気を込められないぶん威力としては格段に落ちるのだろう。一撃必殺とはいかないのだ。
そこからは戦場が膠着した。
大鷲は弓兵を避けながら急降下攻撃を繰り返すのだが、何度もくらう内に上手く対処できるようになり被害は減った。
だが、大鷲の方も弓兵を避けて動くのでダメージを与えられない。
そんな交錯が10数回繰り替えされた。
そして、そんな戦況を変えたのは弓兵ではなく盾持ちだった。
盾持ち、槍兵はこれまで一方的にやられていたが、それでもチャンスは狙っていたのだ。具体的には急降下攻撃にカウンターを狙っていた。
そして、何十回も失敗し続けたがついに大鷲を捉えた。
脚を狙った一撃は致命傷ではなかったが大鷲が空に戻る時間を遅らせた。
そして、弓兵による弾幕が大鷲を捉えた。
グサグサグサと矢が刺さった。
そして、その内の一本が肩の付け根に当たり、これが決め手だった。
大鷲は翼を失ったのだ。
飛べない大鷲はもう脅威じゃない。
最後は槍兵が突撃した。
力尽きた大鷲は魔石と変わった。
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大鷲を狩った帰り道、日が暮れたので亜空間ボックスに入った。
「なんとまあ、割に合わねえこと」
大鷲の魔石を眺めながら俺は呟いた。
この魔石を手に入れる為に10組以上の防具が駄目になったのだ。
どう考えても赤字だ。
ただ、駄目になった防具は回収してあり、魔鉱炉で溶かして精製してから再度防具にするので手間がかかれどもそこまで赤字ではない。
そう割り切るしかないだろう。
中級から上級に上がるにはこういう依頼書をこなして評価を上げなければならないのだから。
「防具はいいとして矢はどうするかな? 何千本も用意するなら金がかかるよな・・・いっそ矢も作るか?」
そんな事を考えながら俺は眠りについた。




