51 子育てに悩む天位の7番、その4です。
「ヒビキ」
タワワが短く相手の名前を呼んだ。
男の方、ヒビキは嬉しそうにタワワに近寄った。
「こんな所で出会えるなんて奇遇だね。タワワ姫」
「確かに珍しいかもしれないけど……姫って何?」
「いや、たわわちゃんは最近ますます美しさが限界突破じゃん。もはやお姫様と名乗ってもいいんじゃないかな。超似合うと思うよ」
「……名乗ったりしないから変な呼称で呼ばないで」
「はっ⁉︎ 確かに! 姫なんて呼ぶと、俺とたわわちゃんの距離が離れて聞こえるもんね。ごめん、そんなつもりはなかったんだ」
「ヒビキ……殴るよ」
「えー……たわわちゃんの気配が洒落にならなくなって来ているので、冗談はこれまでにしとくよ」
そんな二人の会話を、カテュハは半ば惚けながら聞いていた。この男が無限術師のヒビキだという事は分かる。ずらりと同じ顔が並ぶ現象は、確かに無限術師でしかありえない。そして、こいつらがボスの部屋から出てきたという事は、ジェネラルスケルトンを討伐したという事だ。レベル20前後の奴らが4、5人で攻略する骨の迷宮。それをおそらくは仲間の空間術師と二人で突破したという事だ。正直、この目で見ても信じられない。
「たわわちゃん、腰から中級の印をぶら下げてるって事は中級冒険者に昇格したんだ。おめでとう」
「ヒビキも昇格したんだ」
「うん。お揃いだね」
「中級冒険者は全員つけてる」
「まあ、そうなんだけどさ。それで中級になった記念に骨の迷宮に腕試しにきたんだけどさ。予想より順調でね、予定を変更してボスを倒してきたんだ。たわわちゃんもこれからボス戦かい?」
「うん」
「ボスは硬いから気をつけてね。まあ、たわわちゃんなら大丈夫だと思うし、今日はお仲間もいるみたいだし…………」
と、そこで初めてこいつは私を見た。その顔が徐々に驚愕に染まっていった。
「えーと……茶髪で長身の姐御系美人。独特なシルエットの短剣。なにより左腕に浮かんでいる超カッコいい紋章。もしかしたらもしかして天位の7番カテュハ=サワカーラ……さん。だったりします?」
「そうだが」
「まじか!」
おおう! と驚くヒビキ。そして目を輝かせながら、
「あの! 握手してください!」
そう言って右手を差し出してきた。カテュハにとっては、割とよくある事だ。
「ああ、いいぞ」
そう言って、右手を握り返した。
すると、ありがとうございます! と嬉しそうに笑うヒビキは後ろの集団に向かって、
「フルル!」
と、仲間を呼んだ。
そして、小柄な少年がトコトコと出てきた。
「フルル! この人、あの天位の7番だよ! フルルも握手してもらえ! それから、サイン貰いたいから何か書くもの出してくれ」
そんな風にはしゃいでるヒビキを見て苦笑した。若いやつは素直な方がいい。少なくとも変にすれた奴や捻くれ者よりはよっぽどいい。カテュハはそう思っている。
その素直な男は、カテュハのサインを大事に抱えるとタワワに向き直り、
「たわわちゃん、ありがとう。たわわちゃんのおかげで、憧れの天位の人に握手してもらえたよ」
「私は何もしてない」
「それはつまり、たわわちゃんは何もしなくても、そこに居てくれるだけで俺は幸せになれるという事だね」
「なんでそうなる?」
タワワは理解できないといった表情をした。確かにカテュハから見ても今の会話は、なんでそうなる、と言いたくなる理屈だった。
まあ、恋する男なんてそんなもんか。などと考えていると二人の会話が終わり、
「カテュハ、行こう」
そう言って、カテュハの手を引いた。
そうやって、カテュハを引っ張りながらボスの部屋に向かうタワワに、
「たわわちゃん頑張ってね」
ヒビキの声援が飛んだ。タワワは軽く手を振って扉をくぐった。
そして、扉が閉まるなり開口一番カテュハに言った。
「ね? やっぱりヒビキは侮れないでしょう」




