50 子育てに悩む天位の7番、その3です。
「ヒビキ。ヒビキ=ルマトール。それはイヤなの」
タワワはそう言った。カテュハはその言葉を聞いて驚いた。
ヒビキ。名前だけならタワワから何回か聞いた。自分の前にタワワを買い取ろうとし、でも直前に止めた男。勝手にタワワを恋人だと錯覚した、思い込みの激しい勘違い男。その後もタワワを口説き、プロポーズまでした図太い男。なにより無限術師でありながら天位の座を目指す変人。
それがタワワから話を聞いて、カテュハが抱いていたイメージだ。
「負けるってあれか? そのヒビキって男がタワワより先に天位の座に着いたら結婚するっていう、あれのことか?」
「そう」
「いや、なかなか面白い約束ではあるが……そいつが天位の座に届くと本気で思ってんのか? 無限術師だろ?」
「油断は禁物。きっとヒビキは強くなる」
「まじかよ……」
カテュハは呆然と呟いた。ヒビキの名前は聞いたことがあっても正直、タワワがそこまで意識している人間だとは思ってもいなかった。
この天才が、わずか三ヶ月とかからず中級冒険者にまで達した天才が、天位の7番である自身が自身より上だと確信しているこの天才が、たかだか無限術師程度を対等だと思っているとは、この耳で直接聞いても信じられなかった。
カテュハはおもわず看破のスキルをタワワに向けた。
タワワ=リンゴレッド
魔法剣士Lv20
闘気 200
魔力 245/300
スキル ライトニングスピア ライトニングエッジ ライトニングレイ スラッシュ マジックシールド 天剣 縮地 精霊召喚(雷のテェルネ) アステリアの祝福
何度見ても、笑ってしまいそうなステータスだ。所有しているスキルが壊れている。とても、つい先日中級冒険者になった者のスキルとは思えない。いや、上級の冒険者でもこれはありえない。
例えば、天剣はクラン序列第一位の『龍殺し』のリーダー、『天剣のサルファー』を象徴するスキルだ。
例えば、精霊召喚はクラン序列第三位『冬景色』のリーダー、『雪の女王ナディア』が持つスキルだ。
冒険者は上級に上がると、クランと呼ばれるグループに所属する者が多い。
クランとは簡単に言って、パーティーを拡大したものだ。
ドラゴン系のモンスターや、ケルベロスなど上の魔物は上級冒険者が20〜30人で挑む必要があるのだ。
その為のクランなのだが、上級冒険者ともなると大半の奴らはプライドが高い。そんな奴らをまとめるクランのリーダーには、それ相応の実力が必要とされる。
そんな、上級冒険者たちを纏め上げる実力者を、実力者たらしめる希少スキルをタワワはすでに4つ保有している。
途方も無い幸運だとは思わない。むしろ、順当なのだろうとカテュハは思っている。優れた剣が使い手を選ぶ様に、優れたスキルも使いこなせる者の手にしか渡らない。タワワの才能に見合ったスキルが現れた。それだけのことだ。
それだけのことなんだが、それだけにタワワの才能が並外れている事がわかる。
そのヒビキって男がタワワを上回るとは、とてもじゃないが思えない。
タワワは何か思い違いをしているんじゃないか? そう思えてならない。もしかして……と、ある考えがカテュハに浮かんだ。
聞いてみる。
「もしかして、タワワはそいつがお気に入りだったりする?」
「違う」
即座に否定された。タイプの男だから評価が甘くなっている訳でもないらしい。照れ隠しという線もないわけじゃないが、まあタワワだからな、まずないだろう。
となるとどういうことだ?
考えても分からなかった。だから正直に聞いてみた。
「オークも倒せない無限術師を警戒する必要なんてあるのか?」
「オークを倒せない普通の無限術師だったら警戒しない。でもヒビキは違う。もうオークを倒している」
「ああ、そういえばそうだったな。空間術師と協力してユニークな戦い方するんだっけ? でもそれだけだろ? いずれ頭打ちになるんじゃないか? 頑張ってる奴を悪くいいたかないが無限術師がそうだな……例えばこの骨の迷宮を踏破して、ジェネラルスケルトンを倒せるとは思えないんだが?」
「私はそうは思わない。ヒビキならきっとこの迷宮もジェネラルスケルトンも超えるはず」
「だから、その根拠はなによ?」
「あいつは私の敵だもの」
理由になってねーよ。その言葉をカテュハは飲み込んだ。どうやら、ヒビキという男はタワワの中でずいぶんと高評価されているが、流石に買いかぶっている様にしか思えない。
カテュハとしてはそんな勘違いが元で、タワワにソロで危険な場所に行って欲しくはなかった。
さて、何と説得しようと考えたところで、今まで閉じていたボスの扉が開いた。
どうやら、先客の決着がついたらしい。
人影が見えたから、どうやらジェネラルスケルトンに勝ったみたいだ。
よかったな。おつかれ。という気持ちだったのだが、ゾロゾロと大勢出てきたあたりで面食らった。
ああ、何だ? 龍狩りでもあるまいし何人パーティーだよ? しかも、
「同じ顔?」
カテュハが戸惑っていると、
「あー! そこにいるのは俺の永遠の憧れ。たわわ姫ではありませんか⁉︎」
群れの中の一人がそんな事を言ってきた。
そして、タワワがそいつの名前を呼んだ。
「ヒビキ」




