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42 紫煙花、その2です。

 クーヤの惨劇の引退騒動から10日、俺はレベル13になっていた。この10日で500万ゼニー以上稼いだし、中級冒険者になる為の指定取得物も19品まで揃えた。実に順調と言えるだろう。

 そして、とある休日。

 狩りの疲れを癒す為に、俺は気晴らしに市場に出かけ、とある店の前で悩んでいた。

 その店はコインアートを売っている店だった。

 コインアート。いってみればコインを積み重ねるだけなのだが、熟練者のそれは、どうやって作っているんだ? 接着剤使ってねーの? と、言いたくなるような代物だ。

 俺はその手の無意味な代物が嫌いじゃない。ましてやこの店のコインアートは本当に見事だ。そして今、俺はその作品の一つを買おうか買うまいか悩んでいる。

 そんなに高い訳じゃあない。100ゼニー玉100枚で作られたそれの値札には2万ゼニーとある。

 1万ゼニーは技術料という事だろう。

 まあ、値段は問題じゃない値段は。

 じゃあ何が問題なのかというと、どうやって買うのかわからない事だ。

 一応、取って付きの薄い板の上に作られているから、持ち運びはできる作りにはなっているのだが、ちょっとでも揺らしたら崩れそうなそれを、どうやって持ち帰るのかがわからない。絶対に途中で崩れるだろう。


「うむむむむむむむ」

 

 さっきから、いかにこの作品を持ち帰ればいいのか悩んでいるのだが、さっぱりうまい方法が思いつかない。

 そして店の主人は、店前で唸っている俺をガン無視で2作品目を作っている。接客しろよと言いたい。最初はこれをどうやって持ち帰るのか聞きたかったのだが、ここまでガン無視されると聞いたら負けのような気がしてる。絶対に自分で持ち帰る方法を考えついてやる。

 とまあ、簡単にいえば暇を潰していたんだ。

 そんな時に、俺の分身から重要な連絡が入った。


「隊長、紫煙花が出現しました!」

「紫煙花が現れただとー!」


 分身からの驚異の報告を受け、俺は叫んだ。

 その瞬間、

 ジャラジャラジャラ!

 俺のドタバタが原因で、完成したコインアートと作りかけのコインアートが崩れ落ちた。

 思わず硬直した俺と店主が見つめ合った。

 店主はしばらく無言だったが、しばらくして右手を差し出して言った。


「作りかけの奴の分はいいよ。完成品の分1万ゼニーな」

「………………わかった」


  俺は妥当だという気持ちと、詐欺に合っているような気持ちを半々に抱えながら金を支払った。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


  金を支払ってからの俺の動きは早かった。

  出せる分身を出せるだけ出して命令した。


「まずフルルを見つける。おまえ達は図書館に、おまえ達は貸家に、おまえ達は近くの公園に、おまえ達はマリモゥの定食屋に、それから……」


  フルルの居そうな場所に二人一組で分身たちを向かわせた。


「見つかったらフルルには14番ゲートに向かわせて、一人はフルルから金を全額受け取って、魔道具屋で紫煙花の共振器を買えるだけ買え。多分5個は買えるはずだ。いけ!」

「はい!」

「おまえは魔道具屋にいって、あらかじめ話を通しておけ、金が到着したらすぐ共振器を受け取れるように。受け取ったらダッシュで14番ゲートに向かえ!」

「はい!」

「おまえ達は冒険者図書館でホワイトタイガーの生息エリアまでのルート、モンスターの種類、過去に紫煙花が咲いていた場所、とにかく色々調べろ」

「はい!」

「おまえ達は今、俺が持っている手持ちの金で、食料と松明を買って14番ゲートまで持ってこい! この際味にはこだわらん! 不味くても構わないからたくさん買ってこい!」

「はい!」

「よし、行くぞ! なんとしてもあの花を手に入れる!」

「「「うおおおおおお‼︎」」」


  俺たちは動き出した。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 14番ゲートの入り口の近く、目立たない所で俺は分身達の動きを監督していた。

 スピードが一番だが、次点でできる限り目立たず立ち回りたい。

 もっとも重要なフルルは図書館にいた。亜空間ボックスの中から金を受け取り、魔道具屋に分身を走らせた。

 しばらくしてフルルは、駆け足でヒビキの所にやってきた。急がせたせいで、若干息が切れている。


「はあはあ……一体、どうしたの?」

「休日は休みって言ったけどゴメンな。どうしても今すぐエリアに入らなきゃならないんだ」

「それはいいけど……何があったの?」

「実はな……」


  説明しようとした所で分身達が食料を持ってきた。それを分身ごと、亜空間ボックスに押し込んだ。

 更にその少し後に、別の分身が紫煙花の共振器を買って持ってきたので、やはり分身ごと亜空間ボックスに押し込んだ。

 準備は整った。


「フルル! 説明は後だ! とにかく急がなきゃならないんだ!」

「う、うん」

 

 俺の本気と焦りを悟ったフルルは素直に頷いた。

 こうして、これまでで最も慌ただしいエリア探索が始まった。

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