40 シーフな女の子、その8です。
「じゃあ、ヒビキの取り分は私が預かるわ。よそで売り払って、魔光器仕入れて戻ってくるまで、約半月って所ね」
「それでいいよ」
俺とフルルとクーヤの3人は、初めて出会ったギルドで、簡単に食事を取りながら今後の方針を決めていた。
因みにたわわちゃんはディナーに誘ったのだが、すげなく断わられた。きっと何か用事があって忙しいのだろう。しょうがない。
たわわちゃんが倒したアクアゴーレムからドロップした泉石はクーヤが受け取り、その対価としてアクアマリンを渡した。俺はアクアマリンの取り扱いをクーヤに一任したが、たわわちゃんはあっさりとギルドで換金して帰っていった。
因みにエリアで入手したものを、ギルドを通さずに売買する事は違法でもなんでもない。今回の俺とクーヤの様にギルドを通さず商売して、手数料を浮かせる奴は冒険者にも商人にも一定数存在している。といっても、ギルドが目くじらを立てない程度に少数派だ。
何故かというと、やっぱ面倒くさいのだ。色々と手間がかかるし、イザコザも起きやすい。
例えば俺とクーヤの例でいうと、クーヤがこのままアクアマリンを持ち逃げしてドロンしちゃったりな。
信頼関係? 出会って4日の俺たちに、そんなのねえよ。ただ、魔光器は個人が買うのは難しい。ましてやここは冒険者の街だ。そもそも畑がないから魔光器の需要もない。そんな中で魔光器を手に入れるには、ある程度のリスク(クーヤの持ち逃げ)は覚悟しなきゃならない。それにクーヤだってこれから商人としてやっていくなら信用は大事だろう。
とまあ、そういうイザコザが実際に多々あるもんだから、大抵の奴はギルドを通すんだ。安全、安心がモットーのギルドだな。
そんなギルドの受付嬢が俺たちの元にやって来た。俺にクーヤを押し付けたあの受付嬢だ。
「クーヤちゃん。冒険者の登録の抹消と商人としての登録が終わったわ。はいコレ、商人の登録証」
「ありがとう、ミオ」
「これでクーヤちゃんも卒業か……まあ、おめでたいわ」
「何? 嬉しそうね? 使えない奴がいなくなって嬉しいの? ごめんね、今迄ろくな稼ぎもないのにうっとうしくてさぁ」
「あらあら、ご挨拶ねぇ。考えすぎよ。受付嬢を長くやっているとね、ある日突然いなくなる冒険者の人も
多いのよ。どんな人であれ、どんな形であれ、元気なまま引退した方がいいに決まっているわ」
その言葉には重みがあった、クーヤもそれを感じてバツが悪そうに押し黙った。そんな空気を自ら払拭するように明るく言った。
「駄目よ。今日はクーヤちゃんの商人としての始まりの日なんだから明るく行きましょう。それに、私達は冒険者の次に商人と関わりが多いの。これから取引で一緒に仕事する事もあるかもね。その時はよろしくね」
「う、うん。よろしく」
「あなた達も……」
と、俺とフルルに水が向いた。
「あんまり無理しちゃ駄目よ。なんといっても命あっての物種なんだから」
俺とフルルはその言葉に素直に頷いた。
「こいつらなら大丈夫よ、ミオ。むしろ他の冒険者に比べて、遥かに安全に狩りしてるもの」
「あら、そうなの? それは安心ね」
「そうなのよ。……あんたらこれからも頑張って稼ぎなさいよね。そして、たくさん私に注文しなさい。私も頑張って用意するわ。お互い、持ちつ持たれつで行きましょう」
「三人とも頑張ってね」
こうして、クーヤというシーフの冒険は終わった。彼女は冒険者としては結果を残せはしなかったが、命を失う事も怪我を負うこともなく、友人達に祝福されながら新しい道を歩いていく事になった。
……。
……。
因みにこの後クーヤは、私は大商人になる! と大風呂敷を広げるのだが、その際にうっかり言った、
「ミオ、あんたがこのまま行き遅れ続けてギルドで肩身が狭くなったら、私が雇ってあげるから安心なさい」
という、本当に余計な一言でそれまでの祝福モードは一変、語ることもできないような地獄絵図が開かれたのだが、それはまた別の話だ。




