30 空間術師の育て方です。
「なんでレベルが上がった?」
「わかんない」
俺たちはフルルのステータスを見ながら首を傾げていた。
レベルを上げるには経験値を稼がなくてはならない。そして、経験値を稼ぐにはモンスターを狩らなければならない。更にどれだけ経験値を得るかは主にモンスターの強さと戦闘貢献度によって決められる。
ざっくり言って、強い敵に大活躍すればたくさん経験値がもらえる訳だ。
そして、無限術師や空間術師などの特殊系希少職はレベルを上げるのが難しいとされている。
モンスターと戦いレベルが上がっても、戦闘力以外の能力が開発されていくからだ。
特に空間術師は断トツ、ぶっちぎり、一番レベルが上がり辛いジョブだ。歴史上の最高の空間術師はレベル7とまさかの一桁である。因みに無限術師は15。
なんせ、能力である亜空間ボックスは全く戦闘向きじゃない。
故にどんなに頑張ってもゴブリンを倒すのが精一杯、そして頑張ってレベルを上げても強くならない鬼仕様だ。
一般的な空間術師は、盾役に守られながら弓を使いゴブリンを倒す。そしてレベルが3にもなれば十分とされる。それ以上はレベル上げの労力と亜空間ボックスを増やすリターンの釣り合いがとれなくなるのだ。
でも、俺たち軍勢の不動の副団長フルル君はまだ12歳なので、俺はフルルのレベルを上げようとは思っていなかった。おそらく、俺の前の主人たちもご同様だろう。
だが、今フルルのレベルが上がった。
なんでだろう? ……そう思って思案して気が付いた。
亜空間ボックス内からギロチンを落として敵を倒す事は、空間術師が経験値を得る事がつながると。
空間術師がいなければ、ギロチンを使う様な馬鹿な戦い方はできない。なら、経験値が空間術師の方に入ってもおかしくはない。
前例がないから推測でしかないが、たぶん間違いないと思う。
俺はフルルに推測を話して嬉しそうに言う。
「大発見だな。フルルにゴブリン狩りをさせる必要がなくなった」
「ですね、僕も嬉しいです」
「にしても、これでレベルが上がるなら、今までの戦いでレベルが上がってもいい様な気がするんだけどな? フルルのおかげで亜空間ボックス内から安全に攻撃できたんだから」
「うーん……でも普通のパーティーで普通に戦うと空間術師に経験値は入らないから……微妙」
「……そうだな、これ以上は考えてもわからん」
そこで、いったんレベルと経験値の話をやめた。今はもっとやらなければならない事がある。
能力の把握だ。
俺たちは追加された何もない空間に足を運んだ。
「おー広いな、今までの倍だ」
「うん」
「今は二つの亜空間ボックスが繋がっているけど壁で仕切る事もできるんだろ、やってみてくれないか?」
「うん」
頷いたフルルが二つの亜空間ボックスを壁で仕切った。
「すげ! これさらに半分に仕切ったりは……」
「それは……無理」
「じゃあ隣の部屋に行くには、一度壁を消さなきゃならないのか?」
「ううん」
首を振ったフルルが壁に手をかざすと、四角いマークが浮き上がった。
「いいよ」
促されてマークを触ると隣の部屋にいた。振り返るとそこにもマークがあった。再び触るとフルルのいた部屋に戻った。ワープだ。さすが空間術師。
「便利なもんだ。あとはこっちの新しい部屋から外に出れるの?」
「大丈夫、どこからでも出れる」
「そうか……大体、把握できたな。後はこの部屋をどう使うかだが・・」
それから二人で話しあって、とりあえず、ギロチンや武器などを置く戦闘部屋と寝袋やテーブルといった休憩室に分ける事にした。荷物運びも分身を使えばすぐだった。
そして翌日、朝からオークを狩り続けた結果、俺のレベルが10になった。




