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22 唐突なプロポーズ、その2です。

「ねえ」


 たわわちゃんが話かけてきたけど、テーブルに突っ伏した俺は失意のあまり動けない。


「ねえ」


 動けないったら動けない。


「ねえってば!」

「返事がない。ただの屍のようだ」

「?……なにそれ?」

「いや、死ぬほどショックだったって事さ。んで何かな」


 動きたくなかったけど、しょうがなく身を起こして背筋を伸ばした。振られたとはいえ好きな女の子の前でいつまでも無様は晒せないしさ。


「私は貴方に二つ用事があるの」

「二つ?」

「一つはさっき言った様に天位の座を目指している貴方を侮辱した事に対する謝罪」

「うん」

「もう一つは貴方の夢の否定」

「ええ⁉︎」

「貴方が9番目の天位の座に就こうと努力している事は認める。……だけどその夢が叶う事は決っしてない」


 そこで、たわわちゃんは一拍置いて、俺を静かな、でも戦意に溢れる瞳で見つめながら言った。


「何故なら9番目の天位の座に座るのは貴方ではなく私なのだから」

「…………」


 なるほど、むしろこっちの方が本題なのか。宣戦布告、ライバル宣言、いかにもたわわちゃんらしい。

 そして困った事に、そんなたわわちゃんの行動を嬉しく思ってしまう俺がいる。無限術師の俺をちゃんと敵として見てくているのが嬉しいのだ。いやほんと困ったな、盛大に振られたのに全然嫌いになれないじゃん。

 とはいえ、


「ところでたわわちゃんは奴隷の身分なのに天位の座を目指せるの?」


 普通、奴隷にそんな自由はない。


「問題ない。カテュハは自由にしていいって言った」


 カテュハ、その独特な名前には聞き覚えがあった。


「カテュハってあのカテュハ? カテュハ=サワカーラ?」

「うん、そのカテュハ」

「えええぇえええ!」


 思わず叫んでしまった。カテュハ=サワカーラ。その名を知らぬ者は、この迷宮都市にはいないだろう。

 歴史上8人しかいない天位の座の7番目、俺とたわわちゃんが目指している頂きに到達している先人だ。

 確か7番目の天位に到達したのが150年程前の話で、不老の薬を飲んでいるから今も若いままだとか。


「なんで⁉︎ なんでカテュハがたわわちゃんを奴隷にするの⁉︎ 天位の7番にレベル一桁の魔法剣士なんか必要ないのに⁉︎ え? もしかしてカテュハってロリコンレズなわけ⁉︎」


「違う!」


 たわわちゃんにおもいっきり睨まれた。えー? 俺はたわわちゃんを心配しているだけなのに。


「カテュハと私の先祖が知り合いだったらしくて私を買ったの。一応主従関係はあるし、幾つかの取り決めはあるけど基本的に自由にしていいって。それで、お金か溜まったら将来的に奴隷から解放してくれるらしい」

「…………なんという幸運」


 普通、奴隷がそこまで厚遇される事はありえない。ほんとこの娘、なんか持っているわ。幸運の女神に愛されているというか、むしろ幸運の女神そのものというか。


「という訳で私が天位の座を目指してもなんの問題もない。そして貴方ではなく私が天位の9番になる」


 たわわちゃんのストレートな宣戦布告に、俺の中にメラッとした炎が生まれた。


「駄目だね、いくらたわわちゃんでもそれは譲れない」


 俺はたわわちゃんを睨みつけた。

 たわわちゃんも俺を睨み返してきた。

 うん、ラブラブさは欠片もないけれど、こういうライバル関係も悪くない。

 実際たわわちゃんと話す前の弱気の虫は、どっか明後日の方向に飛んで行ったからさ。

 断崖絶壁なんぼのもんじなゃいって感じだよ。

 

「9番目の天位の座に座るのは俺だよ」

「違う、私」

「いーや、俺だ。絶対に俺だ」

「違う。絶対に私」


 むむむむむむ。

 お互い睨み合い譲らない。

 と、そこでたわわちゃんが切り口を変えた。


「貴方は私に勝てない。ちゃんとした理由があるの」


 たわわちゃんはそう切り出した。


「……なんだい、その理由って?」

「私は生まれた時から、闘いの修行を積んできた。だから同じレベルの他の人達よりも確実に強い」


 うん。理解はできる。同じ職業、同じレベルでも個々により明確に差はある。


「だから、私はあえて、推奨攻略レベルが自分のレベルより高い所を選んで攻略している」

「それはハイリスクハイリターンすぎない? 俺、たわわちゃんの事心配だよ」

 

 俺の心からの心配を、たわわちゃんは完全に無視した。

 

「だから私が得られる経験値は多い。現に私とあなたが奴隷商の所で初めて出会った日から今日までに、2つレベルを上げている」


 それは素直に凄いと思う。


「逆にあなたには武術の経験はないでしょう? 体つき、足の運び、気配、全てがそう物語っている。だから武術経験のないあなたが私の成長スピードに敵うわけがない」


 淡々とだが確固たる自信を持ち説明してくれたたわわちゃん。

 でもなぁ……。


「分かり易い説明をありがとうたわわちゃん。でも俺、たわわちゃんと出会ってから今日まででレベルを6上げているよ?」

「え?」


 たわわちゃんがきょとんとした。そして次の瞬間、


「そんな馬鹿な⁉︎」

「ほんとほんと。なんなら俺のステータスを見せようか」


 俺はステータスを開き、たわわちゃんに見せた。


「ほんとだ………………ありえない。どうやって?」

「まあ、色々と頑張ったんだ」

「………………」


 無言になったたわわちゃんは徐々に顔を赤くしていった。恥ずかしいみたいだ。まあ、あれだけ自信満々に説明してからのこの返しだ。俺だったらゴロゴロ転がる。

 それにしても恥ずかしがっているたわわちゃんも可愛いなあ……。そう思ったら我慢できなかった。


「いやいや、たわわちゃんも頑張っているよ。この短期間で2つもレベルを上げるなんて」

「くっ⁉︎」

「それに、まだ俺の方がレベル低いしね。あと2つも差がある」

「…………」

「まあ、でもこのペースならあと10日もすれば、たわわちゃんを超えているかなぁ」


 実際にはゴブリンを狩ってもレベルは上がりずらくなっているし、オークには負けているしで、様は一種のハッタリなのだがたわわちゃんには効果絶大だった。

 恥ずかしいのか、悔しいのか、ますます顔を赤くした。

 それこそ今にも泣きそうな顔をしている。

 えっ⁉︎ 嘘⁉︎ ちょっとからかうだけで、泣かすつもりなんてなかったのに⁉︎

 というか、好きな女の子にいじわるするとか子供か俺は⁉︎ とにかく、もっと包容力がある大人の男としてフォローせねば!


「いや、ごめんねたわわちゃん!ちょっとからかうだけで泣いちゃうとは思ってなかったんだ!」


 俺は素直に謝った。そしたらなんか空気が重くなった。おかしいな? もっとフォローせねば。


「それに、誤解しないで欲しい。俺はたわわちゃんなら天位の座に座れると思っているよ。たわわちゃんならきっと10人目の天位の座に座れるさ。俺はそう信じているよ」


 あれ、なんか更に空気が重くなった。それに何故か背中が冷たいです。なんでだろう?

 俺が不思議に思っていると、たわわちゃんが静かに言った。


「ヒビキ、さっきのプロポーズ受けてもいい」

「はい?」

「貴方が9番目の天位についたなら私の事を恋人にでもお嫁さんにでも……それこそ奴隷にでも貴方の好きなようにして構わない」

「ええぇええ⁈⁇⁇!」


 天地がひっくり返る様な衝撃を受けている俺に、たわわちゃんはまるで決闘を挑む様な顔で言った。


「絶対に、絶対に、絶対に不可能だから!」

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