21 唐突なプロポーズです。
「た、たわわちゃん⁉︎」
思わず声を上げてしまった。
そんな慌てる俺とは対象的に。たわわちゃんは冷静で用件のみを告げてきた。
「貴方に用事があるの。それが済むまで前の時みたいに、いなくならないで」
用事! たわわちゃんが俺に用事だと! 一体何の用だ⁉︎
正直何の用事だか見当もつかなかった。
もしかしてもしかしてデートのお誘いだとか?
そんな事を考えてどぎまぎしてしまう。
いや、冷静に考えてそんな展開は、まずありえないと思っているよ。だけどたわわちゃんがわざわざ俺に会いにくるとか、冷静さを吹き飛ばす一大事件なのですよ。
心臓をどぎまぎさせながらたわわちゃんの用件を待った。
「私は一つ貴方に謝らなければならない事があるの」
「謝らなければならない事?」
なんだろう? 正直身に覚えがない。
「最初に出会ったとき、貴方を弱いもの呼ばわりしたでしょう。私は貴方を無限術師という一点でそう判断した。でも、違った。貴方は上を目指して努力していた。天位の座を得るとはっきり宣言した。私は私以外に天位の座に至ると宣言した人間を貴方しか知らない。そんな貴方を弱いと見なしたのは間違いだった。ごめんなさい」
「…………」
予想もしなかった言葉に混乱しながらも、なんとか彼女の話を理解しようとした。
確かにたわわちゃんは俺の事を弱いと言った。そんな弱い奴に仕えたくないと。
正直いい気はしなかったな……でも、彼女が特別偏見を持っていた訳じゃない。しいて言えばそれが無限術師に対する一般的な評価だ。
だけど、そんな世間の評価に反して、天位の座を目指している俺を認めてくれて、今謝ってくれていると……。
……。
……。
天使かこの娘!
やばい! この世界では、神様が普通に歩いているらしいが天使までいたよ! 可愛くて、腕もたって、更に優しさと素直さが同居しているとか反則だろこれ!
「ああ……それね……それは……あれで」
やっべえ。ありがとうって言いたいのに言葉にならねえよ。テンパりすぎてまともに喋れない。普通でいいんだ普通で……。いや違うか、俺は普通の言葉じゃなくて、気の利いたかっこいい言葉を返したいんだ。爽やかでクールな言葉で。
かっこいい返事。
かっこいい返事。
かっこいい返事。
……やっべえ出てこない!
「たわわちゃん」
いつまでも黙っているのもかっこ悪いから、とりあえず名前を呼んだけど続きが出てこない。何か、何かないのか、なんだっていいから何か!
そうやってテンパりまくった俺は、後ほど布団の中で転がりまくる事になる阿保なセリフを言った。
「俺が9番目の天位になったら結婚して下さいいいい⁉︎ 何を言ってんだ俺はああああ!」
「えっ?」
たわわちゃんは一瞬キョトンとした表情をした。
次の瞬間、俺の言葉を理解して、顔を赤らめながらも睨みつけられた。
「何を言っているのあなたは⁉︎」
「だよなぁ、何を言っているのだろうな俺は?」
思わずたわわちゃんに同意しちゃった。
じゃなくて、
「ごめん、せめて言い訳ぐらい聞いてください」
「……わかった」
とりあえず話は聞いてくれるみたいだ。
「いやね、俺が無限術師になってから周りから結構な扱いされたんだ。馬鹿にされるし、誰もパーティー組んでくれないし、天位の座を目指しているなんて言おうものなら嘲笑われるしさ…ふはははそこらへんわかる?」
「……なんとなく想像出来る」
「なんとなくで十分さ。で、そんな中で俺が天位の座を目指している事を、まともに受け取ってくれたのはたわわちゃんだけなんだよ。正直、すごい嬉しかったです」
「…………そう」
たわわちゃんは短く呟くと顔をそらした。
たぶん、照れくさいんだと思う。俺だって照れくさい。
「それに加えてたわわちゃんは可愛らしいし、可憐だし、その上天使だしで、これはもう俺がとち狂ってプロポーズの一つや二つしたって仕方ないと思うんだ」
「仕方なくはないし私は人間」
顔をそらしながら呟くたわわちゃん。そこに普段のクールなたわわちゃんはいない。あきらかに動揺している。もしかして、この唐突なプロポーズを好意的に受け取っているのだろうか?
「それで……どうなんだろう?」
「どうって?」
「いや、俺のお嫁さんになるのはどうなのかなって……いきなりすぎるなら恋人から始めても……」
「それはない!」
俺の儚い望みはいい終える間もなくバッサリと断ち切られた。さっきまで照れていたのに一瞬でクールたわわちゃんに早変わりだった。
くそう! 現実は甘くないぜ!
俺はテーブルに突っ伏した。




