16 王に挑む者達、その5です。
「いやいや、君らを探していたんだけど、正に間一髪という所で見つかって良かったよ。君ら幸運だな」
「いや、本当に危ない所だったんだ。助かったよ」
「ありがとうございます」
亜空間ボックスに避難した俺たちは、朗らかなムードで会話していた。
……なので、そのジト目を止めてくれないかなフルルさん?
「僕たちを探していたという事は、もしかしてビッツとサリアに出会って頼まれたのかい?」
おっとエルト君ニアピンだな。鋭いよ君、ただ奴らを過大評価しすぎだな。
「確かにあの二人には出くわしたよ。いきなり出会い頭に、奴らを追っていたゴブリン共をなすりつけられた」
「「えっ?」」
「いや、俺たちはこの亜空間ボックスに避難していたから分身達が全滅する程度で良かったけどさ、流石に酷いよな?」
「「…………」」
「で、その様子から君ら二人も危険だろうって考えて、うちのフルル君がどうしてもって言うから助けに来たんだ」
「……すまない」
「ごめんなさい」
おっとー、さっきまでの和やかムードが、一瞬でお通夜になっちゃったぜ。
「いやいや、別にあの二人の事で君らを責めるつもりはねーのよ。ただ助けに行こうったのはフルルだから、感謝はフルルによろしくねって話」
「……わかった、ありがとう」
その後、二人はフルルに頭を下げて、何故かフルルも頭を下げるぺこぺこタイムが終了し、二人の怪我の治療をする事になった。といっても、治癒師もいないしポーションもないしで簡単な応急手当てだけなんだが、やらないよりは100倍マシだろう。
ついでに水も渡した。一息つくのに効果は絶大みたいで「ありがとう。生き返るよ」と言ったのは本音だと思う。
そして一息ついてから、ゴブリン迷宮の本当に危険な所を話した。
「……そうか、ゴブリン達の方が危険だったのか・……」
「そうなんだよ……まあ、折角助かったんだから次からは気をつけなよ」
「ああ、気をつけるよ」
そんな風に情報交換していると、外でゴブリンを狩っていた分身から魔石を手に入れたと報告があった。
フルルにお願いして魔石を回収する。
テーブルの中央に置かれた籠に魔石が落ちた。テーブルを囲んでいた二人が目を白黒させた。
「それにしても空間術師は便利だね、というより君らちょっとずるくないかい?なんと言うか戦っている気がしないんだけど……」
ずるくないかい? と言われたが苦笑しているし非難している訳じゃないんだろう。
「いやいや、こんなのずるの内に入らないって……。それより、これからどうする? なんなら街に着くまでこの中にいても構わないけど?」
いちおう問いかけの形だったが、問いかけた時点で答えは決まっていると思った。
だからメアリちゃんの、
「あの! ゴブリンキングの部屋まで連れていってくれませんか?」
という返事に意表を突かれたし、胸の内でバカジャネーノと、思ってしまったのは俺に非はないと思う。
「えーと…………一応、確認しておくけど、それはゴブリンキングを狩りにいくって事でいいの?」
「……はい」
「えー……更に確認しておくけど、君とエルト君の二人だけでって事でだよね? まさかと思うけど俺らは頭数に入っていないよね?」
「はい。私達だけで戦います」
その言葉で理解した。この子とは話が通じないと。
なので話の通じそうなエルト君の方を見ると、とても困った顔をしていた。
「メアリ、流石に無謀だよ。1度出直そう」
「もう時間がないわ! このままだとリルが!」
「わかってるけどさ、今の僕らじゃ、ゴブリンキングに勝てるはずがないよ。1度戻ってサリアに治療してもらおう。それからまた挑もう」
「でも、きっとあの二人はもう付いてきてくれないわ。もともとゴブリンキングと戦うのは私達の事情だもの」
俺たちそっちのけでいい合う二人には、何か訳ありの様だけど、まあ他人の事情に余り深入りしないのが冒険者の流儀だ。
おとなしくエルト君が説得するのを待っていたら、
「どうしても戦うのかい?」
「ええ。お願いエルト」
「はあっ、しょうがないな……わかったよメアリ」
「ごめんなさい。ありがとう」
なんと、エルトの方が懐柔されやがった。ざけんなよー。
「ちょっと待て、折角助けたのに自殺されると気分が悪いんだが?」
「すいません。でも、どうしても戦わなければならない事情があって……実は」
「あんまり、関わりたくないな」
「私たちは、とある農村で生まれたんです。子供の頃から……」
「関わりたくないって言ったよね!」
結局、事情を聞いてしまった。メアリちゃん結構天然なのか、それとも意図的なのか……。
メアリちゃんによると故郷の村の『魔光器』に不具合が発生してかなりの費用が必要だったらしい。
ちなみに『魔光器』ってのは、魔石を動力として特殊な光を放ち、それを浴びた植物はすくすく育つという農具の一種だ。魔石文明の3大発明と呼ばれている。『魔光器』のサイズや規格によって必要な魔石のサイズや出力が変わるのだが、二人の村の『魔光器』にはゴブリンキングの魔石が必要らしい。だが、修理に費用がかさみ魔石を買うお金がないらしく。このままでは村の子供を、奴隷として売り払わなければならないらしい。
悲しい話だが貧しい村などでは、小さな子供にジョブにつかせ、それが有用だったら奴隷商に売り払うことがある。
そして、二人の村には、竜騎士のジョブについた子供がいるらしい。二人の3つ下で村にいた時は仲良く遊んだ仲だとか。そんな妹分リルを救うためには、今キングゴブリンを倒し魔石を入手するしかないらしい。
と、そんな話を聞きたくないのに聞いちゃったよ。
「へー、それは大変だ。でも二人でキングゴブリンに挑むとか、自殺と変わらないと思うよ」
「勝算はあります。エルトならゴブリンキングの攻撃を受け流せます。そして私が後ろからファイヤーボムで倒します」
「満足に歩けない状況で?」
「……………………」
「まあ、君らが危険をおかすのは君らの勝手だけど、俺たちがそれに付き合う理由はないよね? 街まで戻るならこのままいてくれも構わないよ。どうせ俺たちも帰るからね。でも、わざわざ迷宮の奥まで進むことはしない。余計なリスクでしかないからさ。だから、君らがキングゴブリンに挑むなら、ここでさよならだ。二人だけで頑張ってくれ」
「そ、それは……」
ここで置いてかれたら死ぬことはちゃんと理解しているらしい。メアリちゃんは口をつぐんだ。
まったく、なんで見ず知らずの奴らの為に、俺が悪役やらなきゃいかんのか……ちょっと情けなくないかいエルト君?
などと考えていると、まさかのフルルから横槍が入った。
「隊長、二人を助けてあげられませんか?」
えー? なんだ? ここには馬鹿しかいないのか?
「なあ、フルルよく考えろ。この場合どう考えても引く方が正しい。キングゴブリンに挑むのを、黙ってみているのは助けている事にはならないよ」
「それは、わかっているんですが……」
「大体、すでに助けているだろ? ちょっと話しただけの他人を助けに迷宮の奥まできて、街まで連れて帰ろうって話だよ? いたせりつくせりじゃね?」
「それも、わかってるんだけど……」
「そして仮にキングゴブリンを倒したとしても、魔石は村に送るんだろ? キングゴブリン倒してただ働き? ありえなくないか?」
「…………わかってるし」
ぷいってそっぽを向いた!
わかってねーし、その顔全然納得してないだろ⁉︎
「なんで、そこまで肩入れすんのさ?」
「あの……その……僕も同じだったから……」
「同じ?」
「はい。僕の村もお金で困って、その……空間術師の僕が……その……」
「ああ……」
言葉は途切れ途切れだったが理解した。
エルトとメアリちゃんの表情も暗くなった。
そうか、そういう理由か、そのリルって子がかつての自分と同じで、それを何とかしようと頑張っている二人を助けてやりたいのか……。
「だけどなぁ……」
いざ協力しようとしても、俺たちの能力じゃ役にたたないのが現実だ。とりあえず、ただ働きの点はいいとしよう。いや、よくはないんだが、まあ、しょうがない。
問題は俺たちの攻撃手段である竹槍が、キングゴブリンには通用しないだろうって事だ。ダメージを与えられない俺たちに何ができる?
囮か? 分身たちにウロチョロさせて二人、とくにメアリちゃんに攻撃がいく確率を減らす?
……駄目だろうな、二人の機動力がない以上狙われたら逃げられない。そしてダメージテーラーのメアリちゃんが狙われないはずがない。
こんな事ならポーションを用意しておけば良かったんだけど、安いやつでも1本10万ゼニーだしな。
どう考えても俺たちのスキルで、二人の足の怪我を補う方法なんて…………。
……。
……。。
あー!
あー! あー! あー!
馬鹿みたいな方法を思いついちゃたぜコンチクショウ!
……あー。
いっそ思いつかない方が良かったと思いながら、俺は3人に打倒ゴブリンキングの作戦を話した。




