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13 王に挑む者達、その2です

 あれから、俺たちとあっちのパーティーは微妙に距離を開けて関わらずに歩いてきたのだけれど、ゴブリン迷宮につながるゲートの手前で、ゴブリンが9匹出た。ちょっと一度に出すぎだ。亜空間ボックスに避難するか迷ったのだが、あちらのリーダーが今度は自分達がやると言った。お任せする事にする。

 迫り来るゴブリン達に騎士が魔術師の前に、戦士が治癒師の前にそれぞれ立った。後衛一人に盾役の前衛一人がつくオーソドックスなスタイルだ。

 ちなみに戦士と騎士の違いは、戦士が攻撃よりのスキルを取得するのに対して、騎士は防御よりのスキルを取得する。どちらが優れているかというと微妙に意見が分かれるのだが、パーティー戦という事を考えると騎士に軍配が上がる。特に初めから使えるスキル『受け流し』は中級に上がっても、上級に上がっても使える優秀なスキルだ。

 とはいえ一度に9匹は多いかな? とか最初は思っていたよ。

 それが勘違いだとすぐにわかった。

 最初の一撃は魔術師の女の子だった。荒野のエリアは視界が広い。ゴブリンがたどり着くまでに魔法を用意する余裕があった。

 彼女の前に炎の塊が生み出された。

 そして近づいてくるゴブリン達に向けて、


「ファイヤーボール!」

 

 魔法を発射した。ズガンと言う音がしてゴブリン達が 吹き飛んだ。

 1、2、3、4、5匹吹っ飛んだ。固まっていたとはいえやばい威力だ。

 

「じゃあ、行くぜい!」


 ファイヤーボールで怯んだゴブリン達に戦士が走り出した。その手には両手持ちの大剣が握られている。

 そしてその身体は白い煙のような物がまとわりついている。治癒師のスキル守りの加護だ。

 

「うりゃ!」


 戦士の放った一撃がゴブリンを袈裟懸けにした。そこで生き残りの1匹が横から棍棒で殴りかかったが棍棒の方が折れた。たぶん闘気と守りの加護の相乗効果。

 さらに、横に大剣をぶんぶんと振り回した。

 剣が振り回されるごとにゴブリンが減っていき、程なくしてゼロになった。

 リーダーが出番がなかったなと苦笑している。なんつーか爽やかな笑顔が似合う奴だ。

 

「すげぇな」


  それが俺の正直な感想だった。つい最近までソロだったから、他の奴らの戦いぶりを間近で見るのは初めてだった。

 特に目を引いたのは魔術師のファイヤーボール。レベル1から使える初級魔法のくせにやたら威力が高い。正直、分身召喚の4倍魔力を使うなんて効率悪いぜ、とか思っていたけど全然そんな事なかったわ。見くびっててごめんなさいしたい気分だ。せっかくだから心の中でだけでもやっとこうか、ごめんなファイヤーボール。

 で、隣のフルルを見ると意外な事に全然驚いていなかった。なんでぇ? って一瞬思ったけど、そういえば俺の前は上級冒険者とパーティー組んでいたんだっけ、そりゃ驚かないわ。

 うーむ、隊長の俺が驚いていて副隊長が平然としているのも、なんか悔しいので平静のなろうと心落ち着かせていたら、驚愕の一言が飛び込んできた。

 それは魔石を回収してステータスを確認した、治癒師の言葉だった。

 

「やったぁ! レベル上がったよ! レベル5一番乗り〜〜♪」


 すげぇびっくりした。だってその言葉は裏を返せば、他の奴らはレベル4、下手すればそれ以下の奴もいるかもしれないという事だ。

 そして、今の俺の胸中はこうだ、

 あー関わりたくねーホントマジ関わりたくねーし、いやいや、絶対相手にされないし、100パーセント馬鹿にされて終わりだし、だいたい全く癒し要素のない治癒師とか助ける価値があるのか疑問だし、でもまあ他の奴らには恨みもないし一応忠告するだけはしとこうかな。

 嫌々ながら忠告する事にした。

 

「あー、ちょっといいか?」


 リーダーの騎士に声をかけた。


「なにかな?」

「そこの治癒師の子の言葉が聞こえたんだけどさ……」

「きもっ! なに盗み聞きしてんのよ」


 …………無視だ無視。


「その言葉からすると、おたくらの大半はレベル4って所じゃね?」

「そうだけど?」

「荒野のゴブリン迷宮は推奨レベル6、7からだよ。もうちょっと、レベル上げてからの方がいいんじゃね?」

「…………」


 騎士は考えこんだ。代わりに治癒師が噛み付いてきた。


「エルト、そんな奴の言う事なんて聞く必要ないわよ」

「でもサリア、彼の言う事には一理あるというか……」

「今更止める訳にもいかないでしょ⁉︎ ねえ、ちょっと、あんた!」

「なんだ?」

「私らの能力知らないくせに、余計な事言わないでくれる⁉︎ こっちのメアリはさ、レベル4にしてファイヤーボムを覚えているのよ!」


 へえ! 俺は素直に驚いた。

 ファイヤーボム。それはファイヤーボールの上位魔法に位置していて通常レベルが二桁にならなければ取得する事の出来ない魔法だ 。魔術師は魔法を選択していく職業だ。そして稀に選択肢におかしな奴が混じる事がある。まだ一桁の内に中級のファイヤーボムを取得しているなら、将来的に火魔法特化の炎術師に

 なれるのかもしれない。

 また将来の事は置いて置くとしても、ファイヤーボムならキングゴブリンに確実にダメージを与えられるだろう。


「受け流しを使うエルトとファイヤーボムを使うメアリなら、二人でもキングゴブリンと戦えるわ。それに私とビッツが加わるのよ。負けようがないわ!」


 確かにそれならキングゴブリンとも戦えるだろう。


「わかった⁉︎ 大体ね、無限術師ごときのアドバイスなんか私らには必要ないの! 二度と口を挟まないでくれる⁉︎」

「サリア、そこまでだ」


 まだ噛み付いて来ようとした治癒師をリーダーが止めた。

 

「すまないね、せっかく忠告してくれたのに……」

「いや、いいよ」


 少なくともこいつに謝られるいわれはない。


「レベルが低い事は自覚しているんだ。だけどキングゴブリンを狩らなければならない事情がこちらにはあってね、それにサリアの言うとおり勝算もある。止める訳にはいかないのさ」

「そうかい……」


 その言葉で俺は口を出すのを止めた。実の所、彼らに抱いた不安はまったく解消されていない。だけど部外者が言ってどうこうなるような事でもないのだろう。そもそも、俺にだって身の丈に合わない無茶をやった事はある。鉄亀のときとか。


「幸運を祈っているよ」

「ありがとう」

 

 リーダーはそう言ってからパーティーを連れて、ゴブリン迷宮に入っていった。





 

 


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