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117 恋する鉄体師、その9です。

「ああ、畜生! 余計な時間を食った!」

「ほんとに! もう!」


 俺に同調して珍しくも声を荒げたフルルと共に10番ゲートを抜けた。

 ずいぶんと時間を食ってしまった。

 というのも、俺の軍勢に立ち向かってきた、血気勇ましい冒険者たちが、なかなか諦めてくれなかったからだ。


「うおおおっ、ラブアタック!」


 そんな叫びを上げながら、俺の軍勢に立ち向かう勇ましい騎士とそれに同調した仲間たちに、


「んな、スキルねーだろ!」


 そう叫びながらも、俺は応戦した。

 といっても、流石に剣を向ける訳にはいかないので、盾を並べて、槍の刃ではなく柄の方を、棒と見立てて突き出した。棒術だな。心得はないけど……。

 そして結果はといえば……。


「ぐああっ!」


 俺の兵隊の勝ちだった。ゲートを中心としたガッチリとした円陣は騎士たちを容易く弾き返した。

 まあ、当たり前といえば当たり前だ。一対一ならともかく、数を揃えて、装備と陣形を整えた俺の兵隊がそこらの初級冒険者に負けるはずがない。負けるはずがないのだが、この状況で罪悪感がない訳じゃない。だから、これで諦めて欲しいのだが、


「まだまだ! 俺は今日、プロポーズすると決めている!」


 騎士君は不退転の決意を持って立ち上がった。

 こういう馬鹿な奴は好きだ。でも、こっちも余裕がないから、正直、勘弁して欲しい。

 不幸中の幸いは、この馬鹿ものに同調する奴は極一部だと言う事だ。

 大半の奴らは遠巻きに見守っている。

 俺の言葉を半信半疑でも、一応、考慮している奴らや、俺の軍勢と戦うリスクを負わない奴ら。

 うん、慎重で実によろしい。

 だから、問題は、この20人ちょっとなんだけど……。

 

「まだだああああ!」

「ぐっ! きかんぞおおお!」

「今日の俺に撤退の二文字はないのだ!」


 なまじ手加減しているから、倒しても倒しても起き上がってきて、言い方悪いかもしれないけど気味が悪かった。

 もう、ガチガチに押さえ込んで、分身ごと、迷宮都市の外れまで転移でふっ飛ばそうとかと考えた所で、騎士のパーティー仲間で恋人であろう美人さんが、


「もう止めて! 例え、花がなくても、私たちの愛は変わらないわ!」


 とか、なんとか。もっと早く言ってくれ。

 それで、一応、終わりを迎え、今、ゲートを潜り抜けて来たのだが、そこでも、すでにエリアに入り込んでいた連中を()()している所と、鉢合わせた。


「おい、お前が本体のヒビキ=ルマトールか⁉︎ 貴様、こんな横暴な行いがタダで済むと思うなよ⁉︎」


 周りを軍勢に囲まれながら引き戻されるのが不愉快なのは分かるのだが、


「文句はドラゴンに言ってくれ」


 それが俺の本音だ。だけど、相手はそれじゃあ納得しなかった。


「ふざけるな! このエリアの一体何処にドラゴンがいるんだよ?」

「それは、今捜索中だよ…………あっ!」


 たった今、火山に向かった連中の内の一人からドラゴンを発見したという連絡があった。

 その分身に視界をリンクさせると、体長が50メートルに届こうかという何かがいた。体表が岩でゴツゴツとしていてドラゴンそのものではないがドラゴンのシルエットをしている。


「どうします? 今、10人ですけど……仕掛けてみます?」

「そうだな……」


 仕掛けて、ある程度の力や動きを探ってみるか? それとも、数が揃うのを待つか?

 一瞬迷った隙に相手が動いた。


「キィャヤヤアアアアア!」


 生物というより、ガラスが割れるような金属音のような咆哮がしたかと思うと。


 ――ゴッ!!!


 岩ドラゴンの口から吐き出された、炎を纏った岩の塊ーー火山弾が10人の分身を直撃した。

 分身たちは、なんら抵抗できずに押し潰され、なおも火山弾の勢いは衰えなかった。

 勢いよく空に飛んでいくソレを、俺は、本体である俺自身の目で呆然と眺めていた。

 そして、


「落ちてくるぞ……」


 こちらに向かってくる火山弾に誰かが呟いた。

 こちらといっても、直撃コースじゃない。多分、誰もいない所に落ちる。

 それは、その場の全員が分かっているので慌てはしなかったが、ひゅるるるると、風を切って落ちた火山弾は落下地点にあった木々をなぎ倒し、小規模なクレーターを作った。もし、落下地点にいればひとたまりもないと一目で分かる光景だ。

 俺と同じように呆然としていた冒険者たちに言う。


「あれが、ドラゴンのブレスなわけだが……お前ら、帰った方がいいよ、マジで」


 百聞は一見にしかずというか、今度は誰も文句を言わなかった。我に返った奴から、我先へと都市へ帰っていく。

 俺はよしよしと思いながらも、隣のフルルに尋ねた。


「ここからじゃ、ちょっと遠くて、戦力を集中しづらい。危ないかもしれないけど、行くか?」


 俺の質問に、フルルは震えながらも、しっかりと頷いた。


「はい、ナナルーを助けたいです!」

「おーけー。なら、とりあえず……」


 俺は近くにいた分身を呼び寄せた。


「とりあえず、こいつにマーキングしてくれ。そんで、いいポジションに就いたら転移で飛ぶぞ。それまでは、亜空間ボックスの中で待機だな、火山弾に押し潰されたら洒落にならん」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 タワワは山の山頂で、ヒビキの分身をなぎ倒した岩ドラゴンの咆哮を聞いた。

 かなり近い。

 即座に、そちらに向かう。

 山の傾斜は険しく、足場も岩だらけで悪いが、そんな悪路を風のように駆け降りた。

 そして、中腹の盆地で、ナナルーの変わり果てた姿を見つけた。


 ――デカい……。


 まず、そう思った。そして、それ以上の情報は既存のモンスターではない為に読み取れない。


 ――まずは、一戦交えてみる。


 そう思い、剣を抜こうとしたが、それよりも先にヒビキの分身たちがドラゴンの側面から襲いかかった。


「「「うおおおおお!」」」


 雄叫びを上げながら槍を構えて突撃するが、その数は20人と少ない。しかも、一箇所に固まらずに広がるあたり、ヒビキもまずは様子見ということなんだろう。

 それに対して、ドラゴンは体の向きを変えた。そして、右の前足を振り上げて、正面の5、6人に振り下ろした。

 ドスンという音が、タワワの所まで聞こえた。潰されたヒビキの分身たちはひとたまりもなかった。

 おそらく、タワワも直撃すれば、耐えることはできず即死する。まさにドラゴンの一撃だ。

 でも、ヒビキはここからが怖い。

 生き残った分身は、怯えもせずにドラゴンの懐に潜り込むと、後の事を考えない、捨て身の一撃を繰り出した。

 ガス! ガス! ガス! と、岩肌に槍が突き刺さり、ボロボロと表面が剥がれていくが、ドラゴンは痛がる素振りは見せなかった。どうやら痛感はないらしい。

 でも、水に濡れた犬が、身を震わせて滴を吹き飛ばす様に、ドラゴンも体を揺らした。

 50メートルの巨大が揺れる様は、さながら小さな震源地だ。槍をしっかりと握りしめていた分身たちが、その動きに引っ張られて宙を舞った。


「「うわああああ⁉︎」」


 中には10メートル以上の高さまで引っ張られた分身もいて、鎧の重量もあって、そいつはそれだけで墜落死した。

 また、それを凌いだ分身も、前足で薙ぎ払われていく。時折、炎弾を放つが、表面が少し剥がれるだけで、大した効果はない。


「かなり、厄介……」


 タワワは呟いた。

 巨大で、重く、動きも中々に速い。それに痛覚もない。下手をすると本物のドラゴンより危険かもしれない。


「キィィャャヤヤヤアアアッ!」


 咆哮を上げながら、最後の一人を潰したドラゴンが、グルンと首を回し、タワワを見た。そして、


「くっ……!」

「ゴッ!」


 タワワがその場を退くのと、火山弾が放たれたのはほぼ同時だった。

 回避と同時に剣を抜き、そのまま、跳ねる様に側面に回り込むと、小手調べに中級雷撃魔術『ライトニングエッジ』を放つ。

 攻撃速度に優れる雷の刃は、的の大きさもあり、容易くドラゴンの脇腹に突き刺さったが、少しばかり岩肌が削れたぐらいで、さしたる効果はなかった。

 そして、そんなタワワを押し潰そうと、ドラゴンが腕を振り回してきたが、その時にはタワワはドラゴンの背後に回り込んでいた。

 ドラゴンも遅くはないが、速度においてはタワワが勝る。常に背後を取り、雷の刃を頭、首、心臓、足と突き刺していくが、


 ――あんまり、効果がない。


 そう考えた瞬間、自身の勘が危機を告げた。それまでの思考を置き去りに、その場を飛び退くと、一瞬前までタワワがいた場所を、石で出来た大樹の様なドラゴンの尻尾が通り過ぎた。


「尻尾も危険……」


 本当に厄介な相手だ。

 全ての攻撃が一撃必殺になりうる重量と巨体、そして、射程の長い火山弾。間違いなくタワワが戦った相手の中で最も強い。

 なにより、一番の問題は、あの中にナナルーがいる事だ。

 例えば腕や首なんかは、最上級攻撃スキル『天剣』を

 使えば切断出来る自信はある。だが、そこにナナルーがいた場合、一緒に切り裂いてしまう。


「でも……付け入る隙がない訳じゃない」


 ドラゴンは巨躯を誇るが、そこまで硬い訳じゃない。タワワの攻撃やその前のヒビキの攻撃で少しずつ砕かれている。

 ナナルーが死なない程度の攻撃で、その身を削っていけばいい。

 と、そこまで考えてから、一瞬、躊躇した。その戦法に適しているのはタワワではなくヒビキの軍勢のほうだから。タワワでは、削り切る前に体力が尽きるだろう。

 だから、ほんの少しだけ、負けず嫌いのタワワが顔を出したが、


 ――ナナルーを助けることが最優先。


 即座に理性が上回った。

 しばらくは、回避優先で遠巻きに雷撃で、その身を削ることに徹した。

 そして、5分後、


「お姫様、お待たせ!」


 今度は何百というヒビキの軍勢が戦場に現れた。そして、ドラゴンを取り囲むように布陣していく。

 それを見たタワワは、おとなしく引き下がり、布陣を指示するリーダー格の分身に声をかけた。


「ヒビキ本人とフルル君は?」


 姿形はヒビキと同じだが、ヒビキ本人ではないことは分かっていた。

 あいつはこの状況で前線に出る程馬鹿じゃないし、雰囲気も違う。それに、ヒビキ本人は気付いてないかもしれないけど、ヒビキの分身はタワワの事を「たわわちゃん」とは呼ばないのだ。


「隊長は、ここから300メートル程離れた場所で亜空間ボックスで兵隊を揃えています」

「そう……」


 聞くべき事を聞いた後は、話すべきことを話した。


「了解です! あの岩肌を削っていけばいいんすね!」


 と、タワワの意見を了承すると、


「んじゃ、龍狩りじゃあああ!」


 その号令と共に、攻撃を始めた。

 無数の矢と炎弾が、ドラゴンの巨躯に浴びせられ、みるみるとその体を削っていった。





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