表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/137

113 恋する鉄体師、その5です。

 とある日の早朝、まだ太陽が顔を出して間もない時間、とある天位の屋敷の庭で、二人の少女が拳を交えていた。

 一人はタワワ=リンゴレッド、この屋敷の住人だ。

 もう一人はナナルー=ホラル、10日程前にタワワに弟子入りした少女。

 二人は毎日、早朝に手合わせすることが日課になっていた。

 タワワはナナルーに合わせて闘気を抑えながら、相手の攻撃を待ち構えた。


「りゃっ!」


 ナナルーが仕掛けた。静から動へと突如切り替わる体さばきは、ここ数日で眼に見えて向上している。


 ――やっぱり、この子は才能がある。


 タワワはそう思いつつ、ナナルーの拳を受けた。更に自分も突きを返す。

 相手が避けると更に前に踏み込んだ。

 それに答える様にナナルーも前に出た。

 ここ数日で、タワワとの実力差は思い知っているだろうに、それでも躊躇なく前に出れるのは前衛向きの性格だと言える。

 至近距離で攻防を繰り返す二人、ナナルーは軟体動物のような柔らかい体を生かして、狭い空間でも勢いを殺さずに攻撃を仕掛けている。

 それに対してタワワは基本的な体さばきや、受けと突きのみで対処している。

 今、高等技術は必要ない。ナナルーが今、覚えるべきは体術の基本だからだ。だから、タワワは基本的な動きだけで戦い、基礎という物の有用性を実地をもって示している。


「りぃ、りゃ!」


 タワワを真似するように、ナナルーの動きも変化していた。どうやら、タワワの目論見どおり基礎の有用性を肌で感じて、吸収している。実に優秀な弟子だ。

 そのまま、しばらく、基本的な突きのみが二人の間を行き交った。

 が、ナナルーは突然、踵落としを仕掛けてきた。


 ――悪くはない。


 この奔放な動きが彼女の持ち味だ。基礎を覚えた上でその奔放さを使いこなせるなら、彼女は相当な達人になるだろう。

 とはいえ、今の一撃は切り替えが甘く、踵落としが出る前に踵落としが来ることが読める。

 たわわは斜め前に出ることで回避と攻撃を同時に行った。そして――、

 ナナルーの踵落としは空を切った。

 逆に、タワワの突きはナナルーのわき腹に突き刺さり、ナナルーが地面を転がった。

 それが、決着だった。


「今日はここまで。最後の一撃は、悪くはなかったけど、動きが大きすぎて事前に読める。使いこなすには、まだ基本が足りてない」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 庭の隅に備え付けられている丸テーブルを囲んで、稽古前に用意していたお茶をカップに注いだ。


「ありがとうございます、師匠」


 そう言いながらカップを受け取ったナナルーが、それを飲みながら一息ついた。

 そして、


「毎日、稽古をつけてもらって、申し訳ありません」


 ふいに、彼女が頭を下げてきた。その表情から察するに、どうやら毎日の稽古が、タワワの負担になっているのでは? そう思っているようだ。

 それを、タワワは首を振って否定した。


「別に、気にしなくていい。貴女に出会う前から、朝の稽古は日課だったし、私の稽古にもちゃんとなってる」


 嘘ではなかった。ナナルーとの組手は良い刺激になるし、物を教えるという行為は、反面、自分の成長に繋がっていた。

 ナナルーはタワワの言葉を聞いてパッと笑顔を浮かべた。タワワと違って、感情の起伏が表にでる娘だ。まるで、万華鏡のように表情がころころと変わる。

 今も、何か尋ねたい事があるけど、尋ねていいのだろうか? と考えている事が丸わかりだ。


「何か聞きたい事でもあるの?」


 タワワが水を向けると、


「師匠は劇強いし、天位の座を目指しているんですよね?」

「ええ」

「なら、師匠なら蒼の軍勢と戦えますか?」

「…………」


 なるほど、確かに聞きづらい質問だろう。タワワにしても、色んな意味で答えづらい。

 タワワは、ヒビキがヒビキであることをナナルーに

 告げてない。


「たわわちゃん! お願いだから、しばらく内緒にしてて! 考えと覚悟が決まったら、ちゃんと俺から話すから!」


 そう言われて、はや10日だ。口が回る方でもないし、上手い解決策を思いつくわけでもない自分は、余計な事は言わないことにしている。

 そろそろ、なんとかして欲しいと思うが、ヒビキが本気で悩んでいることも知ってる。

 タワワは若干悩んで、正直に答えることにした。


「私は冬景色との戦いを見たけど、数を揃えられて陣形を整えられたら、まず勝てない」

 

 ナナルーの表情が沈んだ。ヒビキより弱いタワワより弱いナナルーという力関係が明確だからだろう。

 というか、


「ナナルーはヒビキと冬景色の戦いを見なかったの?」

「ちょうど、その頃、依頼でこの都市を離れていたんですよ。私が知ったのは決闘の後です」

「そうなんだ……」


 見ていれば、今の馬鹿馬鹿しい状況はなかったのだが。


「あー……遠いですね……」

「ええ」


 ナナルーの独白にタワワは頷いた。この娘には才能がある。いずれは上級冒険者の中でも指折りになるだろうとは思うのだが、それぐらいでは、とてもじゃないがヒビキを倒せはしないだろう。

 だというのに、


「でも、諦めません! 師匠には鍛えてもらっていますし、パーティー仲間にも応援してもらってますし、それに、他にも協力してくれる人がいるんです。だから、いつか、必ず勝ってみせます!」

「そう……」


 無謀だ……とは思う。ただ、タワワは高い目的に向かって努力する人間が嫌いじゃない。


 ――私も、ヒビキを超える為に、今の自分の限界を超えなきゃ……。


 胸の内でそんな決意を固めていると、


「ところで師匠は、ヒッキーさんとは、どこまでいっているんですか?」


 唐突に意味のわからないことを問われた。

 思わずナナルーを見返すと、その顔が好奇心で満ち満ちていた。本当にころころと表情が変わる娘だ。


「どこまで……とは?」

「またまた……もう、付き合っているのか、まだ付き合っていないのか? デートはしたのか、キスまでやっちゃっているのか? そういう意味での、どこまでですよ」

 

 何を聞かれているのか、今度はわかった。いわゆる恋バナというやつだ。

 カテュハが、割とそういう話が好きで、何かと話題を振ってくるが、ナナルーも同じタイプらしい。

 とはいえ、タワワにそんな話しを持ってこられても困る。


「別に、あいつとは、付き合ったりとか、そんな関係じゃない」


 自分の思うところを正直に伝えると、


「ええええっ⁉︎」


 ナナルーに、そんな馬鹿なって、言わんばかりに驚かれた。


「……なに」

「いや、だって、ヒッキーさんの方は、師匠のこと好きですよね? もう、一目瞭然ですよね?」

「…………」


 そんなことはない。……とは言えなかった。確かに一目瞭然の態度だし、そもそも、過去にプロポーズされたこともある。といっても、それをナナルーに喋るつもりなどないが……。


「でもって、師匠もヒッキーさんのこと、結構、露骨に特別扱いしてますよね?」

「してない」

「えー、してますよ。この前一緒に街に出かけた時、周囲を群がる男どもに、鬱陶しいから近づくなオーラ、ガンガン出してたじゃないですか? でもって、ヒッキーさんが現れると、コロッと無くなったじゃないですか? だから、てっきり私、そういう関係なんだとばかり思っていたんですけど?」

「違う、誤解」

「でもでも! 私たちが初めて出会った時、師匠、ヒッキーさんに押し倒されていたじゃないですか⁉︎」

「あれは、あいつが転んだだけで、私はただ巻き込まれただけ」

「いや、でもヒッキーさんが転んだとして、師匠が巻き添えになりますかね? 師匠はいつも、大体2メートル以内の動向を把握してますよね? それこそ、今だって」


 その唐突とも言えるナナルーの言葉は、タワワを驚かせた。


「⁉︎ 貴女、私の境界を知覚できるの?」

「これ、境界って言うんですか? ええ、なんとなくですけど、わかりますよ」


 ナナルーはあっさりと答えたが、境界を知覚できる人間は数少ない。

 どうやら、予想以上に才能があるようだ。

 そう思いながら、境界の説明を始めた。


「境界は、気配や殺気を感じ取る力を、広げたもの。もし、貴女が習得できたなら、目と耳だけで戦う他の冒険者より、はるかに優位に立てる」


 リンゴレッドでは奥義とされている技だ。タワワが天才と呼ばれる切っ掛けになった技でもある。


「凄い! 私にも教えてください!」

「貴女には、まだ早い。もっと基礎を積んでからにしなさい」


 気配を感じ取るくらいなら、戦いに身を置く人間なら、大抵経験はあるだろうが、それを、見る、聞く、と同じように使うとなると、難しい。

 もし今、ナナルーが習得出来たとしても、逆に害にしかならないだろう。

 そう説明すると、ナナルーはガッカリしたが、次の瞬間には不思議そうな顔に変わった。


「でも、そんな凄いものがあるなら、やっぱり師匠が巻き添えになるとは思えないんですけど?」

「…………」


 タワワはナナルーの質問に答えられなかった。

 いや、実際、あの時、タワワが巻き添えを回避することも出来た。

 でもしなかった。手を掴まれていた状況で下手に動くと、あいつが怪我をするから動くに動けなかったのだが、それはつまり、自分は……。

 難しい顔で黙り込んだタワワに、ふいに真面目な顔でナナルーが告げた。


「師匠は、あんまり、恋愛上手じゃないですよね。でも、世の中なにがあるかわからないんですから、好きな人はちゃんと捕まえとかないと、明日いなくなっても知りませんよ」


 その言葉には、意外な程、心情が込められていることが分かって、余計なお世話――そう返すことができなかった。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 合間に挟まれる恋愛描写がたまらなく好きです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ