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112 恋する鉄体師、その4です。

 ヒビキ=ルマトールが敵なんです。目の前の少女は、そう言った。

 それに対して、当の本人である俺は乾いた笑いしか出なかった。

 いやー、そうか、悪夢の様な男って俺の事だったのか……つーか、


「じゃあ、売られていったお隣さんって、フルルのこと?」


 俺が思い浮かんだことを、そのまま問いかけると、女の子は怪訝そうな顔をした。


「はい、そうなんですけど……フルルのこと知っているんですか?」


 この質問に慌てた俺は、


「いやいや、初めての転移持ちだから、皆、名前くらいは知ってるよ。ヒビキ=ルマトールと同じくらい有名なんじゃないかな?」


 つい、誤魔化してしまった。

 幸い、女の子はそれに気が付かなかったが、


「それもそうですよね。今じゃあ飛天なんて呼ばれてますし、私も転移の件でフルルの消息を知ったんです」


 そう言い終えると、怒ったような表情を浮かべ、


「あああっ! ヒビキ=ルマトール! 許すまじ!」


 俺の名前を叫びながら、恐らくは虚空にイメージした俺に向かって容赦なく蹴りを入れた。

 その大気を切り裂くかのような蹴りは、くらったら首の骨が折れそうだ、ちょっと俺には防げそうにない。


 ――うん、俺のことは黙っとこう。……つーか。


「ええっと……今の話のどこらへんに君の怒りポイントがあったの?」


 ――俺、さっぱりわかんなかったよ?


 そんな無知なる俺に、女の子は懇切丁寧を教えてくれた。


「だって、普通の空間術師は転移なんて覚えないんですよ? なのにフルルは覚えている。つまり、転移を覚えるほど無茶なレベル上げをやらせたんです! フルルは体が弱いのに!」

「…………」


 誤解だ。フルルのレベルが上がったのは、ギロチンや紫煙花を育てたことの影響で、無茶なレベル上げなんぞしてねぇ……と思ったが、紫煙花の育成を泣く程嫌がったフルルに、主人として強引にやらせたわけで、この娘の言うことにも一理ある。



  ――うっ……俺、ひどい主人だったのか……。


 そう気持ちが沈む俺に更に追い討ちがかかった。


「そんな非道な男に、いつまでもフルルを預けて置く訳には行きません! 必要なら闇討ちも辞さない覚悟です!」


 闇討ちは止めて欲しい。いや、ホント、マジで止めて欲しい。死ぬよ? 俺が。


「それは止めとこうよ。まずは話し合いからでいいんじゃないかな?」


 俺の提案に女の子は首を横に振った。


「無理に決まってます。噂によると、今は亡き冬景色はフルルを手に入れる為に5億ゼニーを提案して、議論の余地なくはね退けられたらしいですから」

「いや……そうだけどさ……」


 冬景色には突っぱねたけど、フルルの幼馴染なら、また違う対処をするよ? そう言いたいけど言えない。

 本気で困った俺は、チラッとたわわちゃんを見た。

 視線に、助けてくれないかなぁ……って感じのSOSを載せると、私には無理、自分でなんとかしなさいって感じの視線を返された。


 ――いや、でも、自力で解決するには、ちょっと厳しいな……。


 この娘の俺に対する印象が悪すぎる。


「それだけじゃありません! 噂を聞く限りヒビキ=ルマトールという男は、非道で碌でもない男なのは間違いありません!」

「ええっ⁉︎ 一体、どんな噂⁉︎」


 俺の素の質問に、女の子はつらつらと答えた。


「噂によると、敵対した冬景色を一人残らず皆殺しにしたらしいです。なんという残酷な男なのでしょう!」


 してねえ! んなことしてねえ! 一人も殺してねえよ⁉︎


「他にも、少しでも気に入った女の子がいると、分身たちに攫わせて、夜な夜ないやらしいことをしているとか! 女の敵ですね、天誅にすべきです!」


 してねえ! 俺はたわわちゃん一筋の男!


「いや、待って、それは流石に根も葉もない噂だと思うよ? そんなことしたら警邏もギルドも黙ってないじゃん?」


 俺は精一杯、反論したが真顔で返された。


「そこが、あの男の非道な所なんです! 噂によると、あの男は分身たちを使って、人の弱みを握ることを生きがいにしているとか! 警邏の偉い人もギルドの偉い人も脅されていて手が出せないそうです! ……更に!」

「まだ、あるの⁉︎」


 もう、お腹一杯なんだけど!


「街の至る所で、分身たちに盗み聞きさせていて、自分の陰口を叩いたやからには、陰険な報復を行なっているという噂もあります! 今の私のヒビキ=ルマトールへの罵倒も、もしかしたら相手の耳に入ってしまうかもしれないんです!」

「…………」


 どうやら冬景色とのイザコザで目立ったことで、謂れのない噂話が出回ったみたいだ。有名人のあるあるで、ある程度仕方ないかもしんねーけど、地味に傷つく。


「因みに、そいつのいい噂ってないの?」

「ありましたけど、そっちの方はなんの根拠もない噂ですね。私の直感がそう告げています」


 ずいぶんとあてにならない直感だ。今すぐ捨てた方がいい。


「で、でもさ、あんまり噂を鵜呑みにしない方がいいかもよ。それに俺の知ってる噂だと、その無限術師と空間術師は結構仲良くやってるみたいだよ」

「……仮にそうだとしても、奴隷は結婚できないじゃないですか? そんなの駄目です」

「お……おう、それはそうだな……」


 この子、気がはやいな。結婚前提なんだ。

 でも、それだけ本気ってことかもしれない。

 そして、彼女は次の言葉を力強く言った。


「この都市で奴隷として冒険者を続けるより、故郷で私と畑を耕している方が絶対に幸せなんです。それにフルルの両親とも約束しました。絶対にフルルを連れて帰るって」

「…………」


 俺は沈黙した。

 色々と突っ込み所のある女の子だけど、今の言葉だけは、ちょっと否定できない。

 つい暗くなった俺に、女の子は慌てた。


「いや、そんなに心配しなくても、今はまだ戦いませんよ。相手と私に天と地程の実力差があることはわかっています。蒼の軍勢に挑むのは、もっと力をつけてからです」


 ――そうじゃない。そうじゃないんだ。


 思いっきり的を外した弁解だった……のだが、俺はつい、


「そっか……じゃあ応援するよ」


 なんていう阿呆なセリフを言ってしまった。


「ありがとうございます!」


 はじけるような笑顔で、女の子はお礼を言った。


 ――あー……ドツボ。


 ……。

 ……。


「そう言えば、自己紹介していませんでしたね、ナナルーです。――そちらは?」

「あー……俺はヒ……」

「ヒ?」

「ヒ……ヒ、ヒッキー、そうヒッキーだ」

「ヒッキーさんですか、これからもよろしくお願いします」

「あ、ああ、よろしく」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そこも、拭いとけよ」

「はいよー」

「布巾たんねーぞ」

「こっちにあるぞー」

「隊長。草刈も、とりあえず俺らでやっときますか?」


 分身に問われた俺は、


「ああ、適当にやってみてくれ。駄目だったら庭師を雇うから」


 そう答えた。

 一体なにをやっているかと言えば、新居の掃除だったりする。今日、俺は新居を買ったんだ。

 どんな家かって言えば、一言で表すならとにかく広い。

 家もデカいし、離れもあって、倉庫もある。何より家の前の庭というか広場が軍勢を並べるのに丁度いい。

 元は使用人をずらりと並べるような貴族の屋敷だったらしいのだが、お家騒動かなんかで色々あったとか。これだけ広いと維持費だって馬鹿にならないし、召使いだって何人も必要で、ならいっそ手放す事になったとかならないとか。

 何はともあれ、大所帯の俺にはもってこいだ。そして、屋敷を買って最初の仕事が掃除と、整頓だ。


「離れは全部、武器庫になんすよね?」

「塀の一部、壊れてますわ。どうします?」

 

 次々と問題が持ち込まれてくるが、次々と分身を送り出して、人海戦術で乗り切っている。人手があるって便利でいい。

 そんな中でも、ちょっと困った問題が一つ、


「今までと違って、お屋敷っすから、泥棒なんかに狙われるかもしれないですよね? 仮に泥棒じゃなくても、どこぞの鉄体師あたりが襲ってくるかも……警備に俺らを回します?」

「そーだな……」


 俺はつい数日前に出会った女の子を思い出しながら、


「とりあえず、代行権も使って警備体制は24時間体制で敷いとこうか」


 そう決めた。いや念の為にね……。


「それにしても、あの娘のこと、どうすっかなー……」


 ここ数日、そのことで悩んでいた。

 成り行きとはいえ応援すると言ってしまったし、フルルを故郷に連れて帰ってやりたいという思いについては少なからず共感できる。

 でも、フルルが居なくなったら俺が困るのも事実だ。

 転移も使えない、紫煙花の育成も出来なくなる。致命的だ。

  何より俺が寂しい。


「んー……」


 俺は分身たちに混じって掃除をしているフルルに視線を向けた。分身に任せとけばいいのに律儀な奴だ。


 ――せめて、あの娘のことは伝えとくか? 幼馴染なんだし……。


「フルル」

「はい?」

「…………」


 自分で声をかけた癖に、続きが出てこなかった。


「どうしたの?」


 怪訝そうにフルルが問いかけてくるが、


「……いや、なんでもない」


 そう言って誤魔化した。

 うん。もうちょっと考えるわ。



こんばんは、カロリーゼロです。

前回、後書きで書籍化の話をしたら、たくさんの感想やレビューを頂きました。ありがとうございます。

書籍化の正式な日取りも決まりました。

5月25日にオーバーラップ文庫さんから出させて頂きます。

その日はきっと、朝一から本屋に並んで、本が発売されているのを見に行くんだろうな……という気がします。


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